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研究リポート
DX戦略推進研究会
本研究会では、データ活用による付加価値の向上と人材育成の推進の要諦を学びます。
研究リポート 2025.08.28

「がんばれ!!日本のモノづくり」を支えるトラスコ中山のデジタル戦略 トラスコ中山

【第6回の趣旨】
DX戦略推進研究会では、データの活用による付加価値向上と人材育成の推進、そのための骨太のDX戦略をテーマとして、DX推進のヒントをご提供。生成AIなどの先進的なDX推進活動で顧客とのコミュニケーションモデルの創造や、革新的な業務改善を実現している企業をご紹介する。
第6回は「企業価値を高めるデータ活用~真のDX化~」をテーマに、デザイン経営モデル研究会(第6回テーマ:データ利活用デザインで描く、顧客/社員の体験価値)と合同で研究会を実施。全ステークホルダーの体験価値、社会価値を変容させ、経営の意思決定の質とスピードを飛躍的に向上させるためのデータの力×デザインの力の可能性について学んだ。

開催日時:2025年7月28日(東京開催)

 

はじめに

 

工場や建設現場で使用されるプロツール(工具や運搬用品など)の商社であるトラスコ中山は、最も遅い業界参入であったが、数々の革新により現在では61万アイテムもの商品を取り扱うまでに成長を遂げている。仕入先は3600社以上、販売店は機械工具商、ネット通販企業、ホームセンターなど5600社を超え、日々、多くの取引先や販売店、商品情報の管理を行っている。同社では「在庫は成長の源泉」と捉え、買い手目線で豊富な品ぞろえを実現している。

 

同社のありたい姿として、売上高などの数値目標以上に、「2030年までに在庫100万アイテムを保有できる企業になりたい。」や、「問屋であってもユーザー様直送をストレスなくできる企業になりたい。」といった「こういう会社になりたい」という将来像を大切にし、企業活動に取り組んでいる。

 


トラスコ中山の売上高と在庫出荷数の推移。在庫アイテム数を増やすほど、売上高が伸びていることが分かる
出所:トラスコ中山ホームページ

 


 

デジタル活用で利便性を磨く

 

同社は、「トラスコならある」というフレーズを掲げ、2030年までに100万アイテムの在庫拡充を目指している。この目標を実現可能にしているのが、最新のマテハン・ロボットを活用した倉庫と、在庫管理システム「ZAICON3」による在庫1品ごとの需要予測を活用した在庫管理である。保管能力と出荷能力の向上、さらには社内外の利便性を常に追求している。特に在庫管理についてはロングテール商品も多く在庫保有していることから、ロジック設計を精緻に行い、AIによる需要予測の精度を高めることで適正在庫を確保。即日納品体制、在庫出荷率92.6%、廃棄率0.14%という高い水準を実現している。

 

このように、同社は「DXは手段であって目的ではない。在りたい姿を実現するための徹底したデジタル活用」という考えのもと、デジタル技術による企業価値の向上を推進している。

 

お客さま目線のDX

 

同社では、自社が保有するデータを「核」として、サプライチェーン全体の利便性向上を実現している。例えば、販売店向けにはAIによる自動見積回答システム「即答名人」を活用し、販売実績や適正価格、納期などのデータを活用することで、受注確定までの時間を短縮している。また、置き薬のようにユーザー工場内に専用棚を設置し、納期ゼロを実現する「MROストッカー」や、最新の商品情報をスピーディーに反映できる、商品データベース「Sterra」、販売店が商品の受発注を行うECサイト「トラスコ オレンジブック.Com」、ユーザーが商品の受発注を行うECサイト「トラスコ オレンジブック.Com クロス」といった利便性向上のためのサービス展開を行っている。これらにより、システム経由での受注率が88%に向上し、社内業務の効率化と顧客利便性の向上を両立させている。


ユーザー工場内に専用棚を設置し、納期ゼロを実現する「MROストッカー」で究極の即納を実現
出所:トラスコ中山ホームページ

 

DX・IT部門に求められるリーダーシップ

 

同社はこれまで、事業・業務部門からの要望を正確に把握し、システムに実装する方法でデジタル化を推進してきた。結果として、過去のやり方への固執や個別最適、経営・ビジネスとITとの非連携といった課題が生まれた。

 

そこで同社は、トップ主導で「お客さまへの価値向上」を実現するための「ToBe発想」を徹底している。業務やシステムの刷新はその結果であり、DX推進による効果は「利便性向上」に軸足を置いている。

 

DX・IT部門には、現場の実態を常に把握し、経営メンバーと主体的にコミュニケーションを取りながら、中長期的かつ総合的な視点に基づき判断する能力が求められる。単に指示されたことを実行するだけの部門ではなく、「新しいサービスを生み出す源泉たる部門」に変革いただきたい。


トラスコ中山が運営する、総合カタログ「トラスコ オレンジブック」とECサイト「トラスコ オレンジブック.Com」
出所:トラスコ中山ホームページ

PROFILE
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数見 篤 氏
トラスコ中山株式会社 取締役