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研究リポート

ビジネスモデルイノベーション研究会

秀逸なビジネスモデルを持つさまざまな企業の現場を「体感」する機会を提供しております。ノーボーダー時代に持続的成長を実現するためのヒントを学びます。
研究リポート 2024.08.21

ニッポンの地方をもっと面白くする「まちなか」のデザイン力

前橋まちなかエージェンシー

【第3回の趣旨】
ビジネスモデルイノベーション研究会では、「両利きの経営」における「知の探索と深化の融合・結合の実践」をテーマに様々な分野における秀逸なビジネスモデルを構築し、成功している優良企業を視察訪問している。
第11期第3回のテーマを「ドメインの再定義で挑む新たなステージ」とし、サブテーマに下記3点をおいて、ゲスト企業の視察を実施した。
1.不変のパーパスとアップデートするドメインが提供する新たな価値
2.CXを最大化する体感・体験価値の共創
3.DX実装によって描く企業・自治体の進化型
研究会参加者は、ワークマンの講話、前橋まちなかエージェンシーの講話および前橋市内のまちなか視察、ヤマダホームズの講話から新たな領域への可能性を感じ、ドメインを再定義し成長し続ける企業の要諦について学びを深めた。

開催日時:2024年6月18日~19日(群馬開催)

 

一般社団法人 前橋まちなかエージェンシー 代表理事 橋本 薫 氏

 

一般社団法人 前橋まちなかエージェンシー
代表理事 橋本 薫 氏

 

 

はじめに

前橋まちなかエージェンシー(MMA)は2016年に設立された。そのミッションは、地方都市の衰退モデルとして取り上げられることの多かった前橋と、特にその中心商店街である「まちなか」にローカライフデザイン(その地方にしかない豊かで身の丈に合った新しい地方暮らしの創造)としての新たな価値を生み出すことにある。

 

歴史を紐解けば、前橋は明治時代の県庁誘致に始まり、町人によるイノベーションと町人主体によるまちづくりが盛んな街であった。ところが、バブル崩壊後の平成初期に至り、活気は減少。都市部への人口流出に端を発し、前橋のまちなか=前橋市商店街を往来する人の量は、どの地点をとっても右肩下がりに減っていった。

 

そんな前橋に活気を取り戻し、もう一度市民主体によるまちづくりを復活させるべく、企業経営と同じく「ビジョン」に基づきMMAは取り組みを行っている。

 

「ビジョン」に基づくまちづくり、またその中で活かされるデザインおよびデジタル思考について、今回は学んでいく。

 


 

まなびのポイント 1:「めぶく。」~前橋ブランドピラミッド~

 

前橋の「まちなか」における直近の取り組み事例として、前橋市が保有していた敷地の再開発プロジェクトである「まえばしガレリア」(23年5月竣工)があり、アート・食・住まいを複合したアートレジデンスとして運営されている。

 

のほか、本を起点に人が集うフェス「前橋BOOK FES」や、前橋における「アート」「クラフト」「フード」の芽吹きを紹介しお祝いするといった「前橋めぶくフェス」というイベントなども運営されている。

 

これらの取り組みはすべて、「めぶく。」というビジョンに基づき実行されている。このビジョンは、民間の視点から前橋市の特徴を調査・分析し、前橋の将来像を見据え、「前橋市はどのようなまちを目指すのか」を示すものとして策定された。策定においては、一般財団法人田中仁財団からの提案ののち、産学共創による分析検討のプロセスを経て、前橋出身である糸井重里氏によりコピーライティングがなされた。

 

この根源には、「良いものが育つまち」への志向があり、前橋のまちづくりに関するあらゆる取り組みはすべて、このビジョンに帰着することを念頭に実施され、ブランドピラミッドとしても定義されている。

 

まえばしガレリア
まえばしガレリア

 

前橋ビジョン「めぶく。」
前橋ビジョン「めぶく。」

 

前橋ブランドピラミッド
前橋ブランドピラミッド

 

 

まなびのポイント 2:「めぶく。」まちづくりの取り組み①~まちづくりのサイクル~

 

まちづくりのサイクルを回すためには当然ながら資金が必要である。前橋の取り組みにおいては、このためのファンドが整備され、「前橋アーバンデザインファンド」や「前橋まちづくりファンド」が資金調達源として機能している。

 

また、資金が調達できても、それを使ってまちづくりを担う人材がいなければ事は進まない。ここにおいては、橋本氏が担うMMAのほか、太陽の会(前橋ビジョンに共鳴する、市内に拠点に置く企業家有志により結成)等といったまちづくり組織が結成され行政と連携している。

 

行政側においても、まちのアシスタントである「マチスタント」が前橋市役所内で結成され、まちなかに増えた空き物件とまちなかでやってみたいことがある人をマッチングする役割を担っている。

 

このような官民連携を軸に、先述したまちづくりに関するプロジェクトが起案・実行され、ビジョンに基づくまちづくりが推進されている。

 

「めぶく。」まちづくりのサイクル
「めぶく。」まちづくりのサイクル

 

 

まなびのポイント 3:「めぶく。」まちづくりの取り組み②~戦略としての「デザイン」「デジタル」~

 

橋本氏は、「東京を真似したがってきたのが今までの地方都市である」と語る。しかし、まちづくりの本質は相対的な「価値づくり」であり、どこにもない価値を地方都市に実装することが、モノや情報へのアクセスが容易な今の時代には必要なのだという。

 

したがって、いま求められる「深層心理に届く感動体験=新しい価値」を実現する街であるために、「創造力のある地域内外のクリエイティブな人を惹きつける街=デザイン都市」が前橋の目指す姿なのだという。

 

また、創造的なまちづくりには時間的余裕が不可欠であり、それを実現する手段としてデジタルは位置付けられている。具体事例としては日本初のセキュアな独自IDである「めぶくID」があり、これを用いた投票も可能としているのだという。

 

今回は、いま企業が求められる「ビジョン経営」の要諦と、「他にはない価値」の実装に向けた取り組みについて、講話と街歩きを通じ五感で大いに学びを得る機会となった。

 

(左)マチスタントのロゴデザイン (右)前橋市にぎわい商業課でマチスタントを担う田中 隆太氏
(左)マチスタントのロゴデザイン
(右)前橋市にぎわい商業課でマチスタントを担う田中 隆太氏

 

白井屋ホテル(SHIROIYA HOTEL)
白井屋ホテル(SHIROIYA HOTEL)