【第6回の趣旨】
ビジネスモデルイノベーション研究会では、「両利きの経営」における「知の探索と深化の融合・結合の実践」をテーマにさまざまな分野における秀逸なビジネスモデルを構築し、成功している優良企業を視察訪問している。
第11期第6回のテーマを「地域課題解決型サステナブル経営」とし、サブテーマに次の3点をおき、ゲスト企業の視察を実施した。
⑴社会・地域課題を起点とした事業創造ビジネスモデル
⑵理念×時流による戦略展開(地方発の全国・世界展開)
⑶人材・組織価値を最大化するD&I(ダイバーシティー&インクルージョン)
研究会参加者は、エシカルバンブー、住吉工業の講話・現場視察から、地域発で展開される課題解決型ビジネス、その根底にある理念(思い)と可能性の探求について学んだ。
開催日時:2024年12月17日(山口開催)
はじめに
エシカルバンブーは、山口県防府市に拠点を置き、竹を活用した持続可能な製品の企画・製造・販売を行っている。事業は全て竹を基にしており、竹の葉から根まで全ての部位を無駄なく使用し、環境に優しいエシカルなものづくりを推進している。
主な製品として、竹炭を使った洗剤や竹繊維のタオルなどがある。また、地域資源を生かし、社会問題や環境問題の解決に貢献する取り組みが評価され、さまざまな賞を受賞している。同社は、竹の可能性を追求することで「竹」を未来に有益な資源として残すことを目指している。
エシカルバンブーのロゴ(左)同社が手掛ける竹で人と地域と産業を結ぶ「竹LABO」のロゴ(右)
全ての始まりは竹との出会い
「竹が送電線に絡み、停電が起きる」という悩みを相談されたことをきっかけに、田澤氏は竹の良さを生かした商品開発を考え始めた。これが田澤氏と竹の出会いであり、全ての始まりであった。
そこから竹害の現状を調査し、竹が家屋に侵入したり、川の生態系を破壊したりする「竹害」の原因は、竹の成長速度の速さと地主の高齢化による管理の難しさが主な要因であることが分かった。
しかし、竹にはマイナス要素がある半面、計画的に使用することで循環型資源として利用可能であり、抗菌・消臭力があるというプラス要素もある。これらの特徴を踏まえ、竹の良さを生かすには「日用品として常に消費される商品」が最適であると判断した。同社は日用品だからといって大量生産するのではなく、「使う量・残す量を計算して製品の付加価値を高める」という考えを大切にした製品づくりを始めた。
製品づくりにおいては、徹底的なマーケティング分析と長期的なブランディング計画を立て、川上から川下工程まで継続して事業として成り立つように高付加価値の製品開発・製造を行った。竹を有益な資源として未来へつなげるための仕組みづくりを行ったのだ。また、製品の開発においては、「山口の竹」だからこそできる地域性を活用し、パッケージやロゴでオリジナリティーを出すことで、他社には真似できないものづくりを実現している。
竹の特性を生かしたさまざまな製品の企画・開発・販売を一貫して手掛ける
企画会社として竹事業をスタート
同社の竹事業はタオルの開発から始まった。商品を開発するに当たって、①竹を継続的に使用する、②日用品である、③竹の機能性を生かす、という3点にこだわりを持っている。開始当初は、周囲から「竹でタオルは作れない」と言われており、国産竹の繊維化の前例もないことから専用機材がなく、製造工程も整っていないなど大きな課題があった。繊維化のための工場の契約においては、30以上の工場調査を行い、製造リスクについては工場との交渉を重ねて契約に至った。
工場設立においては、多くの工場視察を行う中、エコを掲げながらも裏側では違法排水や廃棄を出す「エコという言葉を企業のエゴにしている」製造工場が多く存在することに驚き、言葉を掲げるだけではない「究極のエシカル製造工場」の設立を決意した。
工場を設立し、竹の繊維化ができてからも課題は多く、タオルの品質を安定させるため、検品方法・基準のマニュアル化においては田澤氏が作業に入り、地道に土台を築いた。
このような取り組みのもと完成したタオルは、竹から作られているとは思えないほど肌触りが良く、タオルとしては高価であるにもかかわらず、製造が追いつかないほど売れている。
竹からつくられた「竹タオル」(左)検品の様子(右)
エシカルバンブーのこれからの歩み
同社は、人・自然・生物・地域それぞれを尊重し、誰も何も傷つけない竹を生かしたものづくりを掲げ、100年以上継続する産業、事業の構築を目指している。工場設立においても、徹底的に環境に配慮した工場づくりを行い、環境負荷のかからない製造方法の確立や製品の安全性試験を実施している。
製品作りだけでなく、竹の魅力を伝え、竹の知識を次の世代につなぐための「竹ラボ」を設立し、竹に関する事業支援や情報発信、総合学習事業を開催し、地域活性化に貢献している。工場で働く人は高齢者や主婦だけでなく、社会復帰促進センターから紹介を受けた受刑者などさまざまな人材が活躍しており、誰もが働きやすい仕組みづくりに注力している。
同社は、「笑顔で働き、笑顔を生み出す商品をつくり、周囲へ感謝をし、必ずその先の世界へ進む」という意味が込められた「笑働笑進」という田澤氏オリジナルの理念を掲げ、これから先の未来へ、竹を通じて笑顔をつくるべく取り組みを進めている。竹害から「竹財」へと竹の価値を変革している同社の取り組みは、山口県から世界へと広がり、エシカルバンブーの竹物語はまだまだ続いていく。
竹の魅力を伝え、竹の知識を次の世代につなぐための「竹ラボ」。竹に関する事業支援や情報発信なども行う