コーポレートファイナンスの目的とは何だろうか? 端的に言えば、「企業とさまざまなステークホルダーの良好な関係を通じて、企業価値向上や価値創造を実現していくこと」である。ファイナンスは「財務」「金融」という意味であり、主要な役割は資金調達や調達した資金の運用による事業成長、そして事業の成長を株主や債権者へ還元することである。
しかし、最近は企業と投資家との関係に焦点が当たることが多く、特に気候変動やESG(環境・社会・ガバナンス)を意識した事業投資、M&Aなどのファイナンスも重視されている。単なる会計管理ではなく、財務の視点から経営全体でどのように企業価値を向上させるかというアプローチが不可欠になっている。
コーポレートファイナンスにおけるテーマを外部環境やキーワードで整理すると【図表1】に集約される。
【図表1】コーポレートファイナンスの主要テーマ
出所:タナベコンサルティング作成
価値を創造し、向上させる主体は企業である。企業は、ヒト・モノ・カネ・情報・ブランド・技術・ノウハウなどの経営資源を用いて事業戦略・経営戦略を実行し、社会に貢献することで価値を創造する。すなわち、企業の目的は、自らの価値を上げ社会貢献することである。
企業価値は経済的価値と社会的価値から成る。経済的価値の向上は、主に財務戦略として成長分野への投資による将来の収益とキャッシュフローを最大化することである。一方、社会的価値の向上は、主に非財務戦略として、ESGへ配慮・注力し、将来へ向けて持続的な成長を実現することである。
先行き不透明な現代において、財務資本(有形資産)だけでは企業価値が測りにくくなりつつあり、今後はさらに非財務資本(無形資産)の定量化による総合的な企業価値向上の施策が必要になっている(【図表2】)。
【図表2】非財務資本と財務資本の関係性
出所:タナベコンサルティング作成
企業価値を測る指標として、近年よく使用される指標が「PBR(株価純資産倍率)」である。この指標は、「PBR=時価総額÷純資産」で算出され、非財務資本が企業価値にどれだけ寄与しているかを表す。詳細にいえば、PBRが1倍であれば、会計上の価値(純資産)と企業価値(時価総額)は同等であり、PBRが1倍より高く会計上の価値を超えている分は、非財務資本による付加価値と言える。
PBRが1倍未満の企業の割合は、米国(S&P500)で3%、欧州(STOXX600)で18%なのに対して、日本(TOPIX500)は43%と極めて大きい※1。
この現状から、非財務資本による企業価値向上を実現している企業の割合が、欧米に比べて非常に低い状況にあることが分かる。
次に、時価総額に占める無形資産の割合を見てみると、米国市場(S&P500)の時価総額に占める無形固定資産の割合は年々増加しており、2020年には時価総額の90%と、企業価値評価において非財務情報に基づく評価が大半を占めている。これに対し日本市場(日経225)では、無形資産32%、有形資産68%と有形資産が占める割合が大きい※2。
また、日本の上場企業のCFO(最高財務責任者)に対するアンケート調査(有効回答数:461社)によると、企業価値に大きな影響を与えると考えるサステナビリティ関連項目は、「人的資本の開発・活用」が77%と最も高く、「気候変動」(69%)、「ダイバーシティー」(53%)、「知的資本の開発・活用」(34%)が続いている※3。
日本の経営者が、非財務情報で最も重視している項目は「人的資本」だが、実態としては人材投資が他国に比べ圧倒的に少ない。
欧米に比べたときの人的投資のGDP(国内総生産)比の低さに加え、年々減少している人材投資が、日本の企業価値や生産性の低さの要因の1つと考えられている。
※1 経済産業省経済産業政策局「グローバル競争で勝ちきる企業群の創出について②」(2022年4月)
※2・3 内閣官房新しい資本主義実現本部事務局、経済産業省経済産業政策局「基礎資料」(2022年2月)
収益・財務戦略構築を専門分野として、建設、住宅、製造、小売業など幅広い業界でコンサルティングを実施。企業再生、組織再編、事業承継などのターンアラウンド支援も数多く手掛けてきた。「1社でも多く企業の成長を誠心誠意サポートする」をモットーに、さまざまな経営課題を解決に導く経営者のパートナーとして高い信頼を得ている。