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研究リポート
製造未来モデル研究会

製造業の優秀企業には、それぞれの成長パターンがあります。
製造企業の成長戦略モデルを研究し、自社の未来に最適な戦略を描きましょう。

研究リポート 2026.06.02

「切る」技術に特化し、下請けからメーカーへ転身、 そして世界一の刃物メーカーを目指す開発型モデル ファインテック

第2回の趣旨
製造業を取り巻く環境は、不透明・不確実・不安定の「三不の時代」へと突入し、自社の強みを生かした持続的な成長モデルへの転換が急務となっている。製造未来モデル研究会では、先進企業の実践事例を通じて、事業ポートフォリオの再構築と高収益化への道筋を明らかにする。
第2回では、製造業にとっての最もコアに踏み込む成長モデルである「開発型モデル」をテーマとして、ファインテック代表取締役社長である本木氏に登壇いただいた。「切るを科学する」という一貫した技術哲学のもと、下請けからメーカーへの脱皮を果たし、現在は世界一の刃物メーカーを目指す同社の成長軌跡を、開発型モデルの観点から読み解く。

開催日時:2026年4月20日(九州開催)


はじめに

ファインテックは1985年に創業し、福岡県を本拠地に超硬合金製の産業用刃物を製造する企業である。現在は国内4工場・社員280名を擁し、半導体・光学フィルム・医療など多様な分野の「切る現場」に刃物を供給している。

 

創業当初は半導体部品の下請け加工業者として出発し、経営危機を経て「下請けから刃物メーカーへ」転身する目標を掲げ、事業の全面転換を決断した。以来、刃先先端処理技術の深化と顧客の後工程課題の解決に特化することで差別化を実現し、現在は「第3期創業」として医療用刃物の開発と世界展開を推進している。本講演では、この3段階の成長軌跡と、それを支えた技術・組織・戦略についてお話しいただいた。






「切るを科学する」技術哲学が差別化の源泉

これまで、製造現場において切断後に発生するバリ・粉塵・破断面は、多大な後工程コストを生み出してきた。そこでファインテックは超硬合金を素材に採用し、刃先を5.6ナノメートル単位でコントロールする「刃先先端処理技術」を独自開発した。切断の挙動を観察しながらトライ&エラーを繰り返す姿勢は、他社が模倣できない技術的参入障壁を形成している。

 

切断面が汚ければ、貼り合わせ・研磨・洗浄・乾燥という複数の後工程が発生する。しかしファインテックの刃は「切っただけで組み立て工程に回せる断面」を実現し、後工程を丸ごと不要にするのである。これは単なる刃物の改良ではなく、顧客の生産プロセス全体を再設計する「切断工程のパラダイムシフト」である。開発型モデルの本質は、技術を深掘りすることで顧客の工程課題ごと解決する価値提供にある。

 

finetec_regume.png 「刃物先端処理技術」によって他社が模倣できないレベルの切断を実現するファインテック

「刃物先端処理技術」によって他社が模倣できないレベルの切断を実現するファインテック
(出所:ファインテック講演資料)



リーマンショックを契機とした「下請けからメーカーへ」の脱皮

創業期のファインテックは半導体部品の下請け加工業者であった。本木社長は当時を「素材にほんの少しの金額しか載せられず、みじめだった」と述べた。顧客から「利益を出したいなら素材コストを切り詰めてほしい」と言われた経験が、徹底した差別化技術へのこだわりの原点となっている。

 

転機は2008年のリーマンショックである。売り上げが7分の1まで激減する経営危機の中、同社は「刃物メーカー」として展示会に出展するという決断を下した。本木社長は「2009年に旗印を掲げなければ、今のファインテックはなかった」と述べた。展示会での反応は予想以上で、「刃物」という領域への関心の高さを確認できたことが、方向転換の確信につながった。刃物に振り切ったことが勝因であり、選択と集中による事業ドメインの再定義こそが、開発型モデルへの脱皮を可能にした本質的な戦略判断であった。

 

視察の中で実際に切断していただいた名刺

視察の中で実際に切断していただいた名刺



大学・研究機関との共同研究が拓く医療市場

ファインテックが現在「第3期創業」の柱と位置付けるのが医療用刃物の開発である。日本人の死亡原因第1位であるがんの診断には病理検査が不可欠だが、現行のステンレス製刃物では骨などの硬組織をうまく切断できず、誤診リスクにつながる可能性がある。この課題に対して、同社では国の研究機関や大学と共同研究を推進している。共同研究ネットワークの構築は、開発型企業が単独では到達できない領域へ踏み込むための重要な戦略である。

 

また、同社は「切る現場の課題解決」という一貫したドメインの延長線上に医療を位置付けることで、技術の転用可能性と事業の一貫性を両立させている。これは開発型モデルが成熟段階で取るべき「技術の水平展開」の典型例といえる。

 

本木氏は「人類への貢献を考えたとき、医療への貢献は即人類への貢献だ」と述べた。

 

ファインテックの刃物と一般的な刃物の切れ味を比較している様子

ファインテックの刃物と一般的な刃物の切れ味を比較している様子

PROFILE
著者画像
本木 敏彦 氏

ファインテック 代表取締役社長 兼 最高技術責任者