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女性経営人材

女性活躍推進が広がる一方、日本企業で女性役員・社長の登用が十分に進んでいるとは言いがたい。本特集では、「女性社員が活躍する会社」から一歩踏み込み、女性を役員・社長へ育成し、登用する会社は何が違うのかを探る。女性のトップ登用を、DE&Iや理念の実践にとどまらないテーマとして捉え直し、経営人材育成、事業成長、次世代経営体制づくりに直結する経営課題として考える。

経営メソッド 2026.07.23

日本と世界の「女性活躍」格差

中堅企業の女性管理職比率の公表が義務化

2025年10月、日本の憲政史上初めて女性の総理大臣が誕生した。これを機に政界だけでなく、経済界でも意思決定層の女性活躍の進展に期待感が高まっている。


折しも2026年4月に「改正女性活躍推進法」が施行され、従業員数101人以上の企業に「女性管理職比率」の公表が新たに義務付けられた(100人以下の企業は努力義務)。旧法では、従業員数301人以上の大企業が「男女間賃金差異」と女性活躍関連の2指標(14項目から選択制)、101~300人の中堅・中小企業は選択1項目についてそれぞれ公表が義務付けられていた。(【図表1】)


【図表1】「改正女性活躍推進法」の概要

【図表1】「改正女性活躍推進法」の概要

<女性活躍に関する情報公開義務の選択項目>(14項目)

<女性活躍に関する情報公開義務の選択項目>(14項目)

出所 : 厚生労働省「改正女性活躍推進法等のポイント」よりタナベコンサルティング戦略総合研究所作成


旧法は2016年に施行されたが、当初は有効期限が10年(2026年3月末で失効)という時限立法であった。だが2025年6月に改正法が成立し、「2036年3月31日」まで期限が延長された。


この背景には、“活躍”と呼べるほどの環境が整っていないという現実がある。特に、依然として大きな課題となっているのが、管理職やボードメンバー(取締役)など意思決定層における女性参画の遅れだ。


政府は「第5次男女共同参画基本計画」(2021~25年度)において、「2020年代の可能な限り早期に指導的地位に占める女性の割合が30%程度」という目標を新たに設定。企業に対しては管理職に占める女性の割合を30%(係長)・18%(課長)・12%(部長)を目指すよう求めた。この30%という目標値は、いわゆる「クリティカル・マス」(少数派の占める割合が3割を超えると全体に与える影響力が急激に増加する分岐点)に基づくものである。


東証プライム上場企業の成果目標については、役員(執行役員を含む)に占める女性の割合を「2025年までに19%、2030年までに30%以上」としたほか、女性役員がいない企業の割合をゼロにするとした。


しかし、2025年時点で女性管理職比率はいずれも未達(係長25.2%、課長16.1%、部長9.3%)で、全体では19.9%と2割に満たなかった。東証プライム上場企業の女性役員比率も17.7%(全上場企業は14.0%)と目標の19%を下回り、女性役員がいない企業の割合は2.5%だった(内閣府・男女共同参画局調べ)。


世界的に見ても、日本は女性の管理職・役員が少ない。ILO(国際労働機関)の統計ポータルサイト「ILOSTAT」によると、日本の女性管理職比率は14.4%(2025年)。それに対して欧米主要国は軒並み30~40%台である。


さらに女性役員比率となると日本は際立って低い。OECD(経済協力開発機構)の統計によると、2022年時点でフランス(45.2%)、英国(40.9%)、ドイツ(37.2%)、米国(31.3%)など、G7の主要国に比べて日本(15.5%)は3分の1程度の水準にとどまる。


日本の女性役員の現状についてさらに見ていこう。東証プライム市場の上場企業における女性役員のうち、社内昇格組の役員はどれほどの割合を占めているのだろうか。


内閣府によると、女性の社内役員は5.3%(2025年7月末時点)に過ぎなかった。その一方で、社外役員(社外取締役・監査役など)は33.5%を女性が占めていた。つまり東証プライム上場企業の女性役員の多くは社外から招聘しょうへいした人材であり、社内のキャリアコースを経て役員に上り詰めた女性は極めて少ないということだ。


日本企業の多くは、一騎当千のカリスマ的リーダーを役員候補者に求めがちである。そのため女性社員はマッチョなリーダーを目指さざるを得ない。体力勝負の長時間労働に適応できない女性が退職していった結果、女性役員となる母集団を形成できずに内部昇進のパイプラインが細くなり、女性役員が社外の人材ばかりになっている。欧米企業から「日本企業は女性人材を育てる力がない」といわれても仕方がない状況である。



日本企業の女性役員比率は近年急速に改善している

前述したように、日本企業の女性役員比率は欧米など諸外国と比べて低い。ただし、OECDの出所を見ると「2022年の値」とあり、やや古い。そこで最新値と直近の推移について、OECDがデータの典拠とする米金融サービス大手MSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)の報告書『Women on Boards and Beyond Report』(2025年版)から、諸外国の女性役員比率を見てみよう。


ちなみにMSCIの調査対象は、同社が算出する全世界株式の株価指数「ACWI(オール・カントリー・ワールド・インデックス)」の構成銘柄である。ACWIは日本を含む先進国と新興国の大手・中堅規模の優良上場企業を投資対象としている。


それによると、2025年時点の女性役員比率は世界平均で28.3%。それに対して日本は「23.4%」である。2022年時点では9ポイントの差があったが、2025年は4.9ポイント差と3年間で約2分の1の水準まで縮小した。


2025年の女性役員比率を地域別に見ると、先進国が35.3%、新興国は19.0%。日本は先進国に比べ11.9ポイント差とまだ開きがあるものの、15.8ポイントの差があった2022年時点から比べると約4ポイント詰めている。


また、2022年時点では日本の水準を上回っていた新興国だが、このところ20%台を前に伸び悩んでおり、今では日本を下回る形となっている。日本の女性役員比率は一貫して伸び続けているのに対し、グローバルでは先進国・新興国ともに女性役員の登用の動きは鈍化傾向にある。


次に国別の水準を比較してみよう。主要先進7カ国(G7)における2025年の女性役員比率を見ると、フランス(46.3%)が最も高く、次いで英国(44.5%)、イタリア(41.3%)、カナダ(39.4%)、ドイツ(38.7%)、米国(33.8%)と続き、日本(23.4%)は最下位である。これだけを見ると、日本の取り組みの遅れが目立つ。G7以外の国で日本を下回る主要国は、ブラジル(23.3%)、韓国(19.4%)、中国(17.5%)などである。


ところが、G7各国の女性役員比率の伸びを追ってみると日本の印象が一変する。2016年時点の女性役員比率を基準値の100とし、2025年までの比率を指数化していくと、日本の伸びが短期間で突出していることが分かる。これは裏を返せば、現在の先進国においては日本が最も熱心に女性役員の拡大に取り組んでいるともいえる。(【図表2】)


【図表2】G7/女性役員比率の伸び率(2016年=100)の推移

【図表2】G7/女性役員比率の伸び率(2016年=100)の推移

出所:MSCI「Women on Boards and Beyond Report」(2016~2025年版)を基にタナベコンサルティング戦略総合研究所が算出・作成


もっとも、女性役員比率が40%を超える3カ国(フランス・英国・イタリア)は取締役会のジェンダーパリティ(男女の数・比率などが均衡している状態)までの伸びしろが小さいという側面はある。ただ、フランスとイタリアは「クオータ制」(上場企業に取締役の40%を女性に割り当てることを義務付ける制度)の導入国であり、英国もクオータ制は採用していないが上場規則を改定し、全上場企業に対して40%以上の女性取締役比率目標を設定。年次報告書で達成状況の開示を義務付けている。


ドイツも企業の最高統治機関である監査役会(取締役会より上位に位置する)の役員の30%以上を女性とすることを義務付ける法律が2016年に施行された。またEUは2022年、域内上場企業に対して2026年6月末までに全取締役の33%を女性にするよう義務付けている。米国では、ナスダック市場やカリフォルニア州が上場企業に対して一定数の女性取締役の登用を義務付けている。


欧米の女性役員比率の高さは、法や規則による義務化が功を奏した。しかし、日本は法や規則で強制していない。女性の役員登用が欧米に見劣りしていることは事実であるが、企業の自助努力によって推進され、短期間で成果も上がっていることを考えれば、現状を否定的・悲観的に捉える必要はない。ジェンダー平等が進んでいるとされる欧米企業も、昇進や賃金などの男女間格差は解消できていないのである。日本企業だけが世界で特別に問題があるという切り取り方は、必ずしも正確ではない。



ジェンダーギャップ指数とジェンダー不平等指数

「日本の女性は国際的に見ても著しく不利な扱いをされている」という根拠として、メディアでよく挙げられるのが「ジェンダーギャップ指数」(GGI)である。これはダボス会議を主催する「世界経済フォーラム」(本部:スイス・ジュネーブ)が毎年発表しているもので、「経済」「教育」「健康」「政治」の4分野・14項目の指標(議員や賃金、識字率、健康寿命の男女比など)から、国別に男女格差の度合いを算出したものだ。指数は「0」が完全不平等、「1」は完全平等を表し、値が0に近いほど男女間格差が大きいことを示す。


2025年版の日本の順位は、148カ国中「118位」と先進国で最も低い。先進国はおろか、日本はアフリカの最貧国アンゴラ(117位)、女性の人身売買や児童買春が横行するカンボジア(106位)、女性を連れ去り強引に結婚する誘拐婚の風習が残るキルギス(95位)、15歳未満の少女の児童婚率が世界で最も高いとされるバングラデシュ(24位)など、深刻な女性の人権侵害問題を抱える国々を下回っている。


日本の指数を分野別に見ると、健康(0.973、50位)と教育(0.994、66位)は中位に位置するが、経済(0.613、112位)と政治(0.085、125位)が低く、全体の順位を押し下げている。このうち経済は、労働力(0.778、81位)、賃金格差(0.603、93位)、所得格差(0.592、91位)、管理職(0.192、127位)となっており、特に女性の管理職指数の水準が低い。


とはいえ、前述した国々の女性よりも日本の女性の方が不平等な扱いを受けているという“評価”に対し、その算出方法の信憑しんぴょう性については疑義を唱える声も多い。


一方、メディアが全くと言っていいほど取り上げないのが、「ジェンダー不平等指数」(GII)だ。こちらは国連開発計画(UNDP)が算出・公表する男女格差の測定指標である。「リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)」「エンパワーメント」「労働市場への参加」という3つの領域で男女間格差を算出する。


リプロダクティブ・ヘルスは「妊産婦死亡率」と「15~19歳の女性の出生数(1000人当たり)」で測定する。また、エンパワーメントは「立法府の議席に占める男女別割合」と「中・高等教育への進学状況」を基準とし、労働市場への参加状況は「女性の労働市場への参加率」で判断する。GIIの指数は「0」が完全平等、「1」は完全不平等で表される。ジェンダーギャップ指数とは逆に、値が0に近いほど男女間格差が小さいことを示す。UNDPの「人間開発報告書」(2025年版)によると、日本の最新データは0.059で172カ国中22位と上位に位置する。(【図表3】)


【図表3】ジェンダーギャップ指数(GGI)とジェンダー不平等指数(GII)

【図表3】ジェンダーギャップ指数(GGI)とジェンダー不平等指数(GII)

出所 : 世界経済フォーラム「Global Gender Gap Report 2025」、国連開発計画「HUMAN DEVELOPMENT REPORT 2025」を基にタナベコンサルティング戦略総合研究所作成


GGIとGIIの順位の乖離かいりは判断材料とするデータの違いによるもので、どちらが正しいという議論はナンセンスである。しかし、日本のメディアがこぞって取り上げるのは「日本は先進国最下位の118位」というGGIであり、もう一つの国際指標であるGIIに着目して報じるメディアは少ない。これはポジティブよりネガティブ、事実より感情が優先されがちな報道姿勢の特性も背景にある。


ちなみに日本新聞協会が新聞社・放送局など加盟99社の社員と役員約3万6000人に行った大規模調査(2026年4月23日公表)によると、「職場において男女の地位は平等か」という問いに「平等」と答えた男性は40.7%だったのに対し、女性は26.0%にとどまった。また「男性が優遇されている」と感じている女性は58.3%に上り、男性(29.4%)の約2倍に上った。公平・公正を標榜ひょうぼうするメディアも、職場のジェンダー平等の現状認識には男女間格差がある。


いずれにせよ、男女間格差を示す合理的な指標であっても、その捉え方には大きな格差が生じるところにジェンダーを取り巻く課題の複雑さが表れているといえよう。


日本企業は高齢男性を中心に意思決定プロセスが形成されてきたことから、「オールド・ボーイズ・クラブ」と揶揄やゆされてきた。またメディアによって「女性が活躍する欧米企業」と「女性が抑圧される日本企業」という二項対立の構図で語られてきた。日本は欧米と比べ女性リーダーが少ないことは厳然たる事実だが、近年は官民挙げた取り組みによってその差は確実に縮まっている。


経営者がジェンダーギャップの解消を急いだあまり、男性社員の不公平感が増すというのでは本末転倒だ。性別に関係なく成果で評価する姿勢を堅持する一方で、女性社員が働きやすい職場環境の整備に努めつつ、意思決定の権限委譲を女性社員へ積極的に進める。そのリーダーシップ体験を通じて女性の経営人材プールを地道に形成していくことが重要だ。