•  
女性経営人材のメインビジュアル
経営メソッド
女性経営人材

女性活躍推進が広がる一方、日本企業で女性役員・社長の登用が十分に進んでいるとは言いがたい。本特集では、「女性社員が活躍する会社」から一歩踏み込み、女性を役員・社長へ育成し、登用する会社は何が違うのかを探る。女性のトップ登用を、DE&Iや理念の実践にとどまらないテーマとして捉え直し、経営人材育成、事業成長、次世代経営体制づくりに直結する経営課題として考える。

経営メソッド 2026.07.23

女性の経営人材を輩出するポイント 盛田 恵介


女性社長の約2割は予期せぬ事態で承継

東京商工リサーチの調査※1によると、2025年における全国の女性社長(個人事業主や病院・生協の理事長を含む)は過去最多の68万5000人(前年比5.4%増)に上り、15年前(2010年、21万2000人)の3.2倍に増加したそうだ。女性社長比率は過去最高の15.6%で、日本の社長の6人に1人は女性ということになる。


しかし、予定通りに事業承継が行われた女性社長はそう多くない。明治大学商学部教授の浅井義裕氏と企業2社(エヌエヌ生命保険、コラボラボ)の共同調査※2によると、事業承継を決断した理由(複数選択)として「前社長が急逝し、後継者がいなかった」と答えた割合は女性22.7%、男性13.4%だった。


また、「前社長の体調不良や家庭事情などで退任せざるを得なかった」(女性20.2%、男性8.0%)、「後継者が育つまでの一時的な中継ぎ」(女性13.4%、男性6.3%)などの回答も、性別で大きな違いが見られた。


つまり、自発的・計画的な事業承継が多い男性社長に比べ、女性社長の事業承継は外生的・突発的な要因によるものが相対的に多い可能性がある。十分な準備期間もなく、承継を想定されていなかった女性後継者が経営を担うケースでは、収益面などの経営成果が通常の事業承継に比べ低調な傾向が確認されたという。


※1 「第14回 2025年の『全国女性社長』調査」(2025年10月27日)
※2 「事業承継に関する実態調査」(2026年5月28日)



社長の椅子の約8割は男性が座っている

総務省統計局の推計によると、日本の総人口1億2286万人(2026年4月1日、概算値)のうち男性5978万人、女性6307万人と数の上では“女性優位”である。人口動態から考えれば、女性社長の数が男性社長を上回っていても不思議ではない。だが、現実は社長の8割超を男性が占めている。


「女性特有のライフイベント(妊娠・出産)や育児と家事の両立でキャリア形成が難しい」「多くの女性は出世競争を望んでいない」など、企業の昇進・昇格の男女間格差についてはさまざまな議論がある。ただ、社長室の椅子に座る女性が男性より極端に少ないという状況は、人材の多様性が求められる現代では不自然と言わざるを得ない。


女性社員の貢献が可視化されない要因は何か、後継者へのパイプラインに性差は隠れていないか、女性への配慮が結果として「パターナリズム(家父長主義)」によるジェンダーバイアス(性差に基づく偏見)につながっていないか。全ての日本企業は「女性活躍度」という尺度で社内を総点検し、経営層への登用を前提とした女性人材の育成を急ぐべきだ。


女性の経営層登用は、今や企業価値を高める上で重要な経営テーマの一つである。2023年3月に開催されたキヤノンの株主総会で、女性役員の不在を理由に御手洗冨士夫・会長兼社長CEOの取締役再任決議があわや否決寸前まで至ったことは記憶に新しい。


男性に偏った経営陣は意思決定が同質化し、変化に乏しくなる。上場企業を中心に女性役員の増員を求める社会的要請は強まっており、官民を挙げた取り組みが積極的に展開されていくだろう。



女性経営層に必要なのは「責任ある挑戦機会」

管理職や取締役の女性比率は上昇傾向にあるものの、欧米に比べるといまだ低水準であり、育成スピードも十分とは言えない。女性の経営人材を社内で計画的に育成するためには、キャリア形成、リーダー経験、困難な現場経験を段階的かつ一貫して設計することが重要となる。


経営層の人材育成と言えば、企業内大学(アカデミー)の開校、ジュニアボード(経営陣への提言を目的とした若手・中堅社員による模擬的役員会)の組成、経営人材プールの整備などが代表的な施策だが、女性経営層の育成で欠かせないポイントが「タフアサインメント」、すなわち“修羅場”を踏ませて成長を促すことである。具体的には、正解がない状況で逃げられないプレッシャーを背負いながら意思決定し、その結果について説明責任を果たすといった場面である。


女性の活躍を阻害する要因を探ると、大きく二つの心理的傾向が働いていることが多い。周囲が抱く「アンコンシャスバイアス」と、本人の「インポスター症候群」である。アンコンシャスバイアスとは、「リーダーは男性がなるべき」など固定観念や無意識の偏見をいう。インポスター症候群とは、自らを過小評価してしまうことをいう。


例えば、子育て中の女性社員に対して、上司が「育児に追われて毎日大変だろう」と重要な仕事から外すと、結果として女性本人が描くキャリアを形成できなくなる。一方、女性本人は重要な仕事から遠ざけられ、自分が職場の足手まといになっていると自らを追い詰めてしまう。善意と配慮が希望と成長を奪う悪循環を招き、女性社員が昇進を諦めたり、他社に転職したりするケースは多い。



決める、背負う、動かす力が求められる

経営人材には「修羅場」をくぐり抜けた経験が必要である。なぜなら役員は知識量ではなく、不確実性の中で物事を決める力、責任を背負う力、組織を動かす力が求められるからだ。これらは机上の座学だけでは身に付かず、難局を乗り越える経験の中でこそ鍛えられる。


例えば、赤字事業の再建、不採算事業の撤退判断、不祥事の初動対応、幹部の対立への対処など。こうした負荷の高い業務はもっぱら男性社員にアサインされ、女性社員はそれらの後方支援に充てられることが多い。


しかし、こうした経験は経営人材へ成長する上で、性別にかかわらず意図的に設計すべき機会と言える。大切なことは、厳しい現場にただ「放り込む」のではなく、綿密な事前準備と丁寧な伴走支援など、徹底したサポート体制の下で経験させることである。それを乗り越えた女性社員は、周囲のアンコンシャスバイアスを打破し、本人もインポスター症候群を克服して、他の女性社員の見本となるロールモデル役員へ成長していく。


単に「女性の活躍を応援する」という抽象論ではなく、女性役員候補者がどの段階にいて、どういった壁を越えれば次のステージへ進めるのかを見極め、計画的に育成・登用・抜てきするパイプラインを再設計する必要がある。女性の採用を増やせば自然と女性経営層も増えていくわけではない。女性経営層の育成は一朝一夕に実現せず、今から仕組みづくりに取り組みたい。それは企業の未来をつくる投資にもなるはずだ。


育った人を役職に就けるのではなく、「役職が人を育てる」と捉えて、意思決定や組織のかじ取りをまず経験させてみる度量が求められよう。

PROFILE
著者画像
盛田 恵介
Keisuke Morita

タナベコンサルティング
執行役員
セミナー責任者を経てコンサルティングに携わる。人づくりをデザインする総合プロデューサーとして、中堅・中小企業の人事・教育制度構築から運用に至るまでトータルでサポート。特に、さまざまな業種・業態の企業内大学(アカデミー)設立に実績を有し、多くの社員の成長を促すプログラム開発にクライアントから高い評価を受けている。