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女性経営人材

女性活躍推進が広がる一方、日本企業で女性役員・社長の登用が十分に進んでいるとは言いがたい。本特集では、「女性社員が活躍する会社」から一歩踏み込み、女性を役員・社長へ育成し、登用する会社は何が違うのかを探る。女性のトップ登用を、DE&Iや理念の実践にとどまらないテーマとして捉え直し、経営人材育成、事業成長、次世代経営体制づくりに直結する経営課題として考える。

経営メソッド 2026.07.30

女性経営人材をいかに育てるか。DX時代の人材育成戦略 官民連携DX女性活躍コンソーシアム 代表理事/Surpass 特別顧問/前内閣総理大臣補佐官(賃金・雇用担当) 矢田 稚子

民間企業から労働組合、国会議員、そして内閣総理大臣補佐官として女性活躍の道を切り開いてきた矢田稚子氏。官民連携DX女性活躍コンソーシアムの代表理事として、女性が力を発揮し、将来の女性経営人材へと成長できる仕組みづくりと、日本経済の活性化を目指している。


2025年10月、女性の賃金格差の是正と地域企業のDX推進を目指す「官民連携DX女性活躍コンソーシアム」が発足。地域女性のデジタル人材への育成と就労支援を通して、男女間の賃金格差や地方企業のDX推進の遅れといった社会課題の解決を目指している

2025年10月、女性の賃金格差の是正と地域企業のDX推進を目指す「官民連携DX女性活躍コンソーシアム」が発足。地域女性のデジタル人材への育成と就労支援を通して、男女間の賃金格差や地方企業のDX推進の遅れといった社会課題の解決を目指している



女性活躍の道を切り開き、官民一体の取り組みを推進

2025年10月、女性の賃金格差の是正と地域企業のDX推進を目指す「官民連携DX女性活躍コンソーシアム」が立ち上がった。同コンソーシアムは、地域女性のデジタル人材育成と就労支援を通じ、男女間の賃金格差や地方企業のDXの遅れといった社会課題解決を目指している。


最大の特徴は、行政と民間企業が参画している点だ。デジタル人材育成のノウハウを持つ民間企業と、地域課題を把握する地方自治体が一体となることで、地域経済の活性化や地方創生へ結び付ける狙いがある。


代表理事を務める矢田稚子氏は「官民が連携し、双方をつないでいくことが非常に重要」と述べる。それは民間企業から労働組合、参議院議員、内閣総理大臣補佐官というキャリアを渡り歩いた矢田氏自身の経験から導き出された信念でもある。


高校時代からアルバイトを掛け持ちして家計を支えていた矢田氏は、大学には進学せず、1984年に松下電器産業(現パナソニック)に入社。電話交換手として2年間勤務した後、人事部に異動となった。


1986年に男女雇用機会均等法が施行されたものの、当時は外資系企業を除けば女性社員の活躍の場は限られていた。女性は男性の補助職という位置付けで、同社でも役付者の女性社員はわずか数名だった。矢田氏が配属された黒物家電事業部では、役付者の女性社員は電話交換室のリーダー1名しかいなかった。


「働く中でおかしいなと思うことがたくさんありました」(矢田氏)。例えば、女性社員には宿泊を伴う出張は認められないこと、女性社員には名刺がないこと……。名刺交換の際は自ら手作りした名刺を渡していた矢田氏だが、ある時、それまでに受け取った50枚の名刺を見せながら「私は手作りの名刺を渡しています。おかしくないですか?」と課長に伝えたという。本社出身の課長の回答は「名刺は必要。すぐに作りなさい」だった。



女性が働き続けられる制度づくりが、女性経営人材育成の土台になる

「話を聞いてくれる人に根拠を示して正当な意見を伝えれば物事は変えられることを、その時に学びました」と矢田氏は振り返る。この気付きが、矢田氏のその後のキャリアや女性活躍の道筋をつくることになった。


ダイバーシティやDE&Iは、今では企業経営において欠かせないテーマとなり、多くの企業が専門部署を設置して多様な人材の活躍推進に取り組んでいる。実は、国内においてその先駆けとなったのが1990年に松下電器産業が立ち上げた「女性社員能力開発室」である。女性活躍を推進する日本初となるこの試みにも、矢田氏は深く関わっている。


行動を起こせば状況は変えられる――。そう考えた矢田氏は、「女性でもいろいろな仕事に挑戦したい」「もっと活躍したい」という志を持つ仲間を集め、経営陣宛てに提言書を作成。それが女性社員能力開発室の開設につながった。矢田氏は女性社員能力開発室の初期メンバーとして4年半、女性の昇進に向けた任用制度の整備や職域拡大、社員の意識改革に奔走した後、人事を経て松下電器産業労働組合中央執行委員に抜擢ばってきされる。


「当初、任期は2年と聞いていましたが、結局は2016年に参議院選に出馬するまで16年在籍しました。人事や女性社員能力開発室は主に社員に向けて支援する立場でしたが、労組中央執行委員では経営層と対等に労使協議できます。特に女性が仕事を続けるための制度や仕組みづくりに携われる点はやりがいがありましたね。その間、私自身が結婚や出産を経験したこともあり、当事者の視点でさまざまな改革を進めることができました」


中でも大きな注目を集めたのが、2008年に民間企業で初めて導入したチャイルドプラン休業制度(不妊治療休暇)である。制度化によって当事者の精神的・身体的負担を軽減するこの取り組みは、仕事と家庭の両立を目指す女性社員のみならず、男性社員にも意義のあるものとなった。


同制度は、将来の女性経営人材の母集団を広げる上でも重要な意味を持つ。マスコミにも多く取り上げられ、導入企業が相次ぐなど大きな反響を呼んだ。



政策を動かし、女性経営人材が育つ社会基盤を整える

2014年、矢田氏はパナソニックグループ労働組合連合会副中央執行委員長に就任。その2年後の参議院選挙では電機連合の推薦を受けた初の女性候補者として当選を果たし、6年間の国会議員としての活動がスタートした。


「それまでも企業において女性が活躍できる環境づくりに奔走してきましたが、労使間だけでは解決できない課題がたくさんありました。不妊治療に関して言えば、休暇の導入で精神的負担や肉体的負担がある程度は軽減できたものの、経済的な負担の軽減は1つの企業だけで解決するのは難しい。当時、不妊治療は自由診療でかなり高額でした」


内閣委員会のメンバーだった矢田氏は少子化対策として不妊治療への保険適用を当時の菅義偉官房長官に進言。その後、菅政権下で最優先政策の1つとして推進され、2022年4月から保険適用がスタートした。2023年9月からは民間人として第2次岸田内閣にて内閣総理大臣補佐官(賃金・雇用担当)に就任。続く石破内閣でも引き続き賃金・雇用担当として中小企業の賃上げや地方創生に注力することになる。


「内閣総理大臣補佐官として全国を回りましたが、課題だと感じたのは女性の稼ぐ力の弱さです。岸田政権は中小企業の賃上げを、石破政権は地方創生を重要課題に掲げていましたが、どちらも背景の1つとして女性の賃金の低さがあります。当時、女性の平均賃金は男性の78%にとどまり、大卒女性の約36%は年収200万円以下でした。これではお金が消費に回らないのは当然です。そうした客観的なデータを集めて男女間の賃金格差是正の必要性や、それが中小企業や地域経済の活性化につながると進言いたしました」


地方の中小企業では人手不足が深刻化するものの、その多くで女性人材の活用やDX化が遅れており、成長を阻む一因となっている。育児や介護を担うことが多い女性は、時間的な制約やスキル不足などがハードルとなり、働けなかったり十分な収入を得られなかったりするケースも多い。こうした社会課題を、女性活躍の仕組みづくりで解決できるのではないか――。矢田氏が着目したのはDXだった。


具体的には、地方自治体が地域の女性デジタル人材育成を支援し、スキル習得後に地域企業で働き、その成果を地域に還元する仕組みをつくることで、企業の生産性向上と女性の賃金向上の両立を目指した。そのアイデアは、内閣総理大臣補佐官を退任した後も先述の官民連携DX女性活躍コンソーシアムに引き継がれている。



女性デジタル人材の育成が、将来の女性経営人材を増やす

女性のスキルアップや就労を支援するサービスは増えているが、同コンソーシアムが実績を重ねる理由は、地方自治体と地域企業、人材育成を担う企業が連携して推進する点にある。特筆すべきポイントは、スキル習得後の一定期間は、希望により業務委託の形で就労機会が提供され、実務経験を積める点だ。そうした仕事は同コンソーシアムに参画する大手企業などから委託されており、この実務経験がスキルアップやその後の就職においても大きな武器になる。


「女性活躍は女性の権利や生きがいの話のように受け止められがちですが、労働人口が減少する日本においては、企業の経営戦略であり、経済政策や地域創生を考える上で欠かせないテーマと捉えています。地方の女性がデジタルスキルを身に付けることで収入が増えれば、消費が活発になり経済が回ります。地域企業としてもデジタル人材の活用によって人手不足の解消や生産性が向上すれば成長につながる。さらに、地域企業がしっかりと雇用を生み出すことで若者の転出を防ぐことができるなど、地域が抱える社会課題を解決する可能性を秘めています」


人材の多様性が企業の競争力を高めることは、グローバル企業では共通認識となっている。女性活躍も含めた企業のダイバーシティやDE&Iへの取り組みは、優秀な人材の確保につながり、イノベーション創出の土壌をつくっていく。それらが企業の社会的な評価を上げ、企業価値を向上させることは言うまでもない。


国も女性活躍に本腰を入れる。東証プライム市場上場企業を対象として、「2030年までに女性役員比率を30%以上」とする目標を掲げているが(「女性活躍・男女共同参画の重点方針2023」)、2025年7月時点の全上場企業の役員に占める女性の割合は14.0%、東証プライム市場上場企業の役員に占める女性の割合は17.7%にとどまっており、さらなる推進が必要だ。


「官民連携DX女性活躍コンソーシアムの設立から1年が経ち、各地でさまざまなプロジェクトが動き出しています」(矢田氏)


女性デジタル人材の育成は、働く女性を増やすだけでなく、将来の女性経営人材の裾野を広げる取り組みでもある。つまり、女性経営人材を育てることは、女性のためだけでなく、企業の未来を育てることそのものなのである。


女性経営人材を増やすには、候補となる働く女性を増やし、活躍の場を広げることが急務だ。男性中心の組織に入り、先頭に立って女性活躍の道を切り開いてきた矢田氏の歩みは、女性経営人材の育成に向けた示唆に富んでいる。

PROFILE
著者画像
矢田 稚子 氏
Wakako Yata

官民連携DX女性活躍コンソーシアム 代表理事/Surpass 特別顧問/前内閣総理大臣補佐官(賃金・雇用担当)

1984年に松下電器産業(現パナソニック)入社。人事・女性社員能力開発業務などを経て、労働組合中央役員として16年間活動。2016年に参議院議員初当選。雇用、賃金、女性活躍、両立支援等の政策に携わる。2023年より内閣総理大臣補佐官として賃金・雇用政策を担当。現在は女性デジタル人材育成と地域DXを軸に、官民連携による地域活性化に取り組む。