女性役員が増えない要因
2015年に「女性活躍推進法」が成立し、一定規模以上の事業主には、女性活躍に関する行動計画の策定・公表や、関連情報の開示が求められるようになった。これを契機に、多くの企業で育児支援制度や時短勤務制度、管理職登用目標などの整備が進み、日本企業における女性管理職の割合は増加している。
一方、経営層に目を向けると、見えてくる景色は少し異なる。経団連がまとめた「上場企業役員ジェンダー・バランスに関する経団連会員企業調査結果(2025年版)」によれば、東証プライム市場上場企業の女性役員比率は18.4%に達した。しかし、その多くは社外役員であり、経営の執行を担う女性の社内役員はわずか2.2%にとどまる。役員比率の体裁は社外人材によって整いつつあっても、自社で経営人材を育て、登用できている企業は依然として乏しい。
管理職への登用は進む一方、経営を担う社内人材としての女性が育っていない——この断層こそが、女性役員が増えない真の要因である。問題は女性の能力ではなく、経営人材を計画的に育て、登用する仕組みの不在にある。
女性役員候補を生み出す3つの仕組み
そもそも、管理職を増やす制度と、経営人材を育てる制度は分けて考える必要がある。女性を管理職に登用する制度を整えるだけでなく、男女問わず経営を担う人材を公平に可視化し、育成・評価する仕組みを整えること。そして、経営層に必要な経験を「誰に・いつ・どのように積ませるか」を設計することが重要である。その中で鍵となるのは、次の3つの仕組みである。(【図表】)
【図表】女性役員候補を生み出す3つの仕組み
出所 : タナベコンサルティング戦略総合研究所作成
❶ 人材の可視化
多くの中堅・中小企業では、役員候補が社長や一部の役員の頭の中にしか存在しない。しかもその候補は営業部長、工場長、管理部長など、従来の男性中心の幹部層から選ばれやすく、女性は役員候補リストに入る前に選考から漏れてしまう。
ある売上高100億円規模の卸売業では、女性管理職は複数いたが幹部層にはおらず、女性が役員候補として議論されたことはなかった。理由を聞くと、「まだ経営目線が弱い」「業績管理を行った経験がない」という声が上がった。だが実際には、女性管理職を幹部層に登用しておらず、経営目線を持つ機会も、業績管理を任せる機会も与えていなかった。
そこで同社では、部長以上だけでなく課長層まで含めた「役員候補者リスト」を作成し、性別、年齢、職種、異動歴、業績管理経験、プロジェクト経験を一覧化した。その結果、これまで埋もれていた女性が役員登用を視野に入れた育成対象として挙がるようになった。
このように、人材を可視化しなければ印象のみに頼ることになり、候補者はいないことにされてしまう。
❷ 登用基準の明確化
女性役員候補が出にくい会社では、役員登用基準が曖昧であることが多い。「胆力がある」「社長の右腕になれる」「現場を掌握できる」といった言葉で語られるが、これらは過去の男性幹部像を前提にした印象論である場合が少なくない。
結果として、長時間働ける人、飲み会などの非公式な場で情報を得られる人、役員との関係性が近い人が有利になりやすい。男女を問わずそうした不公平をなくし、再現性のある役員登用を行うため、役員候補となる人材プール(育成・登用の対象となる母集団)を絞り込む基準を設けることを推奨する。
ある企業では、次のような基準を設けている。
● 年齢
役員登用までに必要な育成期間を確保できる年齢を上限とする
● 人事評価
直近数年の人事評価で一定水準以上の評価を継続して得ている
● アセスメント
第三者機関のアセスメントツールで一定水準以上の評価を得ている
● 多面評価
同僚・部下による多面評価で著しく低い評価項目がない
重要なのは、評価においてある一方向からのみではなく、多方面からその人材を評価し、正しく把握することである。これらの基準を明確化することで、「女性だから」「男性だから」と特別扱いするのではなく、経営人材として必要な素養があるかを適切に判断することができる。
❸ 経営経験を積む機会の設計
研修だけでは役員候補は育たない。重要なのは“経験”である。経験とは、例えば業績管理、人材配置、社外との交渉、投資判断、撤退判断を担うことであり、あるいは不確実性の高い局面での意思決定、危機的状況への対応、経営の難局を乗り越えることでもある。
経験を積ませる上で特に有効なのは、子会社社長や事業責任者、プロジェクト責任者、拠点長などへの登用である。ただし、ここで失敗する会社も多い。ある製造業では、初の女性役員候補を新規事業の責任者に起用したが、権限も予算も十分に渡さず、既存部門の協力も得られない状態だった。結果として成果は出ず、「やはり女性には難しかった」という評価になってしまった。
だが、これは本人の失敗ではなく、会社側の機会設計のミスである。登用とは、肩書を与えることではなく、責任、権限、支援体制、評価基準をセットで設計することだ。
成功している企業は、候補者に「小さな経営」を経験させている。例えば、既存事業の一部門を独立採算に近い形で任せる、赤字拠点の改善を1年間任せる、グループ会社の取締役や執行責任者として業績管理と人員計画を担当させる――こうした経験を通じて、単なる部門管理者から、経営判断を担う人材へと変わっていく。
女性役員候補づくりは次世代経営体制づくり
女性役員候補を生み出す制度とは、女性向けの優遇制度ではなく、次世代の経営体制を計画的につくる仕組みである。
これまでの日本企業は、経営人材を「経験を積んだ人の中から選ぶ」発想で運用してきた。しかし今後は、「経営を担わせる前提で経験を積ませる」発想へ転換しなければならない。
女性トップや役員は、仕組みがない会社では生まれない。候補者を見つけ、登用基準を明確にし、経営経験を与え、経営会議で継続的に育成状況を確認する会社からこそ生まれる。このような制度設計は、女性活躍推進の延長ではなく、企業の成長戦略そのものである。次世代経営体制を本気でつくる企業は、今すぐ自社の役員候補リストに女性がいるかを確認してほしい。いなければ、それは人材がいないのではなく、育てる仕組みがまだないということだ。まずは仕組みづくりから始めることを推奨する。
タナベコンサルティング
HR チーフマネジャー
「働く社員が幸せを感じられる企業の実現」をモットーに、日々クライアントサクセスの姿勢で真摯に向き合っている。中堅・中小企業を中心に、人事制度再構築や企業内大学(アカデミー)設立コンサルティングをはじめ、幹部から新入社員まで幅広い階層を対象とした教育も行っている。業種や企業規模を問わず、人と組織に関するコンサルティングを専門としている。