デザイン経営モデル研究会では、デザインの力を「体験価値」と「自社らしさ」を創る資源の1つとして捉え、他社との差別化や高収益を実現するためのヒントを探ることを目的とする。第3期の2日目は、沖縄の文化的価値を創造・発信するソーシャルデザインカンパニである、ゆいまーる沖縄代表取締役社長の鈴木修司氏より、沖縄文化の活性と社会・人々のライフスタイルをデザインする経営モデルを学んだ。
2024年9月19日・20日(沖縄開催)
1988年創業のゆいまーる沖縄は、沖縄の工芸品・食品の企画プロデュース、流通、プロジェクトデザインを通して、沖縄の文化的価値の創造・発信を手掛けるソーシャルカンパニーである。
経営目的には、①琉球の自立を目指す、②琉球の文化・祈りに深く学びそれを事業にする、③利益拡大を図り、生活を良くする、の3つを掲げており、沖縄の文化的価値を引き出す事業を推進している。
那覇市の東部に位置する南風原町に沖縄文化の発信拠点となる「ゆいまーる沖縄 本店<Storage&Lab.>」を構え、伝統的工芸品や沖縄ならではの食品を販売している。また、観光客だけでなく全国へ沖縄の価値を発信することを目的に、オンラインショップも運営している。
ゆいまーる沖縄 本店<Storage&Lab.>
ゆいまーる沖縄は、沖縄で製造された伝統的工芸品を中心に販売を行っている。観光市場で取り扱われている商品の約6~7割が県外製造と言われている中、同社は県内で製造された沖縄ならではの商品を取り揃えている。
伝統的工芸品の指定数について、沖縄は全国3位である。だが、伝統的工芸品は製造方法や原材料が指定され、イノベーションが生まれにくい。生産額は約20年前に比べて約70%減少、従事者は約50%も減少している。背景には、後継者不足やマネタイズしにくいという課題がある。
同社は伝統的工芸品業界の課題解決に向けた取り組みも行っており、その1つが伝統的工芸品の流通機能を支援する店舗運営である。また、流通のみならず伝統的工芸品の企画プロデュース、ブランド構築・運営を実施。星野リゾートが運営する「OMO5沖縄那覇 by 星野リゾート」へのインテリア提供なども行っている。
OMO5沖縄那覇 by 星野リゾートへのインテリア提供
鈴木氏が自ら全国各地の企業を視察し、ゆいまーる沖縄ブランドをつくり上げた。今では、沖縄の文化的価値創造・発信に大きく寄与しているが、「ブランドという概念が社内になかった時代もある」と鈴木氏は語る。
日本では物質文明が主流である中、精神文明が中心である沖縄文化は今でも工芸・芸能・食文化に色濃く反映されている。そのような沖縄の文化的価値と、ゆいまーる沖縄が持つ本質的な価値の棚卸しを徹底的に行い、沖縄とともに価値を向上し、企業が成長する独自のブランドを構築している。
事例の1つが、沖縄が大切にしている自然や文化、思いである「島の根っこ」を反映するオリジナルブランド「シマノネ」の立ち上げである。沖縄県立芸術大学と共創し、学生ならではの自由な発想を中核に置きながら、自社ブランドとしてファッションブランドやホテルへ展開している。
ゆいまーる沖縄のオリジナルブランド「シマノネ」
同社の取り組みのポイントは、「沖縄文化のルーツに原点回帰するだけでなく、エッセンスを抽出し現代・未来に合わせてリデザインしていること」である。
沖縄文化は、歴史的背景からさまざまな国の文化が入り交ざっている。だからこそ、「チャンプルー(ごちゃ混ぜ)文化」という沖縄独自の文化が発達している。沖縄独自の文化や歴史を大切にしながら、現代や未来を見据えてリデザインする同社の取り組みとして、「koti(こち)」という古民家プロジェクトが挙げられる。八重瀬町にある古民家を沖縄の建築方式を残しながらリノベーションし、琉球菓子の製造・販売を主なサービス内容としながら、ワークショップやスクールなどを定期的に開催している。
沖縄の生活文化や旧暦文化を知ってもらうことを目的とし、さまざまなコミュニケーションが生まれている。
沖縄文化のルーツに原点回帰するだけでなく、エッセンスを抽出し現代・未来に合わせてリデザインしている