事業戦略を効果的に推進し、成果を上げるためには、組織変革がビジネスモデル全体の変革を促進するものでなければならない。長期的なビジョンと事業戦略を描いても、効果的に推進する組織が整備されていなければ、収益率や生産性の向上は困難である。
特に、組織図が曖昧な企業は、役割の明確化が不十分であることが多い。言い換えるなら、計画推進には、企業の歴史ともいえる組織の再編が最も重要である。本稿では、組織変革を通じて働き方を変革するための重点について解説する。
1. 事業戦略と組織構造の整合性
事業戦略と組織構造が一致していないと、戦略の実行力が損なわれてしまう。戦略の推進においては、専属体制の見直しや権限委譲の調整を行い、組織全体が戦略に基づいた行動を取れる体制づくりが求められる。組織デザインの見直しにより、社員が自律的に働き、創造的な業務に集中できる環境を整えることが可能となる。結果として、従業員の満足度が向上し、企業全体の生産性も向上する。
2. 非財務情報・無形資産への投資の強化
ビジネスモデルの転換には、有形資産への投資に加え、非財務情報や無形資産への投資が不可欠である。組織のエンゲージメントを高めるためには、人的資本のマネジメントやDXが極めて重要である。
① エンゲージメント強化策:社内アカデミーの設立や階層別研修などの人材育成プログラムを導入し、社員のスキル向上と組織の一体感を高めることが重要となる。社員が自己成長を実感できる環境は、高いエンゲージメントと業績向上をもたらす。
②DXの推進:バックオフィス機能を「守り」から「攻め」へ転換し、戦略的な意思決定力を向上させる。社員がクリエイティブで価値の高い業務に集中できる環境の構築が生産性向上に寄与する。
3. 未来戦略機能の強化
企業の持続的成長には、新たな事業機会を見いだし、事業の方向性を定める「未来戦略機能」の強化が必要である。バックオフィス機能の企画力を強化し、“作業型組織”から“ジョブ型組織”へ転換することが、事業戦略との一貫性、直接部門比率の向上に貢献する。ジョブ型組織では新たな市場での成長機会を迅速に捕捉でき、持続可能なビジネスモデルの確立が可能となる。新しい市場や技術への対応力を持つことで、変化に強い組織を構築し、社員が挑戦し続ける環境を確立できる。未来戦略機能の強化は、働き方改革の一環としても重要となる。社員は自らのキャリアビジョンと企業の成長ビジョンを結び付け、積極的に新しいアイデアを生み出すことが可能となる。
4. 成果を上げる組織能力の構築
組織全体で成果を上げるには、MVV(Mission・Vision・ Values)に基づく一貫した組織文化を醸成し、共通の目標に向かって進む文化を確立することが極めて重要である。これは、社員一人一人が自分の役割を理解し、企業の目標達成に向けて自発的に行動する環境の構築に必要不可欠である。
また、AIなどの最新技術が発展する今、異なる視点やスキルを持つ、多様で専門分野の異なる人材が集まることで、イノベーションの創出が促進され、組織全体の競争力が向上する。こうした職場の実現には、高い心理的安全性が不可欠である。失敗を恐れず発言できる風土を育むことで、創造的な挑戦が奨励され、組織の成長を加速させる。
A社は、急速にシェアを拡大した革新的なITソリューションプロバイダーである。しかし、その成長スピードに組織の基盤整備が追い付かず、業務の重複や部門間の連携不足が顕著になり、プロジェクトの遅延によって顧客満足度が低下した。A社は解決に向け、大規模な組織変革プロジェクトを実施し、次の施策を講じた。
1. 組織構造の再設計と役割の再定義
組織のフラット化を推進し、各部署の役割と責任を再定義。特に、プロジェクト管理部門を強化し、プロジェクトごとに専任のチームを編成することで、責任の所在を明確化した。また、ミドルマネジメントの権限を強化し、迅速な意思決定を可能とした。これにより、プロジェクトの進行スピードが大幅に改善された。
2. DXの加速
AIとRPAを導入し、業務プロセスの自動化を促進。特にルーチンワークの自動化により、社員がクリエイティブな業務や問題解決に集中できる環境を整備した。また、進捗をリアルタイムで把握できるプロジェクト管理ツールを導入したことで、業務の透明性が向上し、全社での情報共有がスムーズになった。
3. 社員エンゲージメントと企業文化の強化
社員のエンゲージメント向上を目指し、ビジョン浸透における定期的なワークショップを開催。これにより、社員が会社のビジョンと戦略を理解し、自らの役割の重要性を認識するようになった。さらに、リーダーシップ研修を通じて、部門長やプロジェクトリーダーが、チームのモチベーションを引き出し、協力して成果を出すためのスキルを磨く機会を提供。職場環境の改善や福利厚生の充実も図り、社員が安心して働ける環境づくりを推進した。
これらの結果、わずか1年で生産性が15%向上した。プロジェクトの納期遅延が減少し、顧客満足度は劇的に向上。社員のエンゲージメントスコアも上昇し、離職率が過去最低にまで低下した。これらによって長期的な成長基盤が確立され、業界内での競争力を強化する結果となった。
企業が持続的に成長し、変化し続ける市場環境に対応するには、事業戦略と組織構造の緊密な連携が不可欠である。特に、組織構造が明確でない場合、戦略の実行力が損なわれ、生産性の向上が困難になることが多い。組織構造の変革は、労働時間の短縮や残業削減にとどまらず、企業の競争力を高め、社員が持続的に成長できる環境を構築するための包括的な取り組みとなる。いわば、働き方改革を推進する強力な手段である。
企業は、社員のキャリアビジョンと企業の成長ビジョンを一致させることで、互いに協力しながら目標を達成できる環境をつくることが重要である。社員の声を積極的に取り入れ、フィードバックを反映させることが不可欠であり、オープンなコミュニケーション文化の確立が鍵となる。
社員一人一人が自らの仕事に誇りを持ち、企業のビジョン実現に貢献できる環境を整えることこそが、真の働き方改革の実現と言える。これにより、企業は持続的な成長を遂げ、競争力を維持し続けることができる。
ストラテジー&ドメイン チーフマネジャー
大手ハウスメーカーと建築資材メーカーにて営業を経験後、タナベコンサルティングへ入社。誠実・真摯であることをコンサルティング信条とし、中長期ビジョン構築支援コンサルティングをはじめ、営業会議の推進・技術伝承の実行推進支援など、幅広いコンサルティングに携わる。また、建築業界の経験を生かし、住まいと暮らし・ライフスタイルの優良企業のビジネスモデルに精通している。