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研究リポート
食品価値創造研究会
AI・IoT・DX・フードテックなどの新たな潮流が、食品業界においてもさまざまなイノベーションを起こしています。新市場創造の最新事例を学びます。
研究リポート 2025.10.01

夢風ひろばのこれまでとこれから 尾田組×日本アシスト

【第4回の趣旨】
今期の食品価値創造研究会では、「食品業界の『E・A・T』を極め、新たな顧客価値を創造する」をテーマに、従来の常識・手法・商習慣に捉われることなく、食の“E・A・T”視点で先進企業から学びを得ることにより、食品業界の新しい時流をつかみ、新たな顧客価値を創造することを目指している。
第4回1日目Ⅱ講目は、「歴史ある土地で2人3脚で作り上げた地域のための街づくり」をテーマに、尾田組監査役の中山芳明氏と日本アシスト代表取締役社長の阿江秀典氏に、夢風ひろばの成り立ちや「なら・食と生活文化の発信」というコンセプトについてタナベコンサルティング田崎が進行のもと、ご対談いただいた。

開催日時:2025年8月21日(奈良開催)


*本研究会のテーマ「E・A・T」の解説

 

はじめに

 

尾田組の創業は1830年(天保元年)。宮大工として出発し、東大寺や春日大社などの寺社建築を手がけたのち、奈良国立博物館などの建築を通じて建築・土木分野へと事業を拡大していった。

 

夢風ひろばは尾田組旧本社移転跡地(約2400坪)の土地活用を目的として、2008年に開業した施設である。敷地内にあった旧本社棟や木造平屋建築をリノベーションして誕生した。当初は運営ノウハウが乏しく、「観光地の中心という立地の良ささえあれば事業は成立する」という考えのもと、明確なコンセプトを持たない施設となっていた。

 

2015年、地方銀行からの縁で中山氏が総務部長として尾田組に入社。施設の現状を目の当たりにした中山氏は、かねてより縁のあった日本アシストの阿江社長に相談。商業施設の再生や管理運営に強みを持つ同社に2016年から業務を委託した。施設運営の方針として掲げたのは「年齢・人種・宗教・社会的背景にとらわれることなく、世界に開かれた奈良観光の憩いの“ひろば”を目指す」という理念であった。ここから両者の二人三脚による歩みが始まる。

 

尾田組、日本アシスト

 

 


 

歴史や地域との繋がりをブランド価値へ転換する

 

2017年には日本アシストへの基本事業の継承が完了。遊歩道の動線を強化し、奈良の奥ゆかしさを活かした施設リニューアルに着手した。「この場所を少しでも長く残したい」という先代社長の想いを引き継いだ中山氏と、「地域に長く愛される施設をつくる」という阿江氏のミッションが重なり、再生への道が開かれた。

 

施設は、奈良公園・東大寺門前という立地や、奈良の歴史的景観といった地域資源をデザインやブランドコンセプトに反映。また、テナント構成も地元野菜や工芸品を扱う直売所「東大寺門前市場」や、麻素材の物販と併設カフェ「幡・INOUE」など、奈良の特産品を中心に据えることで、地域に根差した「奈良らしさ」を表現。また、アウトドアブランド「モンベル」では奈良限定グッズの販売など、“ここでしか買えないもの”を販売することで集客を図っている。

 

夢風ひろばではリニューアルを通し、歴史や地域との繋がりをブランド価値へ転換

 

 

顧客目線での“入りやすさ”を再設計。体験で差別化をする

 

「立地さえ良ければ人は来る」という発想だけでは持続できない。2017年以降はテナント構成やレイアウトを見直した。高級店主体で敷居が高く観光客が入りにくかった状況を改善し、価格や雰囲気を調整。さらに間口を広げ、入りやすい設計に改修することで来訪者数を増やした。

 

また、単に店舗を並べるのではなく「回遊性」や「休憩スペース」を取り入れることで、観光中に安心して立ち寄れる休憩・補給ポイントとしても機能している。

 

実際に訪れると、奈良県の観光インフォメーションセンターもありインバウンド顧客へ向けての対応や、着物に着替えてすぐ観光地へ出かけることができる「Wakana style」の着物レンタルも盛況だった。

 

夢風ひろばマップ
夢風ひろばマップ

 

地域との繋がりを守り、奈良発信の中心地へ

 

夢風ひろばは、観光需要の波に依存するリスクを踏まえ、長期的に収益を安定させる仕組みを構築。単発的な集客に頼らず、季節ごとのイベントや展示を通じて「再訪の理由」を提供し、地元事業者との連携により地域経済の循環にも貢献している。

 

奈良は古都として歴史文化のイメージが強い一方で、他府県に比べ「食のブランド認知」が弱いという課題がある。夢風ひろばはその課題に応える形で、ゐざさの「柿の葉寿司」や、NARAD Parcsideの「奈良県産米粉を使用したクレープ&アイス」など、温故知新の精神に基づき幅広い奈良の食文化を体験・発信する拠点として機能している。

 

これからも「不易」を土台に据えつつ「流行」を取り入れ、進化を続けることで、持続可能な事業モデルを形成し、伊勢のおかげ横丁のように奈良観光時は夢風ひろばへというイメージを醸成し、「奈良発信の中心地」を目指していく。

 

夢風ひろば シンボルツリー
夢風ひろば シンボルツリー

 

(左)株式会社日本アシスト 代表取締役社長 阿江秀典氏 (右)株式会社尾田組 監査役 中山芳明氏

(左)株式会社日本アシスト 代表取締役社長 阿江秀典氏
(右)株式会社尾田組 監査役 中山芳明氏