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100年経営対談
100年経営対談
成長戦略を実践している経営者、経営理論を展開している有識者など、各界注目の方々とTCG社長・若松が、「100年経営」をテーマに語りつくす対談シリーズです。
100年経営対談 2022.04.01

未来は、あそびの中に。体験価値をデザインし続ける会社 ジャクエツ 徳本 達郎氏×タナベコンサルティング 若松孝彦

   
「未来は、あそびの中に。」をスローガンに事業領域を広げるジャクエツ。創業106年の歴史で培った子どもとあそびに関する高度な知見をベースに、幅広い分野で「未来価値」の創造に挑んでいる。
   

コーポレートメッセージを一新し事業領域を広げる

  若松 ジャクエツの創業は1916年。幼稚園経営から保育教材・教具の企画・製造に発展し、現在は空間・街づくりやコンサルティング事業を手掛けるなど活躍の場が広がっています。これまでもコンサルティングやセミナーなどでご一緒させていただいたことを光栄に思います。100周年を迎えた2015年に続いて2回目の対談(『FCC REVIEW』2016年3月号)となりますが、この間にスローガンや企業ロゴを一新されましたね。   徳本 新しいスローガンは「未来は、あそびの中に。」です。創業以来、「すべてはおさな子のために」という理念を掲げて子どもの環境づくりに特化してきましたが、今後はさまざまな領域において、「あそび」というキーワードを通して当社の知見を生かしていきたいと考えています。   企業ロゴも「JAKUETS」に統一しました。教材・遊具の印象が強い「ジャクエツ」から英字に変えることで、世界への発信も含めてイメージを広げていく狙いがあります。   若松 これまで、事業領域を子どもに特化していたことで、子どもの環境やあそびに関する高度な知見が蓄積されています。今回の一新では、高度な知見の中の「あそび」という旗を掲げたことにより、事業領域そのものがぐんと広がりましたね。   徳本 以前、若松社長からラボ(研究所)を創設するようにアドバイスを頂いたことが大正解でした。   あそびの研究については、「PLAY DESIGN LAB」という当社の研究所が重要な役割を担っています。教育やデザイン、建築、アスリート、脳科学など各分野の専門家と一緒に研究していますが、そこから外の知見が入ってくる。すると、ジャクエツにはない発想が生まれるようになりました。   若松 顧客は多様化するだけでなく、専門化しています。そのニーズに応える手段として、自社の専門的価値を打ち出すラボは有効です。「何を研究するか」は、「何で貢献するのか」という自社の貢献価値を明確にします。徳本社長は、あそびにフォーカスされました。PLAY DESIGN LAB では、IoTやAIといった新技術を活用した研究にも取り組まれているとお聞きしました。   徳本 あそびや安全対策のデータ収集を行っています。その1つが、富士通とのタイアップで実施した、子どもの活動量と睡眠の調査研究です。保護者の同意のもと、子どもたちに3Dセンサーを付けて1週間の活動を測定。生活リズムが安定している子どもの方が、成長に良い影響を与えることがデータで明確になりました。また、顔認証システムやAIの動作推定技術の活用についても研究しています。そうした研究から得られたエビデンス(根拠)は、遊具やサービスの体験価値を説明する上で非常に役立っています。   若松 PLAY DESIGN LABが開発や提案の裏付けになるなど、研究・開発・販売の良いサイクルが生まれています。ラボが社員の新たな発想を引き出している点も素晴らしいですね。     2019年にリニューアルしたジャクエツのロゴ。世界発信に向けて「ジャクエツ」から「JAKUETS」に一新した。シンボルマークの「いぬはりこ」(子どもの守り神)は創業当初から受け継がれている(左)。円や曲線をつないでつくる、人間の知能と本能をくすぐる遊具「SAPIENCE」と子どもたちの遊ぶ様子をチェックする為末大氏(右、photo:日本デザインセンター)      

「知財功労賞」の「デザイン経営企業」部門で最高位を獲得

  若松 2021年には特許庁が主催する令和3年度「知財功労賞」の「デザイン経営企業」部門で最高位となる経済産業大臣表彰を受賞されました。ヤフーやヤマハ発動機といったそうそうたる企業を抑えての受賞でしたね。同賞では、「未来は、あそびの中に。」というメッセージを掲げるものづくりの姿勢や経営戦略が総合的に評価されました。以前から、プロダクトデザインについては「グッドデザイン賞」(日本デザイン振興会)を受賞されるなど高い評価を得ていましたが、今回は開発体制や体験価値を含めた「デザイン経営」での受賞となりました。   徳本 デザインに秀でた企業の中で当社が選ばれたことを誇りに思っています。開発部門をはじめ全社員が非常に喜んでいます。これまでもデザイナーや著名な建築家とコラボレーションするなど、付加価値を高めて製品を販売してきました。しかし、そういった手法は限界が来ていると感じています。今の時代、形が美しい、見た目がきれいといった価値は当たり前になっています。壊れない、利便性が高い、効率が上がるという価値も、もはや当たり前。その次の段階に入っていると思います。   商品・サービスを購入すると、明日から便利になるような短期的なベネフィットではなく、20年後、30年後、さらにその先の未来に花が咲くような価値。それを当社は「未来価値」と呼んでいますが、そのデザインが重要になっています。   若松 同感です。いま、中長期視点の体験価値を意識したデザインが求められています。私たちも「ファーストコールカンパニー 100年先も一番に選ばれる会社へ、決断を」という経営コンセプトを発信しています。ジャクエツの場合、創造性や共感力を育むあそびの環境をデザインすることが、未来価値をつくることになります。ただ、未来に生じる価値をいかに理解してもらうか。ここは難しい課題です。   徳本 おっしゃる通りです。現在、PLAY DESIGN LABでは、元陸上競技選手でDeportare Partners代表の為末大氏や若手デザイナーとして活躍する三澤遙氏などに協力いただき、あそびと人の成長や、安全・安心に関するエビデンスを構築しています。   以前は、デザイナーや建築家などクリエーターを中心に協業していましたが、今は大学教授や他企業と協働し、あそびに関するエビデンスの収集にも力を注いでいます。そうしたエビデンスとプラスアルファの価値を、例えばアートのような、すぐに役立つものではないけれど、時を重ねるごとに豊かになっていく価値に組み合わせる。この両方が重要になっています。ただし、その価値は人じゃないと伝えられません。今回の受賞は、そうした人材も含めて評価いただいたと考えています。   若松 エビデンスという「コト」をデザインすることによって、未来価値を高い次元で表現されています。また、しっかりとした課題感に基づき、未来の社会を見据えた思想からプロダクトが生み出されている。その一貫性が高く評価されているのでしょう。          

あそびのバリューチェーンで顧客課題を解決する会社へ

  若松 ジャクエツの強みは、あそびの研究から製品の企画・製造・販売・アフターメンテナンスまでを一気通貫で手掛けていること。全てがそろっており、あらゆるバリューチェーン、セグメントに入っていくことが可能です。異分野への参入も増えているのではないでしょうか。   徳本 異分野からお声掛けいただくケースが増えています。特に、あそびの専門家としての知見を生かしたコンサルティングの機会が多くなりました。例えば、動物園や商業施設、美術館などです。   先般も、コーヒーチェーンが新たに展開する、多様な世代や人々が心地よく過ごせる店舗づくりに関わりました。店内で子どもがくつろげるスペースの設計など、子どもが安全に過ごすためのサポートをしています。   若松 遊具を置くだけでなく、店舗で安全に過ごすための知見が求められているのですね。園舎などの設計も手掛けているため、店舗全体のコンサルティングが可能になります。   徳本 同様に、福祉分野にも参入しています。例えば、自閉症や発達障がいの子どもも一緒に遊んだり生活できたりする環境や、子どもと高齢者が一緒に過ごせる施設のニーズが高まっています。   子どもと高齢者は同じような特徴を持っているので、施設づくりに当社の知見が役立ちます。高齢者や障がい者、子どもに関する行政機能は縦割りですが、あそびの環境や安全・安心という横軸を通して結合していく。それは当社の得意とする分野です。   また、最近では「ウェルビーイング」という考え方が広がっており、あそびを通して幸せになれるような居場所をつくっていきたいと考えています。   若松 異分野がジャクエツと連携することで、これまでにない新たな価値が生まれます。ノウハウを提供するというよりも、「価値をデザインする」と言った方が合っていますね。今後は海外も視野に入ると思います。   徳本 さまざまな分野に挑戦していきたいと考えています。おっしゃる通り、教育事業では海外に日本の幼児教育を広げていきたいですね。   国内には、ヨーロッパの幼児教育を取り入れるところも多いですが、ふたを開けてみると日本独自の体験重視型の素晴らしい幼児教育を行っているケースがたくさん見受けられます。   あまり知られていませんが、中国をはじめアジア圏では、日本式の幼児教育に対して高い関心が寄せられています。日本人はブランディングが苦手なので、ヨーロッパの幼児教育のような知名度はありませんが、日本独自の優れた乳幼児教育のメソッドと教材を確立して、ソフトとハードのセットで海外に発信していくことは今後の重要なテーマになると思います。     ※個人・グループが身体・精神・社会的に良好な状態を意味する概念       2019年に竣工した福井本社の「INUHARIKO LAB」。歴代の試作品や商品がアーカイブとして並ぶ(photo:西川公朗、左上・下)。2022年6月、パシフィコ横浜Cホールにおいて、「あそびが未来の種になる」をテーマに、子どもたちに関わることをさまざまな専門家と一緒に考えるイベント「こども環境サミット」を開催予定(右)。新たな時代の創造につながる子どもたちのあそびについて掘り下げる。詳しくは「こども環境サミット」特設Webサイトまで      

全社員で「貢献価値とは何か」を問い直す

  若松 お話を伺っていると、「事業を通して未来に何を残すか」、あるいは、「何を未来につなげるか」を非常に大事にされていることが伝わってきます。   徳本 会社の視点で企業価値を設定しがちですが、「マネジメントの父」と称されるピーター・F・ドラッカーは、「組織の中に成果は存在しない。全ての成果は外にある」と定義しています。つまり、成果は売り上げや利益ではなく、お客さまや社会の中にあるということ。当社においても、「成果とは何か」について今一度問い直すことが必要だと感じています。   若松 私は、コロナ禍において「何で貢献するのか」が求められる時代になっていると提言しています。“何のために存在するのか”という「存在価値」から、“社会に貢献する価値とは何か”という「貢献価値」への昇華が必要です。社会への貢献価値が、企業の成果につながるのです。   「iPhone」を生み出したアップル創業者のスティーブ・ジョブズは、「偉大な製品は、情熱的な人々からしか生まれない」と言いました。社会に貢献するには「情熱」が必要なのです。貢献価値を研ぎ澄ませ、情熱を注ぎ込んだ結果として成果が生まれるのだと考えます。   徳本 会社はもともと短期的な経済価値のためではなく、社会貢献のためにできたはずです。したがって、そこを前提に考えていかなくてはなりません。何のために会社があるのか、私たちはどのような価値を提供するのか。それについてもう一度、全社員で考えることを、今の大事なテーマとしています。また、それが未来価値について考えることにつながります。   実は、新たに作成したステートメントではあえて「未来価値とは何か」を定義しませんでした。なぜなら、それは全社員が考え続けていかなければいけないものだからです。未来価値とは何かを、自分の言葉でお客さまに伝えられるよう、各階層・職種ごとに取り組みを始めていますが、最終的には全社員が考えた未来価値をバリューブックとしてまとめていく予定です。   若松 素晴らしい取り組みですね。会社の未来をつくるのは、間違いなく社員一人一人です。あそびを通してどのような価値を提供し、どのような未来をつくっていくのか。ジャクエツの挑戦を応援しております。本日はありがとうございました。       ジャクエツ 代表取締役 徳本 達郎(とくもと たつろう)氏 1963年福井県生まれ。1986年、(株)若越(現ジャクエツ)に入社。2004年専務取締役を経て2006年より現職。ジャクエツは、幼児施設向けの教材や遊具の製造販売をはじめ、園舎の設計施工を手掛け、近年は美術館や商業施設などにも質の高いあそび環境を提供している。2015年に創業100周年を迎え、2019年1月からはロゴマークを「JAKUETS」に一新。「未来は、あそびの中に。」の新スローガンとともに、次の100年に向けて事業拡大を図っている。     タナベコンサルティンググループ タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ たかひこ) タナベコンサルティンググループのトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種・地域を問わず、大企業から中堅・中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。    

PROFILE

  • (株)ジャクエツ
  • 所在地:福井県敦賀市若葉町2-1770
  • 創業:1916年
  • 代表者:代表取締役 徳本 達郎
  • 売上高:171億700万円(2021年7月期)
  • 従業員数:649名(2022年1月現在)