【第5回の趣旨】
タナベコンサルティングの第5回ナンバーワンブランド研究会では、ブランデッドを確立し地域を笑顔に導いている先進企業事例として株式会社WELLZ UNITEDへ訪問し、講演および視察を実施した。同社はステークホルダーとの信頼関係を重視し、社会課題の解決を企業活動の中心にとらえ、持続可能な未来を目指す。講義と視察から、地域や社会と連携しながら価値を創出する姿勢や持続可能な未来について考える機会となった。
開催日時:2025年5月12日(京都開催)
はじめに
井上氏は大学卒業後、英国ロンドンにてホテルマネジメントを学んだ後バリ島でホテル経営に携わり、2003年に井上株式会社3代目経営者に就任した。
同社は「毎日がちゃんと幸せで成長するいい会社を創る」をモットーに、2020年廃校RE活用施設「THE610BASE」を開設。いちご農業、クラフトビール醸造所、カフェやイベントの運営などを通じて地域を笑顔に導いている。
組織は24チームに分かれており、日常業務の多くは各自が考え行動。年間500件程アイデアが飛び交うほど自由に意見を出し合ったり、社内SNSで起こった出来事を可視化して共有するなど、自由闊達な職場づくりが成されている。「自己信頼」「他社信頼」「組織信頼」「社会信頼」を毎日丁寧に実施することで顧客の信頼を集め、顧客の期待を超える価値を提供することに成功している。
「THE610BASE」内にあるハウス栽培のイチゴ農園
ブランデッド ~約束と信頼を積み重ねてきた歴史~
「ブランディングで手っ取り早く浸透するのはブランドではない。顧客に対する約束と信頼を積み重ね、振り返った今結果としてブランデッドであった」と井上氏は話す。ブランディングとブランデッドは大きく異なる。ブランディングの本質は意図的な「設計」や「演出」であり、「今・これから『どう見せるか』」であるのに対し、ブランデッドは無意識に「築かれた印象」や「選ばれた結果で」、「過去の積み重ねとして『今、どう見られているか』」である。ブランディングの手段はロゴや広告、SNSなどであるのに対し、ブランデッドは体験や対応、記憶、口コミを主な手段としており、コントロールが出来ない心情に関わる。ブランドされた状態を積み重ね信頼を得ることが、ステークホルダーに対して約束し続ける「質」となり、結果として全てのステークホルダーの笑顔につながるのである。
「THE610BASE」内にあるクラフトビール醸造所
ブランディングアプローチ
同社のブランディングアプローチは「社員」「顧客」「アライアンス」「地域」といった4つのステークホルダーに対して展開している。
1つ目の社員には提案活動「idea spiral(アイデア提案)」などで一体感を醸成し、日常の取り組みとインナーブランディングを同期させている。2つ目の顧客にはロゴ刷新やホームページ更新、展示会出展、クレーム収集を通じて信頼構築を図っており、社内で醸成できていないことは決して外へ表現しないと決めているという。3つ目のアライアンスには経営方針発表会や懇談会、講演会を通じて関係強化を推進し、長期的な相互利益の追求を図っている。4つ目の地域には清掃活動や寄付、地域イベントへのスポンサードを通じて共生・共創を実現している。
「THE610BASE」内にあるカフェ
「楽しい」が人を繋ぎ、人を集め、人を笑顔にする
「THE610BASE」は、地域を幸せにしたいという思いから誕生した。社会課題の解決を目的に行動を始めたわけではなく「楽しい」と感じることや「楽しい」と思ってもらえることを追求した結果、社会課題の解決につながったという。
過疎化、就農人口の高齢化・減少、休耕地拡大、観光資源不足などの地域課題がある中で、「THE610BASE」は人々が混じりやすい場を提供し、新しい農業6次化モデルの構築や、新たな地域コミュニティーおよび観光資源の創出、地域防災拠点の維持、障がい者雇用の創出、循環型農業の推進、地域資源の価値化など、多面的に課題を解決している。課題はまだ多く残されているが、全ての課題は地域を笑顔にするための材料と捉え、前向きに取り組んでいる。
「THE610BASE」内にあるスケートボードの練習場
「THE610BASE」内の壁アート
