製造業を取り巻く環境は、不透明・不確実・不安定の「三不の時代」へと突入し、自社の強みを生かした持続的な成長モデルへの転換が急務となっている。製造未来モデル研究会では、先進企業の実践事例を通じて、事業ポートフォリオの再構築と高収益化への道筋を明らかにする。
第4回では、DXで「紙ゼロ・ルーティンゼロ・残業ゼロ」を目指すテルミックを訪問。田中社長が目指す「3ゼロアクション」モデルと、営業のニュースタイルから生み出される高収益ビジネスの実態について聞いた。
開催日時:2026年8月5日(中部開催)
はじめに
テルミックは愛知県刈谷市に本社を置き、治具部品をはじめとする機械部品を少量多品種・短納期で手掛ける金属加工メーカーである。創業37年目を迎え、社員数は約180名、売上高は約70億円に達している。特筆すべきは、製造現場を支える社員の約8割が女性であり、全社平均年齢は33.1歳、営業職に限ると平均年齢は20代と若い組織である点だ。「ものづくりのエンターテイナー」としてワクワクする会社を目指す同社には、2025年の1年間で約4000社が見学に訪れた。アンケートではその98%以上が「非常に良かった・良かった」と回答している。
2008年時点では「典型的な鉄工所」だったという同社が、いかにして人が集まる会社へと変貌したのか。その全体像を、創業者で代表取締役の田中秀範氏に聞いた。

典型的な鉄工所から脱却し、「ものづくりのエンターテイナー」へ
(出所:テルミック講演資料)
リスクと無駄を排し、社員・お客様が「行きたくなる」会社へ
同社の特徴の一つは、訪問営業をやめ、内勤営業(インサイドセールス)へ転換したことであり、田中氏は「外に出ないことが最大の効率化」と断言する。訪問営業では移動時間や待ち時間が発生するほか、外出に伴うさまざまなリスクも生じる。内勤営業への転換により、これらのリスクとコストの削減を実現している。
転換に際し田中氏が重視したのは、社員やお客さまが「行きたくなる会社」づくりである。フロアごとに香りを変え、作業服を廃して服装を自由にし、照明はカフェのような間接照明に切り替えた。LEDデジタルサイネージには受注情報や生産の数値がリアルタイムで表示され、当日の状況が一目で分かる。工場もショールーム仕様となっており、働きやすさとブランディングを融合した設計である。

LEDデジタルサイネージが並ぶ社内の様子
(出所:テルミック提供資料)
「残業ゼロ・紙ゼロ・ルーティンゼロ」を目指す3ゼロアクション
テルミックは2022年2月、政府による「DX認定」を、愛知県内の中小企業第1号として取得した。掲げるのは「紙ゼロ・ルーティンゼロ・残業ゼロ」の3ゼロアクションだ。この3つは三位一体であり、一つでも欠けると成立しない。紙を残せば残業が増え、ルーティンを残せば残業が生まれるからだ。
同社は2021年1月期から5年間で紙の使用量を90%削減し、紙代・印刷代・業務効率化による人件費などを含め累計約4900万円のコスト削減を実現。残業は「7000円の仕事が残業になると9800円になる」と原価の観点から徹底的に排除。生成AIについても全社員が有料ツールを活用しており、「使っていない管理職こそ危うい」と、積極的な活用の重要性を強調した。

オフィスにも工場にも、紙が極力ない徹底ぶりが窺える
(出所:テルミック提供資料)
削減した原資を社員に還元する好循環
同社は、「トップラインを伸ばすことよりも利益率にこそ投資価値がある」と語る。売上高100億円で利益率1%の会社よりも、売上高10億円で利益率10%の会社の方が企業価値が高いという考えだ。同社の経常利益は13期連続で増加しており、経常利益率20%という製造業では高水準の収益体質を目指している。
値上げではなく、自らの生産性向上によって利益を生み、その分を基本給や手当てとして社員に還元する。還元策はユニークだ。定時退社を促す手当、3人目の子の出産時に100万円を支給する子育て手当、留学や母国への帰省に対応する長期休暇制度、社内バーなど。採用に1人当たり100万円以上かかる時代の、「せっかく採用した人を辞めさせない」投資である。
DXで生み出した利益を社員に還元し、働きやすさが定着率と生産性を高め、それがさらなる利益率の向上につながる。この好循環こそが、13期連続増益を支える同社の経営モデルの肝である。

紙図面もデータ化しており、Bluetoothチップが内蔵された器具で測定結果を自動反映できる。
(出所:テルミック提供資料)
株式会社テルミック 代表取締役