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100年経営対談
100年経営対談
成長戦略を実践している経営者、経営理論を展開している有識者など、各界注目の方々とTCG社長・若松が、「100年経営」をテーマに語りつくす対談シリーズです。
100年経営対談 2024.11.01

世界を変革するリーダーは「想い」を起点に未来をつくる 国際基督教大学 理事長 竹内 弘高氏

暗黙知と形式知が融合し新しい「ナレッジ」が創られる

若松 TCGは、暗黙知と形式知、組織的な知識創造に多くの投資をしてきました。例えば、ナレッジ・クルーとして戦略総合研究所を創設し、データベースの構築や、経営者の「決断」をサポートするメディア『TCG REVIEW』の企画・運営をしています。また、プロフェッショナルを育成する企業内ビジネススクール『TCGアカデミー』には、リーダーシップ学部やデジタル学部、M&A学部といった学部があり、約900の動画コンテンツを収録しています。講師はTCGの経営コンサルタントが務めており、社員ならいつでも、どこでも学べる環境を実現することで、ナレッジの共有化、共同化のスパイラルが生み出されています。

他にも、2009年に「K-1賞(ナレッジ・ナンバーワン・アワード)」を創設し、経営コンサルタントやスタッフの成功事例やメソッド開発を表彰しています。目指すのは、自由闊達かったつに開発する組織。どんどん実験して、マーケットに試していくような組織づくりを推進しています。

竹内 ナレッジとは2つの異なる知。つまり、暗黙知と形式知です。形式知は全てデジタル化できます。一方、暗黙知である経験や志、夢などは、なかなかデジタル化できませんが、この2つの知の相互作用を通じて新しい知が生まれます。異なったものが新しく結合することによってイノベーションが起きるのは、経済学者であるヨーゼフ・シュンペーター氏の考えと同じ。経営コンサルタントは知識と同時に経験もお持ちですから、クライアントと接する中で形式知と暗黙知をいかに融合させるかが鍵になります。

若松 ナレッジはTCGのコア・コンピタンスであると考えています。昨今は、しきりに「人的資本経営」や「非財務資本」の重要性が叫ばれていますが、30年以上前に書かれた『知識創造企業』でその必要性はすでに説かれており、欧米に日本企業の「企業は人なり」を紹介されていました。1990年代以降、日本経済はデフレと低成長が続く「失われた30年」を歩む間に、欧米は日本から発信された「ナレッジマネジメント」を懸命に学んだ。結果、私は、日本に「人的資本マネジメント」と名前を変えて逆輸入されてきたと分析しています。

竹内 ブーメラン現象ですね。戦後に活躍したソニー創業者である盛田昭夫氏のスピーチは有名です。「Japan has no natural resources(日本には天然資源がない)」から始まり、「But we have people(しかし、私たちには人がいる)」と続きますが、あの時代の経営者は人を大事にして、生かした。失敗は当たり前。エンジニアが自由闊達に活躍できる風土がありましたし、失敗が膨大な暗黙知の蓄積につながりました。運が良いことに野中先生と私は、戦後に成功した日本企業の経営者たちと実際に接する中で暗黙知の重要さに気付き、発信したのです。

「wisdom」は高次元の暗黙知。つまり知恵のことです。英語圏ではよく「Mother’s wisdom」と言いますが、日本語で言うなら「おばあちゃんの知恵袋」ですね。日本では経験をベースとした知恵が、次の世代、その次の世代へと引き継がれてきました。それによって日本が強くなったのだと欧米企業は気付き、学んだのだと思います。

VUCAの時代にこそ「知恵」を重視する経営を

若松 松下幸之助氏、本田宗一郎氏、井深大氏をはじめ、戦後の経済成長に活躍した優秀な経営者の皆さんは「企業は人なり」と言い続けました。成功した創業経営者の実体験からくる言葉だったのだと思います。

情報や知識、知恵を実装する企業を目指す意味でも、人的資本経営や非財務資本という視点が重要になります。欧米が実装したナレッジマネジメントの究極の姿が生成AIなのかも知れません。だからこそ、日本企業はそれを凌駕りょうがする「組織における本物の知恵」を見つけ、新しく創造するステージにきています。

竹内 日本には本当に多くの知恵があります。先人の多くはそれにのっとった経営をしていたと思いますね。例えば、JALをV字回復させた稲盛和夫氏もそう。知恵は生き方から創られるものなのです。

若松 知恵が大切にされていた時代、日本は世界からうらやまれる国でした。今と何が違うのか。また、その姿を取り戻すために日本企業やリーダーは何をすべきでしょうか。

竹内 Netflixの創業者であるリード・ヘイスティングス氏は、「VUCAの時代にはAgility(俊敏性)、Speed(スピード)、Creativity(創造性)の3つが大事だ」と言っています。世界からうらやまれていた時代、日本の企業は全てを持っていました。

例えば1964年、東京オリンピック開会までに東海道新幹線を開通させて世界を驚かせた俊敏性やスピードはまさにそうです。あるいは、創造性の基礎はたくさん失敗することですが、1950年代、1960年代の日本企業はとにかくがむしゃらでした。がむしゃらに次々とアクションを起こしており、そこが魅力だったのではないでしょうか。コンプライアンスも重要なのですが、日本企業は少し優等生すぎる印象があります。

若松 がむしゃらは、俊敏性、スピード、創造性を含むぴったりの言葉です。不確実性の高い今の時代こそ、高い志をもち、そこへ果敢に挑む野性味あるリーダーが求められています。

本日は幅広いテーマから多くの学びをいただきました。TCGは、世界で唯一無二の経営コンサルティングファームを目指しています。最後に、一緒に事業を創造していくTCGメンバーにメッセージをお願いします。

竹内 今、必要なのはChange&Directionです。変化とその方向性をクリティカルかつクリエイティブに物事を考えて議論すること。デジタルを使ってデータ分析するだけでなく、一人一人が高い志を持ち、野性味を持ち、外へ出て多くの知恵に触れて欲しいと思います。

若松 ありがとうございます。TCGは、「経営コンサルタントの現場主義を重視し、そこから生まれた実証済みのナレッジを提供しよう」と伝えてきました。今回の学びを糧に、メンバーと一緒に世界で唯一無二の経営コンサルティングファームの創造を目指していきます。貴重なお話をありがとうございました。

 

※ Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字。不確実性が高く、将来予測が困難な状況を示す造語

国際基督教大学 理事長 一橋大学 名誉教授 竹内 弘高(たけうち ひろたか)氏
1946年東京生まれ。1969年国際基督教大学卒業後、1971年カリフォルニア大学バークレー校にてMBA取得。1976年ハーバード大学経営大学院(ハーバード・ビジネス・スクール)講師、1977年カリフォルニア大学バークレー校にて博士号取得後、ハーバード・ビジネス・スクール助教授に就任。1983年一橋大学商学部助教授、1987年一橋大学商学部教授、1998年一橋大学大学院国際企業戦略研究科初代研究科長、2010年一橋大学名誉教授、ハーバード・ビジネス・スクール教授を経て、2019年より現職。また、マッキャンエリクソン博報堂(現マッキャンエリクソン)東京本社、サンフランシスコ支社、マッキンゼー・アンド・カンパニー東京支社での実務経験を持つ。主な著書に『ベスト・プラクティス革命』(ダイヤモンド社、1994年)、共書に『知識創造企業』(野中郁次郎・竹内弘高著、東洋経済新報社、1996年)、『ワイズカンパニー』(野中郁次郎・竹内弘高著、東洋経済新報社、2020年)など多数。

若松 孝彦 わかまつ たかひこ タナベコンサルティンググループ タナベコンサルティング 代表取締役社長
タナベコンサルティンググループのトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種・地域を問わず大企業から中堅企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーから多くの支持を得ている。1989年にタナベ経営(現タナベコンサルティング)に入社。2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て2014年より現職。2016年9月に東証1部(現プライム)上場を実現。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。『チームコンサルティング理論』『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

タナベコンサルティンググループ(TCG)
大企業から中堅企業のビジョン・戦略策定から現場における経営システム・DX実装までを一気通貫で支援する経営コンサルティング・バリューチェーンを提供。全国660名のプロフェッショナル人材を有し、1957年の創業以来17,000社の支援実績を持つ日本の経営コンサルティングのパイオニア。