製造業を取り巻く環境は、不透明・不確実・不安定の「三不の時代」へと突入し、自社の強みを生かした持続的な成長モデルへの転換が急務となっている。製造未来モデル研究会では、先進企業の実践事例を通じて、事業ポートフォリオの再構築と高収益化への道筋を明らかにする。
第4回では、油圧式自動車整備用リフトで国内シェアナンバーワンのスギヤスを訪問。社長の哲学を体現するブランディングモデルと、AIで属人化した技術を次世代へ継承する開発戦略について聞いた。
開催日時:2026年8月5日(中部開催)
はじめに
スギヤスは愛知県高浜市に本社を置き、「ビシャモン」ブランドで知られる産業機器メーカーである。油圧式の自動車整備用リフトで国内シェアナンバーワンを誇り、ハンドパレットトラックや物流・環境機器まで幅広く手掛ける。木工機械の製造で創業し、以降、グリースポンプ、タイヤチェンジャー、エアーリフトへと主力商品を替え続けてきた。そのため、創業期の商品は一つも残っていないが、ブランドは生き続けている。
主力を替え続けるDNAと、変わらぬブランドの二層構造を強みとして、3代目社長である杉浦安俊氏は、就任時から売上高を約2倍に伸ばした実績を持つ。その成長を支える同社のブランディングと、AIによる技術継承の挑戦を、取締役技術部長の山崎晶洋氏に聞いた。
国内でのマーケットシェアは約60%の自動車整備用リフト「ビシャモン」(出所:スギヤス コーポレートサイト)
ブランディングはトップの決断で行う
山崎氏は「ブランディングは社長しかできない」と断言した。ブランドは3代目社長の哲学と生き方そのものであり、創業者のDNAを継ぐ者だけが会社の価値観を体現できるという。
杉浦社長は、自らをキャラクター化した「シャンプーくん」で展示会に立ち、「まじめにふざける」姿勢を貫く。広告は市場ではなく地元に向けて出し、求人と同居させ、それを見た社員がどう感じるかを重視する。さらに、昼食30円、独身寮月5000円、有給取得率100%など、費用対効果の証明が難しい投資をトップの決断で断行してきた。
その考えは「誇りは給与では買えない」という言葉に表れており、外向きの広告と内向きの制度が両輪となってブランディングを支えている。
企画開発のAI活用—「未来商品を研究する場所」で知識をつなぐ
山崎氏は「技術部こそ属人化の最たるもの」と語る。機械構造から電気設計まで一人に依存し、知識の多くは人の頭の中にある。 そこで、企画開発では生成AIのClaudeとGitHubを活用し、「未来商品を研究する場所」をクラウド上に構築した。例えば、ベトナムの展示会で得た現場の感覚を、AIで加工・整理して蓄積すれば、時間も場所も異なる別の情報と縦横無尽につながる。このように蓄積された知識の価値は、最低でも10億円と山崎氏は見積もっている。
企画で最も大切なのは「その時どう考えたか」。図面や製品ではなく発想の過程にこそ真の価値があり、知識と知識がつながる仕組みが新商品を生む土壌となるのだ。

お客さまにより親しみを持っていただけるようデザインしたオリジナルキャラクター(出所:スギヤス コーポレートサイト)
設計製造のAI活用—信頼性を担保し、技術を次世代へ継承する
一方、設計製造で最も大切なのは信頼性だと山崎氏は述べる。企画とは全く別の仕事であり、同じ組織に混在させるとうまくいかないという。
AIのハルシネーション(もっともらしい嘘)は、設計の現場では重大なリスクとなる。そこで同社は、燈が提供する製造業特化生成AIエージェント「工/Takumi」を採用した。業界専門誌など確かな文献のみを根拠に回答する仕組みで、情報が外部に漏れない環境も保証される。
山崎氏は、開発人材が20代から定年まで第一線にあり続け、次世代が育ちにくい構造を日本企業の課題として指摘した。人に宿った技術を次の世代が使える形で残すことが開発戦略であり、AIとGitHubはそのための道具にすぎないが、この先必須のスキルだと捉えているそうだ。

従業員138名が働く、高浜工場
株式会社スギヤス 取締役技術部長