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100年経営対談
100年経営対談
成長戦略を実践している経営者、経営理論を展開している有識者など、各界注目の方々とTCG社長・若松が、「100年経営」をテーマに語りつくす対談シリーズです。
100年経営対談 2022.04.01

未来は、あそびの中に。体験価値をデザインし続ける会社:ジャクエツ 徳本 達郎氏×タナベコンサルティング 若松孝彦

 

 

あそびのバリューチェーンで顧客課題を解決する会社へ

 

若松 ジャクエツの強みは、あそびの研究から製品の企画・製造・販売・アフターメンテナンスまでを一気通貫で手掛けていること。全てがそろっており、あらゆるバリューチェーン、セグメントに入っていくことが可能です。異分野への参入も増えているのではないでしょうか。

 

徳本 異分野からお声掛けいただくケースが増えています。特に、あそびの専門家としての知見を生かしたコンサルティングの機会が多くなりました。例えば、動物園や商業施設、美術館などです。

 

先般も、コーヒーチェーンが新たに展開する、多様な世代や人々が心地よく過ごせる店舗づくりに関わりました。店内で子どもがくつろげるスペースの設計など、子どもが安全に過ごすためのサポートをしています。

 

若松 遊具を置くだけでなく、店舗で安全に過ごすための知見が求められているのですね。園舎などの設計も手掛けているため、店舗全体のコンサルティングが可能になります。

 

徳本 同様に、福祉分野にも参入しています。例えば、自閉症や発達障がいの子どもも一緒に遊んだり生活できたりする環境や、子どもと高齢者が一緒に過ごせる施設のニーズが高まっています。

 

子どもと高齢者は同じような特徴を持っているので、施設づくりに当社の知見が役立ちます。高齢者や障がい者、子どもに関する行政機能は縦割りですが、あそびの環境や安全・安心という横軸を通して結合していく。それは当社の得意とする分野です。

 

また、最近では「ウェルビーイング」という考え方が広がっており、あそびを通して幸せになれるような居場所をつくっていきたいと考えています。

 

若松 異分野がジャクエツと連携することで、これまでにない新たな価値が生まれます。ノウハウを提供するというよりも、「価値をデザインする」と言った方が合っていますね。今後は海外も視野に入ると思います。

 

徳本 さまざまな分野に挑戦していきたいと考えています。おっしゃる通り、教育事業では海外に日本の幼児教育を広げていきたいですね。

 

国内には、ヨーロッパの幼児教育を取り入れるところも多いですが、ふたを開けてみると日本独自の体験重視型の素晴らしい幼児教育を行っているケースがたくさん見受けられます。

 

あまり知られていませんが、中国をはじめアジア圏では、日本式の幼児教育に対して高い関心が寄せられています。日本人はブランディングが苦手なので、ヨーロッパの幼児教育のような知名度はありませんが、日本独自の優れた乳幼児教育のメソッドと教材を確立して、ソフトとハードのセットで海外に発信していくことは今後の重要なテーマになると思います。

 

 

※個人・グループが身体・精神・社会的に良好な状態を意味する概念

 

 

 

2019年に竣工した福井本社の「INUHARIKO LAB」。歴代の試作品や商品がアーカイブとして並ぶ(photo:西川公朗、左上・下)。2022年6月、パシフィコ横浜Cホールにおいて、「あそびが未来の種になる」をテーマに、子どもたちに関わることをさまざまな専門家と一緒に考えるイベント「こども環境サミット」を開催予定(右)。新たな時代の創造につながる子どもたちのあそびについて掘り下げる。詳しくは「こども環境サミット」特設Webサイトまで

 

 

全社員で「貢献価値とは何か」を問い直す

 

若松 お話を伺っていると、「事業を通して未来に何を残すか」、あるいは、「何を未来につなげるか」を非常に大事にされていることが伝わってきます。

 

徳本 会社の視点で企業価値を設定しがちですが、「マネジメントの父」と称されるピーター・F・ドラッカーは、「組織の中に成果は存在しない。全ての成果は外にある」と定義しています。つまり、成果は売り上げや利益ではなく、お客さまや社会の中にあるということ。当社においても、「成果とは何か」について今一度問い直すことが必要だと感じています。

 

若松 私は、コロナ禍において「何で貢献するのか」が求められる時代になっていると提言しています。“何のために存在するのか”という「存在価値」から、“社会に貢献する価値とは何か”という「貢献価値」への昇華が必要です。社会への貢献価値が、企業の成果につながるのです。

 

「iPhone」を生み出したアップル創業者のスティーブ・ジョブズは、「偉大な製品は、情熱的な人々からしか生まれない」と言いました。社会に貢献するには「情熱」が必要なのです。貢献価値を研ぎ澄ませ、情熱を注ぎ込んだ結果として成果が生まれるのだと考えます。

 

徳本 会社はもともと短期的な経済価値のためではなく、社会貢献のためにできたはずです。したがって、そこを前提に考えていかなくてはなりません。何のために会社があるのか、私たちはどのような価値を提供するのか。それについてもう一度、全社員で考えることを、今の大事なテーマとしています。また、それが未来価値について考えることにつながります。

 

実は、新たに作成したステートメントではあえて「未来価値とは何か」を定義しませんでした。なぜなら、それは全社員が考え続けていかなければいけないものだからです。未来価値とは何かを、自分の言葉でお客さまに伝えられるよう、各階層・職種ごとに取り組みを始めていますが、最終的には全社員が考えた未来価値をバリューブックとしてまとめていく予定です。

 

若松 素晴らしい取り組みですね。会社の未来をつくるのは、間違いなく社員一人一人です。あそびを通してどのような価値を提供し、どのような未来をつくっていくのか。ジャクエツの挑戦を応援しております。本日はありがとうございました。

 

 

 

ジャクエツ 代表取締役 徳本 達郎(とくもと たつろう)氏

1963年福井県生まれ。1986年、(株)若越(現ジャクエツ)に入社。2004年専務取締役を経て2006年より現職。ジャクエツは、幼児施設向けの教材や遊具の製造販売をはじめ、園舎の設計施工を手掛け、近年は美術館や商業施設などにも質の高いあそび環境を提供している。2015年に創業100周年を迎え、2019年1月からはロゴマークを「JAKUETS」に一新。「未来は、あそびの中に。」の新スローガンとともに、次の100年に向けて事業拡大を図っている。

 

 

タナベコンサルティンググループ タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ たかひこ)

タナベコンサルティンググループのトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種・地域を問わず、大企業から中堅・中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

 

 

PROFILE

  • (株)ジャクエツ
  • 所在地:福井県敦賀市若葉町2-1770
  • 創業:1916年
  • 代表者:代表取締役 徳本 達郎
  • 売上高:171億700万円(2021年7月期)
  • 従業員数:649名(2022年1月現在)