•  
研究リポート 2026.02.20

変化の時代を生き抜く「ポートフォリオ戦略」と「中堅・中小企業連邦経営」による成長戦略 サノヤスホールディングス

第1回の趣旨
製造業を取り巻く環境は、不透明・不確実・不安定の「三不の時代」へと突入し、自社の強みを生かした持続的な成長モデルへの転換が急務となっている。製造未来モデル研究会では、先進企業の実践事例を通じて、事業ポートフォリオの再構築と高収益化への道筋を明らかにする。
第1回では、サノヤスホールディングスの上田孝会長を迎え、祖業である造船事業からの撤退と、事業ポートフォリオの再編成を通じて新生グループを始動させた同社の成長戦略を研究する。持株会社体制下で複数の中堅・中小企業を束ねる「連邦経営」の実践と、変化を前提とした経営哲学から、製造業の未来モデルを探る。
開催日時:2026年2月3日(大阪開催)


はじめに

サノヤスホールディングスは1911年創業の造船会社として出発した。オイルショック、円高、中国の台頭による造船不況と幾度もの経営危機に直面し、1981年には債務超過に陥った。この危機を乗り越えるため、1980年代から立体駐車場や工事用エレベーターなど非造船事業への大胆な多角化を推進。1991年には売り上げの47%を占めるまで非造船事業を拡大させた。2011年、創業100周年を機に持株会社体制へ移行し、そして2021年、祖業である造船事業を売却。製造業・建設業・レジャーの3セグメントで新生サノヤスグループとして再始動した。真空乳化撹拌装置や工事用エレベーター等でトップシェアを誇る「中堅・中小企業連邦経営」こそ、変化の時代を生き抜く成長戦略の核心である。三井住友銀行出身の上田氏が2009年の入社以来、この変革を主導してきた。

 



「三不の時代」を前提とした事業ポートフォリオの選択と集中

同社が直面した最大の課題は、造船事業の構造的不況である。造船業は10年のうち2、3年は好調だが、残りの2、3年は赤字という極めて不安定な収益構造を持つ。さらに為替変動の影響を受けやすく、中期経営計画すら組めない状況にあった。2010年代には中国の台頭により日本の造船シェアが大幅に低下し、同社も構造的な収益悪化に直面した。

 

この状況を踏まえ、2021年に祖業である造船事業を新来島どっくへ売却するという大胆な決断を下し、安定的な収益を生む事業へ経営資源を集中させた。造船事業売却後、同社は製造業向け・建設業向け・レジャーの3セグメントに再編し、売上高191億円(2021年3月期)から250億円(2025年3月期)へと成長を遂げた。上田氏は、不透明・不確実・不安定という「三不の時代」において、変化を前提とした事業ポートフォリオの再構築こそが持続的成長の基盤となることを強調した。

「中堅・中小企業連邦経営」によって幅広く事業を展開するサノヤスホールディングス 「中堅・中小企業連邦経営」によって幅広く事業を展開するサノヤスホールディングス

「中堅・中小企業連邦経営」による自律分散型組織の構築

同社の特徴は、持株会社の下に複数の事業会社を配置し、各社の自律性を尊重する「連邦経営」にある。現在、グループは同社に加え「事業会社12社+組織を横断して技術開発や人財育成を支援するサノヤステクノサポート」の計14社体制で運営されているが、立体駐車場、タンク以外は、すべてM&Aによる買収企業である。この連邦経営の本質は、中小企業単独では実現困難な設備投資や人財採用を持株会社が支援しながら、現場の自律性を損なわない経営にある。中小企業には設備投資の体力がないため、持株会社体制により順番に各社の設備を更新し、単なる老朽化対策ではなく「採用にインパクトを与える働きやすさ」を重視した投資を実行している。M&Aで迎え入れた企業も、既存の経営陣と企業文化を尊重しながらグループに統合することで、買収後の混乱を最小化しているという。自律分散型の組織設計が、変化の時代における競争力の源泉となっている。

  当日の会場となった、グループ会社「みづほ工業」視察の様子 1 当日の会場となった、グループ会社「みづほ工業」

「人財重視経営」とリーダーシップによる組織風土の醸成

同社の経営の根幹にあるのは「人財重視経営」である。上田会長が提唱するリーダーシップ論は「VSOP人間」と「新PDCA」である。VSOPとは、バイタリティー(活力)、スペシャリティー(専門性)、オリジナリティー(独創性)、パーソナリティー(人間性)を指し、全員が同じである必要はないと強調した。新PDCAとは、Passion(情熱)、Dream(夢)、Challenge(挑戦)、Action(行動)のサイクルであり、自律的な成長を促すモデルである。

 

上田氏は「現状維持は後退である」と語る。祖業の売却やM&Aという大きな変化に対して社内に抵抗があっても、粘り強く向き合い続けることがリーダーのパッションであるという。人財を重視し、リーダーシップで組織風土を醸成することが、変化の時代を生き抜く製造業の未来モデルを支える基盤となっている。

  視察の様子 2 視察の様子

PROFILE
著者画像
上田 孝 氏

サノヤスホールディングス株式会社 代表取締役会長