•  
製造未来モデル研究会のメインビジュアル
研究リポート
製造未来モデル研究会

製造業の優秀企業には、それぞれの成長パターンがあります。
製造企業の成長戦略モデルを研究し、自社の未来に最適な戦略を描きましょう。

研究リポート 2026.03.12

中堅メーカーがグローバルニッチトップを勝ち取るための海外事業戦略 IMV

第1回の趣旨
製造業を取り巻く環境は、不透明・不確実・不安定の「三不の時代」へと突入し、自社の強みを生かした持続的な成長モデルへの転換が急務となっている。製造未来モデル研究会では、先進企業の実践事例を通じて、事業ポートフォリオの再構築と高収益化への道筋を明らかにする。
第1回は、中堅製造業が海外市場で真のグローバル企業へと成長するための戦略をメインテーマとし、「国内市場の限界を超えた持続的成長」と「現地市場への徹底的な適合」の両立を学んだ。事例としてご紹介したのは、英国拠点の立ち上げ過去最高売上高を達成した、産業用振動試験装置メーカーのIMV。知名度ゼロ・高価格・長いリードタイムという三重苦を乗り越え、欧州市場での地位を確立した3つの逆転戦略についてご講演いただいた。
開催日時:2026年2月4日(大阪開催)


はじめに

IMVは、産業用振動試験装置の専門メーカーとして国内市場で着実に成長を遂げてきた。しかし2008年のリーマンショックを契機に国内売上が激減し、50億円の壁を突破できない状況に直面。この危機が、本格的なグローバル展開への“強制的な”トリガーとなった。

 

英国拠点の立ち上げは、欧州市場から「No Brand(知名度ゼロ)」「高価格」「長いリードタイム」という全否定を受け、日本本社からは「自分の脚で稼げ」という精神論を突きつけられ、板挟みの状況の中でスタートをきった。

 

日本のDNA(品質・組織重視・誠実さ)と世界の流儀(標準化・スピード・契約と明確さ)を融合させた「製造未来モデル」を目指している同社。「Japan品質は前提条件でありゴールではない」「ビジネスモデルの現地化」「トータル価値での勝機」という3つを実践し、過去最高売上を達成するに至った。

  振動を再現する装置。国内では同社にしかない装置で、日本の電車は全てこの装置で試験している 振動を再現する装置。国内では同社にしかない装置で、日本の電車は全てこの装置で試験している




知名度ゼロからの脱却 ― ブランド構築の3つの逆転戦略

英国拠点立ち上げ時、同社は完全な「No Brand」状態であり、市場に受け入れられなかった。この状況を打破するため、「知名度アップ」「徹底した現地化」「極上のサービス」という3つの逆転戦略を展開した。知名度アップのためには、展示会への積極出展と試験所への戦略的アプローチを実施。見劣りしないブースデザインで「安かろう悪かろう」のイメージを払拭したという。

 

ドイツの展示会には各国の代理店を招待し、グローバルな試験所へ積極的に販売。納入済み試験所へ見込み客を案内することで信頼を獲得し、ドイツOEMへの導入に成功した。さらに、SNS(LinkedIn)の個人アカウントからタイムリーに情報を発信したり、刷新したウェブサイトは多言語化とローカル編集可能な構成へ変更したという。これらの施策により、確実にブランドイメージを構築していった。

  2025年に新設した多目的試験所。装置や配置を変えられ、顧客のあらゆる試験条件に応えられる。海外企業の視察も多い 2025年に新設した多目的試験所。装置や配置を変えられ、顧客のあらゆる試験条件に応えられる。海外企業の視察も多い

徹底した現地化 ― Japan Wayからの脱却とハイブリッド生産の確立

同社の成功の核心は「All Japan」からの脱却と、ハイブリッド生産体制の確立にある。「最終検査は日本で行うべき」という本社の反対を押し切って、現地完結型の体制に移行したという。重要部品は日本品質を維持しつつ、補機類をイタリアで並行製作。海上輸送約2カ月を「生産時間」として有効活用し、欧州で現地組立・最終検査を実施することでリードタイムを劇的に短縮できた。

 

パートナー企業からは、機能美を追求するデザイン性や分かりやすいドキュメントなど、欧州の「付加価値」を吸収。さらに見積改革を断行し、日本式の「御用聞き」から、グローバル式の「スペックイン」へ転換した。現地適合を徹底した「魅せる」提案書に、同社の価値を語らせている。

  「海外でも通用するデザイン」というコンセプトで作られた振動試験装置Aシリーズ 「海外でも通用するデザイン」というコンセプトで作られた振動試験装置Aシリーズ

極上のサービスと価値の逆輸入 ― 競合の隙を突いた戦略

競合他社がメンテナンス体制を手薄にしていた「隙」を突き、極上のサービスで差別化を図った。「どうせすぐ撤退する」という不安を払拭するため、現地にパーツセンターを設立。現地のスタッフを日本に招き、技術と顧客への細やかな配慮まで徹底的にトレーニングした。また、自社製品だけでなく他社製品の修理も積極的に引き受けたという。このような取り組みが、次回更新時に自社製品へ置き換える好循環を生んだ。

 

さらに、元競合メーカーの出身者や代理店との対話を通じ、日本人が「当たり前」と思っていた仕様が「他社にない圧倒的な強み」であると気づいた。その強みを基盤に、サプライからサービスまで、単なる契約関係ではなく国境を越えた体制を構築した。

  振動試験を軸として、70年以上にわたり技術と現場力で信頼を積み重ねてきたIMV。確かな実績が評価され、経験豊富なプロフェッショナルが集う 振動試験を軸として、70年以上にわたり技術と現場力で信頼を積み重ねてきたIMV。
確かな実績が評価され、経験豊富なプロフェッショナルが集う

世界中で使用されている振動試験装置。顧客の声から生まれたという 世界中で使用されている振動試験装置。顧客の声から生まれたという

計測事業部の地震計。関西EXPOに設置され、期間中来場者の安心安全を守った 計測事業部の地震計。関西EXPOに設置され、期間中来場者の安心安全を守った

PROFILE
著者画像
柿原 正治 氏

IMV株式会社 経営企画本部長