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研究リポート
食品価値創造研究会
AI・IoT・DX・フードテックなどの新たな潮流が、食品業界においてもさまざまなイノベーションを起こしています。新市場創造の最新事例を学びます。
研究リポート 2025.07.25

にしき食品のあゆみと素材にこだわった商品づくり にしき食品

【第3回の趣旨】
今期の食品価値創造研究会では、「食品業界の『E・A・T』を極め、新たな顧客価値を創造する」をテーマに、従来の常識・手法・商習慣に捉われることなく、食の“E・A・T”視点で先進企業から学びを得ることにより、食品業界の新しい時流をつかみ、新たな顧客価値を創造することを目指している。
第3回は、「素材を活かす心意気に出会える旅」をテーマに、震災を乗り越え、良質な素材の「おいしい」を届け続ける宮城から、その“素材”を活かすためのE・A・Tにおける取り組みを学ぶ。

開催日時:2025年6月27日(宮城開催)

*本研究会のテーマ「E・A・T」の解説
*本研究会のテーマ「E・A・T」の解説

 

はじめに

 

株式会社にしき食品は1939年仙台市五橋で創業した、宮城県に本社を置く食品メーカーで、レトルト食品の製造・販売を手掛けている。厳選素材を使用したカレーやスープなど、こだわりの味を提供し、品質と安全性に配慮した商品作りで支持を集めている企業である。

 

菊池氏は1973年に凸版印刷へ入社し、8年勤務。当時、レトルト釜が販売され、凸版印刷はレトルトパウチの商品展開に注力していた。1975年、先代社長がテスト用のレトルト釜を導入したことをきっかけに、菊池氏は営業マンとして、取引先の社長という関係性からお付き合いが開始した。そして1981年、菊池氏は凸版印刷を退職してにしき食品へ入社し、新たなレトルト食品の開発強化に着手してきた。

 

本日は企業の商品価値をどのように高めているのか、素材、商品開発、製造工程のこだわりも開示いただきながら、菊池氏にご講演をいただいた。

 

にしき食品空港南第1工場、第2工場
にしき食品空港南第1工場、第2工場

 


 

徹底して商品を磨く(水・素材・設備)

 

同社のものづくり思想は、「水」にこだわり、「塩」にこだわり、「素材」を活かす。これを徹底的に追求することである。特に「水」へのこだわりは強く、「一番の原材料は水であり、当社最大のノウハウは自社開発の浄水器。開発のツボが全て浄水器に詰まっている」と菊池氏は語る。また、食品添加物に頼らず、素材本来のおいしさを最大限に引き出すことをモットーにしている。

 

東北の素材シリーズでは、地域素材の活用にも力を入れ、東北の復興を応援したい想いも込めて、商品展開している。塩害による苦悩を乗り越えた井土ねぎや雪の下で越冬する雪人参など、地域特有の素材を使用したポタージュ商品を開発した。

 

さらに、「塩」にもこだわり、肉料理には岩塩、スープには海水塩といったように、用途に応じて使い分けることで、食材本来の味を引き出す工夫をしている。これらの取り組みは、同社の「素材を活かす」という理念を体現しており、地域と共に歩む姿勢が感じられる。

 

にしき食品で使用されている浄水器
にしき食品で使用されている浄水器

東北の素材シリーズ 商品ラインナップ
東北の素材シリーズ 商品ラインナップ

 

 

商品開発と人材への投資(インド探求・リブランディング)

 

2010年から本格インドカレーの商品開発のため、何度もインド視察を実施してきた。カレー作りへの飽くなき情熱を注ぎ、商品開発・人材への投資を惜しまず、独自の挑戦を続けた。重要な原料の一つであるカレーリーフは、フレッシュな状態のものが日本国内では手に入らない。

 

この課題を克服するため、宮城での栽培に挑戦するなど素材へのこだわりを徹底した。地元との連携にも力を入れ、蔵王のチーズ工場と協力して地元素材を生かした商品開発を推進した。製造工程では手作りを取り入れ、辛さだけでなく「うまみ」を重視した味作りを追求している。

 

また2011年に誕生した自社ブランド『にしきや』から、2021年『NISHIKIYA KITCHEN』へとリブランディングし、新ブランドとして生まれ変わった。商品の中身が見えることで視覚でおいしさを訴求するよう変化し、専門ブランドへと進化している。

 

『NISHIKIYA KITCHEN』岩沼店 ビーフカレー
『NISHIKIYA KITCHEN』岩沼店 ビーフカレー

 

マーケットを選び、レトルト食品の新たな価値を向上させる

 

レトルト食品の新たな価値を創造するために、マーケットを選び抜き、戦略的な連携を進めている。業務用商品をメインにしていたが、価格競争が激しくなり、ものづくりについては妥協したくないという想いから小売り用商品に力を入れ、自社ブランドを立ち上げた。結果として、消費者のライフスタイルに寄り添う新たな市場を開拓、レトルト食品の可能性を広げている。

 

『NISHIKIYA KITCHEN』は “世界の料理を「カンタン」に。”をコンセプトに、カレー、スープ、パスタソースなど、約120種類のレトルト食品を取り揃えている。このコンセプトの想いは、レトルト食品を「手抜き」ではなく、「カンタン」にすること、世界中の料理を手軽に楽しめるようにすること、さらにキッチンにいる人の負担を軽くすることが込められている。

 

“レトルトだけどおいしい”から“レトルトだからおいしい”へ。レトルト食品の価値をさらに高めていく会社であり続けるため、同社は日々挑戦を続けている。

 

(公式オンラインショップ:https://nishikiya-shop.com/

 

『NISHIKIYA KITCHEN』レトルト商品ラインナップ一例
『NISHIKIYA KITCHEN』レトルト商品ラインナップ一例

PROFILE
著者画像
菊池 洋氏
株式会社にしき食品
代表取締役会長