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研究リポート
食品価値創造研究会
AI・IoT・DX・フードテックなどの新たな潮流が、食品業界においてもさまざまなイノベーションを起こしています。新市場創造の最新事例を学びます。
研究リポート 2025.06.16

コモディティー化に抗うブランド戦略 サントリー食品インターナショナル

【第2回の趣旨】
今期の食品価値創造研究会では、「食品業界の『E・A・T』を極め、新たな顧客価値を創造する」をテーマに、従来の常識・手法・商習慣に捉われることなく、食の“E・A・T”視点で先進企業から学びを得ることにより、食品業界の新しい時流をつかみ、新たな顧客価値を創造することを目指している。
第2回は、「進化・変革:transformation」を切り口として山梨県にて4社を視察した。
それぞれの事例において「変わる」きっかけとはどのようなものであったのか、そして、「変える」技術はどのようなものであるのか。時代のニーズを捉え、製品・サービスに落とし込む変革を行う企業を訪問し、新たな付加価値創造戦略のポイントをご講演いただいた。

開催日時:2025年5月8~9日(山梨開催)

*本研究会のテーマ「E・A・T」の解説
*本研究会のテーマ「E・A・T」の解説

 

はじめに

 

第2回山梨開催の1日目として、「サントリー天然水<南アルプス>」のふるさとである、山梨県北杜市にある白州工場を訪問した。新緑の季節、空気も澄んでいて、大きく深呼吸をするととても気持ちの良い日であった。

 

サントリーグループといえば、「水と生きる SUNTORY」というコーポレートメッセージがあまりにも有名である。南アルプスに囲まれたこの土地で、どのように天然水が生まれ、私たちのもとに届いているのかを、工場を見学させていただきながら学ばせていただいた。

 

またサントリーグループのソフトドリンク部門であるサントリー食品には、「伊右衛門」「BOSS」「C.C.レモン」をはじめとするヒット商品が多数あるが、これらは競合他社の商品が多い領域でもある。価格競争が激化し、商品が同質化することを「コモディティ化」というが、コモディティ化を避けるべく、どのように戦略を推進しているか、サントリー食品インターナショナル株式会社の多田誠司氏に講演いただいた。

 

サントリー天然水南アルプス白州工場
サントリー天然水南アルプス白州工場


 

「おいしくて安全な水の供給」と「自然との共生」の両立

 

「サントリー天然水」は4種類(南アルプス・北アルプス・奥大山・阿蘇)あり、1996年に建設された「天然水南アルプス白州工場」がその最初なのだそうだ。この土地に降った雨は、工場のすぐ裏手にある南アルプスの山々に蓄えられ、そして花崗岩の岩盤にゆっくりと浸透することで、ミネラル豊富な地下水となる。雨や雪から地下水になるまで、なんと20年もの年月がかかるのだそうだ。

 

こうして汲み取られた地下水は、自動化の進んだ工場でボトリングされているが、微生物検査や人の五感による官能検査など、品質管理も徹底している。また、ペットボトルの軽量化を進めているほか、2030年までにリサイクル素材あるいは植物由来素材を100%を使用することも目指している。

 

このようにして、おいしくて安全な水の供給と自然との共生を両立しているのである。

 

サントリー天然水<南アルプス>が次々とボトリングされ、私たちの元へと届けられる
サントリー天然水<南アルプス>が次々とボトリングされ、私たちの元へと届けられる

 

 

まず、区別。のち、成長。

 

続いて「コモディティ化に抗うブランド戦略」として講演いただいた。

 

現在ペットボトルのお茶には多くの種類があり、どれもおいしい。この「どれも良い」は、「どれでも良い」になり、コモディティ化しているのである。多田氏によれば「だから区別をしなければいけない。その後に成長がある」である。

 

成功事例として挙げていただいたのが「特茶」だ。「特茶」には脂肪分解酵素を活性化させる「ケルセチン配糖体」を含み、これが体脂肪減少をサポートするのだが、このエビデンス(証拠)をテレビCMを含めて徹底的に訴求している。また最近では「歩く+特茶で減るに差がつく」という新エビデンスも訴求し、「特保のお茶」から「特別なお茶」へと昇華させ、さらに毎日の健康生活に不可欠な存在となることで、ヘビーユーザー層の獲得へつなげている。まさに「まず、区別。のち、成長。」を実現していると言える。

 

サントリー「特茶」 「伊右衛門」の商品ラインナップ
サントリー「特茶」 「伊右衛門」の商品ラインナップ

 

 

終わりなき「脱コモディティ化」の戦い

 

もう一例が、緑茶「伊右衛門」である。京都の福寿園と共同開発した商品で、発売は2004年にさかのぼる。ペット緑茶は「お~いお茶」「綾鷹」「生茶」のほか、コンビニPB商品など、競争が激しい領域であり、発売以来何度もリニューアルを繰り返している。

 

その中でも最大のリニューアルが「淹れたて緑」である。「伊右衛門」といえば鮮やかな緑色を想像する方が多いのではないだろうか。緑茶の購買層のうち、月1本未満の購買層が75%と大半を占めることに着目し、「であればパッと見て手に取るものを」として鮮やかな緑色の緑茶を出すことにし、様々な淹れ方の試行錯誤の末に完成した。現在、ラベルレスのペットボトル商品は珍しくないが、コンビニやスーパーの店頭に並んだのは、「淹れたて緑」を見せるためにサントリーが始めたのが初めてである。

 

他社も様々な工夫をしてくる緑茶をめぐる熾烈な競争。トライ&エラーを繰り返しながら、瞬発力と持久力で「脱コモディティ化」の戦いを続けている。「まだまだ苦労しているのです」と苦笑いする多田氏だが、秘めたる闘志があふれているように感じられた。

 

緑に囲まれた白州工場、そのセミナールームで講演いただいた
緑に囲まれた白州工場、そのセミナールームで講演いただいた

PROFILE
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多田 誠司 氏
サントリー食品インターナショナル株式会社
ブランドマーケティング本部部長