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コンサルティングメソッド
コンサルティング メソッド
タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティングメソッド 2024.12.02

豊橋市が取り組む「とよはし未来産業人材プロジェクト」 近藤 正晴

豊橋市が取り組む「とよはし未来産業人材プロジェクト」 イメージ図

 

次世代を担う人材育成へ向け、支援事業をスタート


愛知県南東部に位置する豊橋市は2024年度、地域の企業をより活性化させるプロジェクトを立ち上げた。とりわけ企業の課題である「人材育成」にスポットを当て、さまざまな支援体制を構築し、推進している。本稿では豊橋市の取り組みについて紹介する。

 

豊橋市が2023年度に実施した事業者アンケート調査によると、事業者の約4割が従業員の人材育成に取り組んでいないとの回答だった。人材育成の取り組みに関する主な課題として、「従業員のやる気の喚起」「必要な時間の確保」「各従業員の成⾧課題の特定」が認識されている。

そこで豊橋市は、地域の産業発展を支えるために、次世代の人材育成を目的とした「とよはし未来産業人材プロジェクト」を立ち上げた。

豊橋市はまず、従業員の学びを促進する環境づくりや、キャリア形成の支援など、人材育成に積極的に取り組むことを宣言する「豊橋市人材育成推進宣言企業」を募集し、宣言企業には、補助金、講座、専門家相談などの人材育成を支援する体制を整えた。

この支援事業を豊橋市とともに実行するパートナー企業として、人材育成に関わるコンサルティングや教育・セミナーの実績があり、本事業の内容を理解し、成果の上がるイメージができる支援内容を提示したタナベコンサルティングが選ばれた。

 

主体的・継続的な学びを促す仕組みをつくる

豊橋市にとっては、「人材育成推進宣言企業」との相乗効果の創出を図りつつ、学びの機会の提供や、人材育成に関する相談窓口の開設、学びの意識を醸成する交流の場の創出などにより、地域の事業者における従業員の主体的かつ継続的な学びを促進する仕組みづくりが必要であった。

タナベコンサルティングが提案した内容は次の4つだ。

❶ 経営環境から見たリスキリングの必要性の理解促進(主にセミナーで促進)
「実施した方が良いのは分かるが実行できていない」状態から脱し、能動的に取り組みを進められるよう、経営視点で自社にリスキリングが必要な背景の理解を促す。

❷ 自社に適した手法選定と取り組み計画の策定
具体的な手法や成功事例を知らなければアイデアが生まれにくいため、自社での取り入れ方を検討することは困難。事例を学び、発想を得た上で具体的な計画に落とし込む。

❸ 企業・従業員が変わり、エンゲージメントが向上することで職場を活性
講座、勉強会、交流会、講演会、相談窓口など、あらゆる方法で経営者・従業員が現状と向き合い、自社の変革に必要なことを学び、自社内で展開して企業風土を変えてもらう。

❹ 実践モデル企業の創出と将来に向けた水平展開支援の実施(事業終了後の事例活用まで検討)
取り組みをモデル化し、将来的に他企業にも普及させるため、コンサルティング後に取り組み内容を事例としてまとめる。

 

6つのプログラムでとよはし未来産業人材プロジェクトを支援

 

この事業は、6つのプログラムで構成されている。

❶ 講演会
人材育成に取り組む意欲のある市内事業者を対象に開催。専門家に登壇してもらい、人材育成の重要性を認識する。

❷DX経営戦略講座
経営者、経営幹部を対象に開催。DXの具体的な取り組みと自社での推進体制を検討し、実行までつなげる。

第1回「ITリテラシー」:事例などを用いながらITの潮流とビジネスへの影響を認識する。また、IT投資の基本的な進め方などITリテラシーを広く学ぶ。

第2回「DXビジョンと4つのセグメント」:「DXを通じて何を実現したいのか=DXビジョン」を描く必要性を学ぶ。また、DXをビジネスモデルDX、マーケティングDX、マネジメントDX 、HRDXという4つのセグメントに分類し、各セグメントにおける事例やトレンド、検討すべき点を学ぶ。

第3回「DX戦略推進組織体制の構築」:いかに良い戦略を設計しても、普及・浸透しなければ意味がない。DX推進に重要な3つの視点(組織戦略・推進体制、カルチャーの醸成、モニタリング機能の確立)を学ぶ。

❸ リスキリング実践セミナー(DX編)
DX推進リーダーとして必要な知識や改善具体策を学び、共に推進する組織を構築することで社内変革を実現する(第1回:DX事例・デジタル技術のトレンド、第2回:業務効率化を実践する、第3回:業務改善ツールの実践、第4回:デジタル活用・DXを推進する組織づくりのポイント)。

❹ 人材育成交流会
経営者や従業員、事業者の規模や種別といった枠を超えた学び合いを促し、地域一体となって学びに取り組む意識を醸成するための交流会を開催。成果を上げている企業の経営者・役員をゲスト講師として招き、直接事例を紹介いただくとともに、交流会終了後に情報交換会を設ける。

❺ 人材育成に関する相談窓口の開設
「人材育成」についての相談を専門メンバーで支援する。メールや相談フォームなどで相談の受付・回答を行い、必要に応じてオンラインや対面での相談対応を実施。

❻ 人材育成の課題解決に向けた伴走支援
選定された5社の人材育成をサポート。人材育成の課題をインタビューや資料分析、ディスカッションから洗い出し、貴社の目指すべき方向性を一緒に定める。目標を達成するために、人材育成に関する仕組みの構築や実施訓練を展開する。

とよはし未来産業人材プロジェクトの展開によって、①自社のリスキリング推進ロードアップ策定支援によって実践モデル企業を創出する、②実践モデルの豊橋市内他企業に対する横展開のきっかけとする、ことが狙いとなる。

外部環境変化の激しい現代、企業は常に変化を求められており、特に中小企業においては新たなビジネスモデルへの転換が求められている。人材においても、新たなビジネスモデルに対応できるスキルを身に付けていることが不可欠だ。本事業を通じて、豊橋市は地域企業の持続的な成長を支援し、未来の地域経済発展の礎を構築しているのである。

PROFILE
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近藤 正晴
MASAHARU KONDOU
タナベコンサルティング
ファイナンス・M&Aゼネラルパートナー

トップ・幹部と一体になった経営視点からの生産性改革コンサルティングで幅広く活躍中。特に、製造業・建設業の原価改善・生産性向上を実現させ、高収益体質へと多くの企業を変革させている。「全ては基本から」を信条とした現場主義の改善活動で、社員のモチベーションアップ、人材の育つ社風・体質づくりにつなげている実績に対しても高い評価を得ている。