製造未来モデル研究会は、ブランディング、AI・DX、開発、人的資本など「未来に向けた6つの成長戦略モデル」に基づき、先進企業の講義・視察を通じて製造業の未来をつくる成長戦略を研究している。
北海道で開催した第5回では、コンクリートと先端テクノロジーを融合し、自己治癒コンクリートや蓄電コンクリートなどを開発する會澤高圧コンクリートを訪問。地域資源を生かした持続可能な事業モデルと、既存技術に異分野の技術を掛け合わせて未来を開発する成長戦略を学んだ。
開催日時:2026年10月21日(北海道開催)
はじめに
會澤高圧コンクリートは、1935年創業の、北海道を代表する総合コンクリートメーカーである。生コンクリートやプレキャスト製品・プレストレスト製品を中心に、ダムや道路、港湾などの土木分野から、住宅基礎のプレキャスト化まで幅広く展開し、JRタワー、エスコンフィールド、ラピダス関連施設、札幌市内の地下トンネルなど、北海道の主要プロジェクトにも参画してきた。さらに、H型PC杭を用いた住宅基礎やパネル組立基礎を全国に供給するなど、土木と建築、官公需と民需を組み合わせた独自の事業ポートフォリオを築いている。
2017年よりオランダのデルフト工科大学と共同で自己治癒コンクリートを開発・量産化し、2023年には福島RDMセンターを開設。MITとも連携し、電子伝導性コンクリートや自己発熱コンクリート、蓄電コンクリートなど、新たな素材の開発と実装に挑戦し続け、コンクリート需要が縮小する中でも事業規模を拡大している。
同社入口のロゴ
既存のビジネスモデルに存在する「当たり前」を疑う
會澤社長が同社に入社した当時の札幌市の生コンクリート市場は、画一化・固定化された製品仕様と商習慣の中で、各社が消耗する価格競争に陥っていた。この状況に対して同社では、市場飽和を狙った価格戦略とM&Aの積極的な推進により、マーケットシェアを向上させた。また、無人の小型プラント10基と運行車両50台を配備し、当時ではまだ利用者数が少なかったiモード(携帯電話インターネット接続サービス)を駆使し、指令室から運行情報をリアルタイムで制御できる体制を確立することで、新規参入が多い小口住宅の生コンクリート市場を掌握することに成功した。
企業の現状分析では個社課題の解決に目が行きがちであるが、業界において多くのプレイヤーが「当たり前」と受け入れている商習慣や常識(マクロ・ミクロの外部環境)を疑い、それらに挑戦する姿勢が目的達成のために重要であることを示唆している。

同社のネットワーク型・小型自動化プラントによる生コンクリート供給事業モデル「OOPS!」
製品開発に欠かせないRDM²の視点
同社がデルフト工科大学と開発・実用化した自己治癒コンクリート「バジリスク(Basilisk)」は、バクテリアの代謝機能によって、ひび割れを自ら修復するコンクリートである。その画期的な機能にもかかわらず、初期の販売は振るわなかった。「すごい」と言われるものの「そのうち」と言われて注文に結び付かないことが多かったという。
そこで同社は、バジリスクを「自己治癒するコンクリート」という機能ではなく、建設における「脱炭素化」の実現という顧客価値をうたうことで市場参入を果たした。R(研究)&D(開発)の視点だけでは機能追求に陥ることがあるが、同社はR&Dに2つのM(マーケティング、マニュファクチャリング)を掛け合わせた「RDM²」を提唱する。この視点が、日本の製品開発に求められているのではないだろうか。

自己治癒コンクリートのバジリスク。白い部分が治癒した部分
自社の固有技術と新しい技術を掛け合わせるイノベーション
イノベーションについて、會澤社長は経済学者ヨーゼフ・シュンペーターを引用して「イノベーションの手法は技と技を結ぶ『新結合』」と説明した。事業で培われたコンクリート技術とバクテリアを掛け合わせることで自己治癒コンクリートを生み出し、カーボンブラックと掛け合わせることで蓄電するコンクリートを開発した。
この掛け合わせにおいて経営者は、一方は自社の不変の固有技術であることを意識すべきだ。同社では、微生物や炭素、ITなどさまざまな領域の技術を用いた開発を行ってきたが、それらの技術を掛け合わせる相手は常に「コンクリート」であった。自社の固有技術を用いない新しい技術同士の開発は「糸の切れた凧」のように軸が存在しない開発戦略になってしまう。常に「自社は何屋か」を問い続け、自社の固有技術と新しい技術を掛け合わせることが肝要である。

コンクリートに充電された電気でLEDが点灯する様子

通電によって発熱するコンクリート
會澤高圧コンクリート 代表取締役社長