【第3回の趣旨】
当研究会では、データの活用による付加価値向上と人材育成の推進、そのための骨太のDX戦略をテーマとして、DX推進のヒントをご提供。生成AIなどの先進的なDX推進活動で顧客とのコミュニケーションモデルの創造や、革新的な業務改善に実現している企業をご紹介する。
第3回は、「デジタルを活用した組織運営」をテーマに、側島製罐、協和工業、オーテックの3社からDXを活用した組織変革の着眼点や具体的な取り組みについてご講演いただいた。
開催日時:2025年1月23日(愛知開催)
はじめに
側島製罐の代表取締役である石川貴也氏が入社した2020年当時、同社は業績が大きく減収傾向にあり、労働環境も“昭和のモノづくり企業”と言っても過言ではない企業風土であった。事業面・経営面の双方で、マーケットの変化に適応できていない状況が散見され、石川氏はその実態に強い危機感を抱いたという。
そのような状況の中、石川氏は「良い人生からしか良い仕事は生まれない」というコンセプトを経営の軸に据え、自らのリーダーシップと全社員を巻き込んだ活動を通じて、「目的のあるDX」を組織で推進している。
2020年当時の「令和時代に存在する“昭和モデルのモノづくり企業”」から、「目的(なぜするのか)を重視した『自律分散型組織』」への変革を目指した。今回は、変革に向けた取り組みについてお話をいただいた。
「Why」の明文化と共感をつくる活動に向けたステップ0「社内意識改革」
同社がさまざまな課題に対して社内改革を進める上で、石川氏は「DXは1人の力で成功するものではなく、DXを活用して『なぜ(Why)したいのか?』を明確にすることが必須であり、その次に『なぜ(Why)』を社員が理解し、共感を生むことが事前準備として必要である」と明言している。この考え方が、同社の変革ストーリーの根底にあり、成功へとつながるサクセスストーリーを支えている。
2020年当時、同社には経営理念や人事制度、役職定義など、DXに限らずあらゆる経営テーマに関する規定や制度が存在しなかった。そこで石川氏は、全社員の半数以上が参画する形で、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を策定する社内プロジェクトを約1年かけて実行した。このプロジェクトは、単に不足している制度をつくることが目的ではなく、社員の「なぜ(Why)」に対する認識を結束させることを活動方針とし、その後の変革のきっかけを生み出す重要なステップとなった。
側島製罐のMVV
出所:側島製罐ホームページ
代表のリーダーシップと決意から始まる徹底した「率先垂範」
MVVの策定と並行して同社のDXを活用した社内変革の成功を支えたもう1つの重要な要素は、石川氏の「率先垂範」の姿勢である。変革当時、石川氏はDXに関する専門的な知見を持っていなかったが、さまざまな書籍を読み、社員に対して経営者自らが学び続ける姿勢を示した。この姿勢は、社員に対してDXの重要性を伝える上で大きな影響を与えた。
石川氏は、「DXがどのように生産性向上や成長を実現するのか(Why)」を自らの言葉で社員に説明し、共感を得る活動を続けた。その結果、全てのPCのスペック向上(生産性向上)や、社内チャットツールの導入(社内間のコミュニケーショントラブルの解消)、帳票類の電子化・見える化(生産性向上)など、5年足らずで数々のDXを実現し社内変革を大きく前進させた。代表のリーダーシップと決意が、同社の変革を成功へと導いているのだ。
側島製罐のDX推進事例
トップダウンから自律分散型組織への変革
石川氏の率先垂範の姿勢(旗振り役)は、DX推進において重要な役割を果たしているが、同時に「組織と人の協力体制をつくること」を重視している。
同社のポリシーとして、トップダウンではなくボトムアップの経営体制を徹底しており、社員の自発的な声をもとにプロジェクトを推進している。各種システムツールの導入・運用や、現場改善、社内リノベーションなどの多角的な社内プロジェクトは、プロジェクトメンバーが意思決定までを担うプロセスで遂行されており、まさに自律分散型組織への変革を体現している。
ユニークな施策として、「自己申告型報酬制度」が挙げられる。この制度は、代表や管理職による評価ではなく、社員自身が自らの業務貢献を踏まえて「自分に投資してください」と自己申告する仕組みである。また、役職を撤廃し、サークルやチームのように自由に“役割で動ける”環境を整備することで、社員が主体的に「良い仕事場」をつくる文化をデザインし続けている。
講演の様子
