長期ビジョンの必要性を感じる企業は8割以上
アンケート調査から、長期ビジョン※1を構築している企業は全体の35.7%と年々増加しているものの、6割以上(64.3%)の企業が未構築の状況であることが分かった。一方、長期ビジョン構築の必要性を感じている企業は2023年より増加し、全体の8割以上にのぼる。
長期ビジョン構築の目的は、「企業の将来における戦略的方向性を定める基盤とするため」が88%で最も多い。また「社員の一体感・モチベーションの向上」(65.1%)、「収益・財務構造の変革を促すため」(61.1%)は2023年に比べて10ポイント以上増加している。ここから、長期ビジョン構築による社員の意識改革、経営の変革への目的意識の強まりが見て取れる。
※1 思い描いた未来(将来の自社がありたい姿やなりたい姿)を構築・明文化したもので、10年以上先の未来を指すことが多い
上場企業の9割以上が中期経営計画を策定
中期経営計画※2については、76.3%の企業が策定していると回答。上場企業に絞ると94.3%の企業が中期経営計画を策定しているが、非上場企業では7割に満たない状況であった。
中期経営計画を策定していない企業に対し、策定していない理由についてもアンケートを行ったところ、「今まで策定したことがないため」が最多(32.8%)であった。次いで「策定する組織・メンバーが社内に存在しないため」「時間的な余裕がないため」がそれぞれ24.1%を占めた。
「策定する組織・メンバーが社内に存在しないため」という回答割合は2023年と比べて半減しており、多くの企業が策定できる人材の獲得に動いたことが推察される。しかし、「漠然と必要性を感じていないため」という回答は8.6%で2022年、2023年と比較して減少しており、中期経営計画の必要性を感じながらも、社内のリソース不足により策定できない状況にあることがうかがえる。
※2 約3年~5年の区切りで設定する経営計画のことで、主な役割は長期ビジョン達成のための経営計画であることが望ましい。一般的に設定される項目としては事業の数値目標や人員体制、ターゲット市場や施策などが挙げられる
社内全体への浸透が課題に
上場企業の約4割の企業において、長期ビジョン・中期経営計画を経営企画部が中心となり策定している一方、非上場企業では約7割の企業において経営幹部および役員が中心となって策定しており、上場企業と比較すると経営企画機能が不足していることが読み取れる。
また、上場企業、非上場企業ともに「次世代メンバーが中心となって策定」の割合が一定数存在しており、企業の次世代を担っていく社員に対して経営参画意識を向上させることも目的としていることが考えられる。
長期ビジョン・中期経営計画の浸透状況については、「社内全体に浸透している」と回答した企業は22.1%、「浸透していない」と回答した企業は8.0%となっている。
階層で見ると「役員・経営幹部まで浸透している」が16.0%、「管理職層まで浸透している」が28.2%であり、部門で見ると「事業部レベルまで浸透している」が6.7%、「部門レベルまで浸透している」が19.0%となっている。
これらの結果から、管理職以上と一般社員とで浸透度合いが異なっており、全社的な浸透施策に苦戦していることがうかがえる。
戦略・人材不足など長期ビジョン・中期経営計画の推進に関する課題が浮上
現在の長期ビジョン・中期経営計画の課題については、2023年に引き続き「具体的な戦略の不足」が最多となった。また、「定期的に計画・ビジョンを見直す仕組みがない」と回答した企業が2023年、2022年比で一貫して増加しており、戦略を構築できる専門部署や人材の不足、長期ビジョン・中期経営計画を推進する体制や取り組みに対する課題が読み取れる。
次期の長期ビジョン・中期経営計画における重点テーマとして一番多かったものは、「収益改善、新商品・新事業開発」(67.6%)、二番目に多かったテーマが「事業ポートフォリオ戦略策定・転換」(37.3%)、次いで「人的資本経営・人材育成・採用(タレントマネジメントなど)」(35.3%)となっている。
次世代幹部候補を巻き込んだビジョン・計画策定し、自分ゴト化しよう
予測困難な現代において、環境は目まぐるしく変わっていく。だからこそ、企業が向かうべき方向を示す長期ビジョンの存在が求められている。以上を踏まえて、タナベコンサルティングから以下を提言したい。
1. デフレ経済からインフレ経済の転換期に、長期ビジョンを構築する
多くの企業が長期ビジョンの必要性を認識していながら構築できておらず、組織としての未来創造機能の強化が求められる。現在は、デフレ経済からインフレ経済への転換期にある。
インフレ経済の経営の要諦は、「コストを抑え、回転率で利益を出す」モデルから、「投資をし、付加価値を上げて利益を出す」モデルへの転換である。それには、長期視点で事業、組織、人的資本、DXなどの戦略と投資のデザインを描くことが肝要だ。
2. 長期ビジョンと連動した中期経営計画を策定する
アンケート結果をみると、長期ビジョンを策定している企業の割合と中期経営計画を策定している企業の割合に乖離が生じている。
タナベコンサルティングが提唱する経営のバックボーンシステムにしたがえば、長期ビジョンと中期経営計画は互いに連動し、一貫している必要がある。中期経営計画単体での策定ではなく、長期ビジョンと併せた策定が重要となる。
3. 次世代幹部候補を策定段階から参画させることで、組織基盤の強化と推進力を向上する
次世代幹部メンバーが長期ビジョンの構築とその推進に参画することで、自社の成長機会を創出し、その成果が次の世代の事業を育てることや組織基盤の強化につながっていく。そのことを理解したうえで、主体となるメンバー編成の決定を行っていただきたい。
【調査概要】
調査名称 | 2024年度 長期ビジョン・中期経営計画に関するアンケート調査 |
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調査主体 | 株式会社タナベコンサルティング |
調査手法 | インターネットによる回答:490件 |
「2024年度 長期ビジョン・中期経営計画に関するアンケート調査REPORT」の全体版は、こちらから無料ダウンロードいただけます。