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研究リポート
コンシューマービジネス研究会
変容する社会課題や顧客課題を的確に掴み、ドメインとバリューチェーンの拡大を切り口にした新たな「ライフスタイル価値」を創造するための真髄に迫ります。
研究リポート 2025.02.20

「斜陽産業」の新たな可能性 トゥトゥモロウ

【第2回の趣旨】
タナベコンサルティングのコンシューマービジネス研究会第3回は、「ブランディング」と「マーケティング」をテーマに開催した。
タナベコンサルティングは、次の3点を提言している。
❶自社の事業や専門性を再定義し、新たな価値を生み出す
❷自社の経営資源を生かし、非顧客を顧客化する
❸アジャストするためのビジネスモデルを構築する
未開のマーケットを開拓し、非顧客を顧客化するために最も重要な戦略アプローチがブランディングである。今回は、ゲスト企業2社の講演から企業理念を大切にしたブランディングや持続可能な未来への挑戦を学んだ。
研究会参加者は、自社事業の強みや専門性を再定義し、新たなマーケットと新たな価値を創造し続ける2社の講義を受け、自社の企業価値を高めるブランディングの重要性や、ユーザーとのコミュニケーション手法を学んだ。

開催日時:2025年1月28日(福岡開催)

 

 

はじめに

 

トゥトゥモロウは、1999年に設立したファッションメンテナンス業務を担う企業である。日本初の宅配クリーニング「ラクーンデリバリー」を開業後、リペア、インキング(染色補正)、リフォームなど、衣服修繕のコア技術によるメンテナンス事業を行っている。

 

自社ではクリーニング工場を1つだけしか保有しておらず、メニューによっては、技術力の高いメンテナンス工場や職人とも連携。「ファッションメンテナンス」×「IT」で顧客の「不」を解消する事業やサービスを展開している。

 

「常に、新しい価値観を創造していきたい」という思いをもとに、事業内容の枠にとらわれず、常に顧客のニーズをかなえることを目的に新たなメニューを立ち上げる、挑戦心にあふれた企業である。

 


「お気に入りの1着をいつまでも。」をキャッチフレーズに、洋服への「想い」「愛着」にリフィニッシャー(職人)が直接応えるリフォーム&クリーニング店「ニュースタイルラボ」。店舗倉庫にはユーザーからの依頼商品が並び、その場で職人が作業を行う

 


 

市場ニーズに合わせたブランディング

 

起業当初はデリバリークリーニング事業を行っていたが、クリーニング市場の需要規模減少という時代背景や、デリバリークリーニング事業が競合他社でも展開が容易なことから、差別化のために「ファッションメンテナンス」企業へのリブランディングを行った。

 

知人からの意見をもとに、これまで無料サービスが常識だった「しみ抜き」を有料化。

 

ワンランク上のしみ抜きサービス「匠抜き」を立ち上げた。これを先駆けに、モノに対しての“こだわり”や“愛着”を持った人の衣服に対するニーズに応えるべく、卓越したメンテナンスサービスのほか、衣類を長く大切にするファブリックケアブランドの洗剤・柔軟剤を使用した最高品質のクリーニングサービス「ザ・ランドレスクリーニングラボ」を展開。衣類を1点ずつ採寸してメンテナンスのカルテを作成するなど、顧客の希望にきめ細かく応えるメニューを用意している。

 

創業当初の「クリーニング」という冠ではなく、「ファッションメンテナンス」を行う企業として顧客価値を高めているのである。

 

 


他店で断られた染み抜きも請け負う、有料染み抜きサービス「匠抜き」。
依頼者はHPから依頼商品の画像をアップロードし、オンライン上でしみ抜きのカウンセリングを行う。対面でなくてもユーザーとの丁寧なやり取りを行えるような仕組みをつくっている

 

 

 

ユーザーの「不」をビジネスに発展

 

トゥトゥモロウは「不(不満・不安・不便・不快など)」からビジネスが生まれると考えており、ユーザーにとって何が「不」か、どのようなサービスがあればそれを解消できるかを元にサービスメニューを検討している。

 

例えば、衣替えの時期に合わせ、クリーニングに出された衣服をそのまま預かる「BIFUKU PACK」というサービスは、1年の半分は着用しない衣類に家のスペースを取られる「不」に着目している。実際にユーザーの7割は関東在住とのことからも、居住面積の狭い人にとって衣服保管のスペースは「不便」であり、それを解消できるサービスであることがうかがえる。

 

ユーザーは預けたい衣服を箱に詰めて指定の倉庫へ送るだけで、最大10カ月の保管と衣服クリーニングのサービスを受けることができる。創業のきっかけとなったクリーニングに出す手間(不便)を解消するとともに、さらなる不を解消する優れたサービスである。

 


次シーズンまで使用しない衣替え後の衣服を、クリーニングと同時に預けられる「BIFUKU PACK」。箱に入る枚数(10点)までは詰め放題であり、箱に詰めて送るだけでデッドスペースをなくすことができる

 

 

 

ITとの掛合わせによる新市場創出

 

既存サービスにITを掛合わせることで、同社は新たなマーケットを創出している。創業より行っているデリバリー宅配サービスも、当初は電話で依頼を受けて60分以内に受け取りに行くという一般的なデリバリー手法を取っていたが、現在はUber Eatsと提携してスマホアプリ1つで即座にクリーニングを頼めるシステムを使用している。

 

専用バッグに衣服を入れてWebアプリからクリーニングを注文し、Uber Eatsが配送を行うサービス「LAUNDRY PACK Now(ナウ)」は、アプリ依頼・即時運送ができるため、不便さを解消するとともに、ユーザーが求めるスピード感をかなえることができる、独自性のあるサービスである。

 

今後も、既存の「ファッションメンテナンス」サービスに「IT」を掛け合わせることで、同社は未開拓のマーケットの創造し続けていく。

 


Uber eatsと提携している「LAUNDRY PACK」。ユーザーの求めるスピード感をかなえる画期的な“スマホクリーニング”である

 

PROFILE
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坂田 知裕氏
株式会社トゥトゥモロウ
代表取締役社長