製造業を取り巻く環境は、不透明・不確実・不安定の「三不の時代」へと突入し、自社の強みを生かした持続的な成長モデルへの転換が急務となっている。製造未来モデル研究会では、先進企業の実践事例を通じて、事業ポートフォリオの再構築と高収益化への道筋を明らかにする。
第3回の2日目は、「秋田に根を張り、世界を見据える~地域と社員を幸せにする経営~」を実践するOrbrayを訪問した。同社は、「切る、削る、磨く」を核心とする硬質素材加工技術をもとに、精密宝石部品、光通信部品、ダイヤモンド基板などの高付加価値製品をグローバルに展開するメーカーだ。講義と視察では、オンリーワンの技術を磨き続けること、社員の内なるモチベーションを引き出す人材育成、地域社会との連携による共発展という、持続的成長に向けた三つの視点が示された。
開催日時:2026年6月18日(東北開催)
はじめに
Orbrayは、1939年の創業以来、工業用宝石の精密加工を起点に、精密宝石部品、光通信部品、小型モーター、半導体関連材料などへ事業領域を広げてきた。世界最小モーターや世界最大級のダイヤモンドウェハなど、数々の先端製品を生み出してきた背景には、「Only One のものづくり」を追求する姿勢がある。目に見えにくい領域や基盤を支える技術に価値を見いだし、既存技術を異分野へ応用しながら独自性を磨いてきた点が、同社の大きな特徴だ。持続的な成長を支えるのは技術だけではなく、人づくりと地域との関係づくりであるという考えのもと、構造改革に頼らず社員の内なるモチベーションを高める取り組みを積み重ねるとともに、秋田という地域に根を張り、雇用・学び・暮らしの基盤づくりにも向き合っている。

2023年変更した社名は、「球体」を意味する「Orb」と「光」を意味する「ray」を組み合わせた造語。社員一人一人が生命体となり輝きを放ってもらいたい という思いが込められている。
オンリーワンを目指し、技術の勝ち筋を磨き続ける重要性
最も重要な学びの一つは、同社が「ナンバーワン」ではなく「オンリーワン」を目指す姿勢を明確に打ち出している点である。その本質は単に精密な加工ができることではなく、硬いものを小さく・精密に・安定的に加工する独自技術を起点に、時代ごとの需要に応じて最適な用途へ展開し続けてきた点に競争優位がある。世界最小クラスのモーターや世界最大級のダイヤモンドウェハといった実績は、その延長線上に生まれている。
特に示唆に富むのは、既存技術を次の事業へ連続的につなげている点だ。サファイア基板メーカーとしての強みを生かし、他社とは異なるアプローチでダイヤモンドウェハ開発を進めている点はその象徴である。「何ができるか」だけでなく「どこで勝つか」を定め、自社独自の勝ち筋を磨き続ける視点が不可欠である。

摩耗に強いダイヤモンド製のレコード針。
これまで培ってきた“切る・削る・磨く” 熟練の技術が結集した一品。
(出所:Orbray コーポレートサイト)
構造改革に頼らず、社員の内なるモチベーションを高める人材育成
構造改革や制度変更を先行させるのではなく、社員の内なるモチベーションを高めることで組織を前進させようとしている点である。同社では、全社員との個別面談、社長と新入社員の座談会、女性社員との座談会、バースデー座談会など、丁寧なコミュニケーション施策を継続している。重要なのは、これらが単なる福利厚生施策ではなく、「一人ひとりの顔が見える会社でありたい」という経営思想に基づいて設計されていることである。組織を無理に変えるのではなく、社員が自ら前向きに挑戦したくなる状態をいかにつくるかに力点を置いている。
現場社員が中心となって検討した「新生活応援手当」やOrbray Academy開設など、人づくりへの投資も体系化されている。製造業の競争力は設備だけでは生まれず、社員が誇りと納得感を持って働ける土壌によって支えられる。
![Orbray [TRAD]内の食堂。パレットを利用したソファーや地元企業と協同した家具が並び、社員同士の交流を深める場となっている。自社製品が使用されているレコードプレーヤーもあり、自分たちが携わる商品に触れることができる。](/media/Orbray-03.jpg)
Orbray [TRAD]内の食堂。パレットを利用したソファーや地元企業と協同した家具が並び、社員同士の交流を深める場となっている。自社製品が使用されているレコードプレーヤーもあり、自分たちが携わる商品に触れることができる。
地域社会との連携を通じて、企業と地域が共に成長する経営
3点目の学びは、地域社会との連携を事業継続と人材確保の基盤として位置付けている点である。人口減少が進む地域において企業が存続するためには、自社だけが成長するのでは不十分であり、地域の暮らしや産業の持続可能性そのものに関わる必要がある。同社はその認識のもと、匠の技を守りながら次世代へつなぐことを自社の使命として捉えている。
具体的な取り組みも多彩だ。地元高校生とのワークショップや工場見学、地域企業と協働した食堂空間のリニューアル、子ども向けのOrbray Junior Academyなど、地域との接点を意図的に広げている。さらに、2026年中の竣工を目指して「学び・働き・暮らしを繋ぐ、地域共生施設」の建設にも着手しており、地域に開かれた新たな本社づくりが進んでいる。地域と共に人を育て、地域と共に成長する企業姿勢こそ、地方製造業が持続的に発展するためのモデルといえる。

2026年中に開設予定の新本社。地域と一体となった持続可能なまちづくりを目指し、地域の雇用創出と開かれた拠点づくりを進める。
(出所:Orbray コーポレートサイト)
Orbray株式会社 代表取締役副社長