【第5回の趣旨】
タナベコンサルティングの今期の食品価値創造研究会は、「アフターコロナのEAT※トレンドを学び、持続可能な食事業に進化する」をテーマに、従来の常識・手法・商習慣に捉われることなく、「食のEAT視点」で先進企業から学びを得ることにより、アフターコロナ環境を乗り越え、持続可能な食事業に進化することを目指している。
第5回は、「自然の力を『おいしさ』に変える」をテーマに、豊かな自然環境を持つ新潟県南部南魚沼市において、独自の“自然の生かし方”を展開している企業の取組を紹介する。
開催日時:2024年10月29日(新潟開催)
はじめに
株式会社レルヒは、『SKI MEMBER’S』というスキー用品ブランドの販売メーカーだった。当時、越後湯沢はバブル景気で都市開発が進んでいた。同社も業績は好調、事業も成長をし続け、シンガポールへの出店も実現した。
しかし、やがてバブル経済は崩壊し、企業の体力が追いつかなくなり、スキー用品販売は海外店舗も含め失敗に終わった。
そこで考えたことは、物を売るのをやめること。物を売らなければ、仕入もなく、手形を切らなくても良い。経済に左右されにくい事業を展開できるということ。
そして、得意としていた企画に集中しようと決めたとこから、越後湯沢の文化が染み込んだ『ぽんしゅ館構想』が生まれ、創造企画集団レルヒのドラマが始まる。
越後湯沢駅の「ぽんしゅ館」
「物売りから企画集団へ」の業態転換
「新潟の全酒蔵を唎酒できたら、きっとお客さまは喜んでくれる」創造企画集団に生まれ変わった同社は、ぽんしゅ館にこのストーリーを込めた。
そのころ、越後湯沢駅構内の商業スペース活用の話が上がり、数社によるプロポーザル方式で運営者が決まる中、同社が選定された。選ばれた一番の理由は、観光ではなく地域の文化に焦点を当てたこと。お土産屋であるが、お土産ではないという着眼点。
地域の銘酒、銘品を、地域を知っている同社が、大から小まで集めて、企画し、販売する。物売りとは一線を画し、地域を活性化させるための企画が好評だった。
商品開発にも積極的に取り組む同社では、年間7万個を販売する爆弾おにぎりが名物となっている。賞味期限が短い生菓子、個体による味の個性をそのまま生かした洋ナシの炭酸雪色ソーダなど、お土産としては非常識な商品が話題を呼んでいる。
名物の爆弾おにぎり
買わなかった人に着目する
店舗には年間400万名が来店する。しかし、買い物をするのはその30%の120万人である。マーケティングの視点では、お客さまを増やすためにはレジを通ったお客さまのニーズを分析することがセオリーであるが、同社の考えは異なり、レジを通らなかったお客さまにいかに価値を伝えるかを課題としている。
そのため、「もう一度価値観を一致させる」こと、「強みを再確認する」こと、伝え方、見せ方を変える」ことに意識を置き、お買い上げ率を数字で追いかけながら、独自のインターフェースの開発や、新しいストーリーの発信を続けている。
所狭しと商品が並ぶ、ぽんしゅ館の店内
地域文化にスコープを当てる
ぽんしゅ館が創ったものは大きくは次の3つである。
1.新潟県の新たな観光地
→滞在時間が長い施設をつくることによって、買い物自体をレジャーに変えた
2.文化の交流拠点
→新潟の想いやドラマを集める事で、新しい地域の挑戦や文化が生まれた
3.生産者の期待
→自称「新潟のカーネギーホール」として、新潟全蔵のミュージアム化をした
「それはアウトスタンディングか?」という判断基準を持ちながら、同社はこれからも新しい企画を創造し文化を発信し続ける。
ぽんしゅ館のこれまでとこれからを語るパンフレット『ごった煮』