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研究リポート
企業価値を高める戦略CFO研究会
経営者・経営幹部は、事業価値・企業価値を見極め、事業ポートフォリオを最適化する必要があります。会計ファイナンス思考による戦略的意思決定を学びます。
研究リポート 2025.07.04

ユーザーベースのこれまでの挑戦・失敗と現在地 ユーザベース

【第3回の趣旨】
タナベコンサルティングの「企業価値を高める戦略CFO研究会」の第3回テーマは「事業ポートフォリオマネジメントと戦略CFOの役割の進化」である。
企業価値を高めるためには、事業ポートフォリオの設計が極めて重要であることを、ユーザベースや三菱電機の講義を通じて学んだ。研究会参加者は、事業ポートフォリオ戦略が成長戦略にどのように寄与するか、その描き方やポイントについて、具体的な知見を得ることができた。
また、失敗体験からも多くの学びがあり、特に過去の失敗を分析することで成功に繋がる戦略を見出す重要性を再認識した。

開催日時:2025年6月18日(東京開催)

 

はじめに

 

ユーザベースは、企業活動の意思決定を支える情報プラットフォーム「スピーダ」を日本国内および海外に展開し、国内最大級のソーシャル経済メディア「NewsPicks」を日本で展開している。

 

同社の上席執行役員CFOである千葉大輔氏より、「これまでの挑戦・失敗と現在地について」をテーマに、NewsPicks事業の非連続成長を目的とした、米国企業Quartz社の買収から撤退(売却)までの経緯、TOBの背景と投資家との対話、PEファンド傘下での経営について、2016年の上場から2022年の非公開化の公表までの6年間と現在の取り組みについて解説いただいた。

 


ユーザベースの事業 出所:ユーザベース講演資料

 


 

2016年上場から2022年非公開化までの6年間

 

ユーザベースは2016年の東証マザーズ上場後、業績は小型ながら順調に推移し、株価も安定した成長を遂げていた。2018年には、非連続な成長とNewsPicks事業のグローバルエクスパンジョンを目指し、ジャーナリズムとモバイル技術を組み合わせた経済メディアを展開する米国企業Quartz社を総額約100億円で買収した。買収後、複雑化したファイナンスストラクチャーと機関投資家の期待との間にズレが生じ、株価は下落傾向に陥った。

 

千葉氏はこの出来事を振り返り、「買収時のファイナンスストラクチャーはシンプルにする必要があり、CEOが主導する場合にはCFOがけん制しつつ、財務部門およびIR部門を買収プロジェクトの初期から関与させることが重要である」と説明した。

 

その後、コロナ禍の影響もありQuartz社の業績は悪化し、2020年にQuartz社を売却した。売却後は株価回復に向けて売上成長重視の方針を公表したが、投資家の理解を得ることができず、低迷が続いた。

 


他社SaaS企業同様、売上成⻑重視の⽅針を公表。しかし、同社の株価は戻らなかった 出所:ユーザベース講演資料

 

TOBの背景と投資家との対話

 

TOBの決め手は、中長期的な成長のための投資と、迅速にプロダクト構造を転換し、高い収益性と成長を実現する基盤を構築することである。その背景には、①投資家やアナリストとの対話を通じて得たアドバイスを基に開示を改善しても、株価の回復が見込めなかったこと、②株主や債権者などのステークホルダーに対して説明責任を果たしながら構造転換を行うには、多大なコスト負担が伴うこと、③米国では成長企業が非公開化を行った後に構造改革を経て再上場するケースがあることの3点があった。

 

また、既存および新規の経営メンバーの株式保有比率を上げることで、株主と経営者の方向性の一致を図り、成長への推進力を高めている。

 

PEファンド傘下での経営

 

千葉氏は、PEファンド傘下の未上場企業となったメリット・デメリットを解説した。

 

メリットは、①株主が1名体制となり、最終意思決定が迅速であること。②株式市場を意識した意思決定が不要であること。③株式報酬などのインセンティブ設計の柔軟性、の3つが挙げられる。

 

一方、デメリットは、①株主が「No」と言えばそれが最終的な決定となること。②四半期のリズムがなくなること。③取締役会の多様性が薄くなること、の3つである。

 

また、2023年2月の非公開化後の取り組みとして、同社は取締役会の構成変更と権限の見直し、SaaS事業とNewsPicks事業の融合に向けた事業再編を実施している。現在、同社は再上場に向けてコア事業であるスピーダ事業とNewsPicks事業への投資を強化している。

 


再上場に向けてコアアセットへ投資を強化 ※数字は全て2025年1月1日時点
出所:ユーザベース講演資料

PROFILE
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千葉 大輔氏
株式会社ユーザベース 上席執行役員CFO