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経営メソッド
女性経営人材

女性活躍推進が広がる一方、日本企業で女性役員・社長の登用が十分に進んでいるとは言いがたい。本特集では、「女性社員が活躍する会社」から一歩踏み込み、女性を役員・社長へ育成し、登用する会社は何が違うのかを探る。女性のトップ登用を、DE&Iや理念の実践にとどまらないテーマとして捉え直し、経営人材育成、事業成長、次世代経営体制づくりに直結する経営課題として考える。

経営メソッド 2026.07.30

女性経営人材育成は女性活躍施策ではない Surpass 石原 亮子


人材不足時代を生き抜く経営戦略

人がいない。


これはもはや将来の話ではない。地方では採用が難しくなり、都市部でも若手人材の定着は容易ではない。賃上げ圧力は続き、AIの進化によって求められるスキルも急速に変化している。


こうした環境変化の中で、多くの企業がいまだに従来と同じ人材プールの中、必要な人を探し続けている。私は、この状況を非常に危険だと感じている。


日本企業が直面している最大の経営課題は、DXでもAIでもない。人材不足である。そして、その解決策の1つが女性経営人材の育成だ。


私は、女性活躍推進を単なる社会貢献活動や福利厚生の一環だとは考えていない。これは、企業が持続的に成長していくために不可欠な経営戦略であり、人材不足と環境変化が常態化するこれからの時代を生き抜くための、生存戦略そのものである。


しかし、多くの企業ではいまだに「女性管理職比率を上げる」「働きやすい制度を整える」といった取り組みが中心である。もちろん制度は重要である。だが、制度だけでは経営人材は育たない。


本当に問うべきなのは、次世代経営人材の候補者を考えるとき、女性社員がその入り口に立てているかという点である。経営に近い経験を渡されて初めて、人は経営を担う存在へと育っていく。女性経営人材育成は、この入り口を開くことから始まる。



女性経営人材が育たない理由は、能力ではなく経験

私は2008年にSurpassを創業した。創業以来、一貫して取り組んできたのは、女性が営業の最前線で成果を出し、組織を率い、事業を推進し、経営に近い役割へ挑戦できる環境づくりである。


その中で見えてきたのは、女性経営人材育成における最大の壁は、能力不足ではないという事実だ。圧倒的に不足しているのは、経営に近い経験である。


事業の数字を見る経験。利益責任を持つ経験。顧客課題を起点に意思決定する経験。利害の異なる関係者を巻き込みながら結果を出す経験。そして、自らの判断に責任を持つ経験である。


多くの女性は、こうした経験を十分に与えられないままキャリアを積んでいる。その結果、企業は「女性の経営人材がいない」と結論づけてしまう。


経営者としてこれまで、こうした経験を女性社員にも本当に渡してきただろうか。



自信は、任せた後に育つ

私は経営者として、「自信がついたら挑戦します」という言葉を、あまり信用していない。なぜなら、自信は挑戦した後にしか生まれないからである。


管理職も同じである。役員も同じである。経営も同じである。できるようになったから任せるのではない。任せるから、できるようになるのである。


実際、私たちの事業でも、そのような事例を数多く見てきた。例えば、地方でDX人材育成に取り組む中で、59歳で新たなキャリアに挑戦した女性がいる。数年前まで小売店で働いていた彼女は、DXスキルを学び、企業のシステム運用支援業務へ挑戦し、現在は正社員として活躍している。


最初から自信があったわけではない。経験があったわけでもない。しかし、機会を与えられ、期待され、挑戦したことで人生が変わったのである。


人は可能性があるから挑戦するのではない。挑戦するから可能性が広がるのである。経営人材育成も全く同じだ。


私は、経営人材は「なりたい人」の中だけから探すものではないと考えている。むしろ、現場で顧客と向き合い、周囲から信頼され、困難な状況でも逃げずに考え続けている人の中にこそ、次の経営を担う可能性がある。


経営者の役割は、その可能性を見抜くことである。そして期待を伝え、機会を渡し、責任を持たせることである。


もちろん失敗もある。迷いもある。壁にもぶつかる。しかし経営とは、そもそも正解のない世界である。限られた情報の中で決断し、結果を受け止め、説明責任を果たしながら前へ進む仕事である。


だからこそ、若いうちから責任ある経験を積ませる必要がある。守るだけでは人は育たない。期待し、任せ、失敗から学ばせる。その積み重ねが、経営の器をつくる。



中堅企業こそ、女性経営人材を育てやすい

中堅企業には、この点で大きな可能性がある。大企業に比べて経営との距離が近く、一人一人が幅広い役割を担うことができるからである。


まず行うべきことは、自社の女性社員を改めて「将来の経営を担う候補者」として見直すことである。すでに顧客を理解し、現場を支え、組織から信頼されている人材は数多く存在する。


そうした候補者に数字を見る機会を与える。経営会議に参加させる。意思決定の場を経験させる。小さくても良いから、責任を持って判断する機会を渡す。そうした経験の積み重ねが、次世代の経営人材を育てるのである。


女性経営人材が育たないのは、女性に能力がないからではない。期待されてこなかったからである。任されてこなかったからである。


人材不足を嘆く企業は多い。しかし、本当に人材不足なのだろうか。私はそうは思わない。


まだ生かされていない人材がいる。まだ経営の舞台に上がっていない人材がいる。その代表が女性である。


女性経営人材育成とは、女性のための施策ではない。企業の未来を誰と創るのか。その問いに対する経営者の答えである。


そして最後に問われるのは、女性の覚悟ではない。経営者自身が任せる覚悟を持てるかどうかなのである。

PROFILE
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石原 亮子
Ryoko Ishihara

Surpass代表取締役社長

2000年大手生命保険会社に入社。支社のトップセールスとして活躍。一部上場企業からベンチャー企業の立ち上げまで100業種以上の営業実績を持つ。2008年8月、株式会社Surpassを創業。LTV(永続的な信頼関係と売り上げの構築)を重視した女性による営業アウトソーシングのパイオニア。「Forbes JAPAN WOMEN AWARD」など、女性活躍を推進する企業として数々の賞を受賞。学校法人実践女子学園理事など女性起業家としても幅広く活動している。