勝美住宅のモデルルーム
人口減に加え、65歳以上高齢者のいる世帯が4割を超える「社会課題解決時代」が到来している。さらに、2100年の国内人口は高位推計でも5000万人を切ると予測されている。縮小する市場の中で競争を続けていては、業界全体が疲弊するだけで、明るい未来はない。当研究会では、「住まい」というハードに「暮らし」というソフトを付加し、商品・サービスの価値を高めること、1人の顧客と末永くつながり続けること、周辺分野への進出、コミュニティづくりなどを事例企業から学びながら、業界全体を成長させる「共創」の視点で業界の継続発展を目指している。
はじめに
兵庫県の播磨地域(姫路・明石)に本社を置く勝美住宅は、注文住宅の設計・施工をメインに、分譲住宅・リフォームなどの戸建住宅建設や不動産事業も手掛ける地域ビルダーである。同社は以前よりマルチブランド戦略を展開しており、その集大成としてグループ経営へ移行。2019年に株式会社KHCを持ち株会社として、東証2部(現スタンダード市場)上場を果たした。
今回は、年間200棟を超える地域No.1ビルダーのマルチブランド戦略とグループ経営のポイント、そしてそれを支える人づくり、社風づくりについて、同社の代表取締役社長・渡辺喜夫氏の講演と同社モデルハウスの視察から学んだ。
まなびのポイント 1:「マルチブランド戦略」によるシェアアップ・エリアカバー
同社の「マルチブランド戦略」とは、多様化するライフスタイルと住まいへのニーズに対し、1ブランドのみで戦うのではなく、複数のブランドを持ち、顧客のニーズを広くキャッチできる体制を敷くことである。
同社は前述の5ブランドを立ち上げ、それぞれ独自の強み(USP:Unique Selling Proposition)を明確に打ち出して、各ブランドの差別化を図っている。複数のブランドを持つことでエリアを広くカバーでき、新規顧客の獲得にもつながっている。
1つの展示場内に複数のブランドのモデルハウスが建っている
まなびのポイント 2:グループ経営による社内競争と経営の効率化
同社は上場を機に、5ブランドをそれぞれ事業子会社としてグループ経営体制へ移行した。1社内での複数ブランド展開は、事業部制などの組織体制をとって独立性を担保しても、顧客からは同じブランドと判断されてしまう。そこで、各ブランドを独立した企業(事業会社)とし、同一エリアであえてグループ内競争を起こしている。この経営手法により、同社は競争力を高め、幅広い顧客の取り込みに成功している。
一方、持ち株会社には、土地の仕入れや設計・施工、ブランディング・商品開発、各社の販促ツール制作、プロモーションなどのマーケティング、広告予算管理などのシェアードサービス機能を置き、事業子会社の共通機能を一元化することで経営を効率化している。
事業会社の経営機能を持ち株会社が持ち、事業会社は持ち株会社の販管費および利息を各社の計画で按分している
まなびのポイント 3:社風づくり・人づくり
同グループ経営をさらに進めていく上で重視しているのが人材育成と社風づくりである。事業会社においては、「強い個の創出」をテーマに、業界の内外から経験者を積極採用している。さらに、社員のモチベーション向上のため、グループ全体での年間営業表彰や設計などの技術職のためのデザインコンテスト(社内投票による技術者表彰)や新たに出店するモデルハウスの社内設計コンペなどを実施。コンペには渡辺氏も参加するなど、社員とともに切磋琢磨できる仕掛けを行っている。
また、グループ会社間の情報共有のため、持ち株会社が月1回グループ社内報を発行するなどし、事業会社の独立性を保ちつつ、グループ全体の考え方や社風の統一を図っている。
KHCグループ全体での優秀社員表彰式