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経営メソッド 2026.08.31

ホワイト企業の、その先へ
「リスペクト」が生む働きがいのある組織
愛幸

社員が「入社して良かった」と思える会社を目指し、働きやすさを追求してきた同社が今、挑むのは「リスペクト」を軸にした心づくりだ。互いを尊重し合いながら切磋琢磨せっさたくまする健全なコンフリクトの先に、ホワイト企業を超えた「働きがいが生まれる組織」を見据えている。


シェアオフィス契約企業との共用スペースで、偶発的なコミュニケーションを生むリフレッシュエリア

シェアオフィス契約企業との共用スペースで、偶発的なコミュニケーションを生むリフレッシュエリア



ものづくりは人づくり。愛幸流・心を育む経営

自動車や半導体生産向けの自動制御装置メーカーである愛幸の本社・AS Village(エーエスビレッジ)は、2022年度の日経ニューオフィス賞で中部ニューオフィス奨励賞に輝いた。執務専用エリアには、個々の身体にフィットする昇降デスクと多種多様なチェア。本社併設のシェアオフィスには、ごろ寝ゾーンや仮眠ブース、バーカウンターなどのスペースがあり、オフィス契約企業との接点を生む。いきいきとポジティブに働ける「社員の幸せを追求した空間」である。「いこるところに愛と幸は集まる」(情熱の火が燃えるところに人は集まる)。AS Villageの正面玄関を飾る絵言葉は、創業から20年を迎えた愛幸の社名にふさわしい「在り方」を物語る。


「社員全員で先進的なオフィスの企業見学を重ねてから、1人5分、『私はこんなオフィスにしたい』と発表してもらいました。働きやすさをコンセプトにみんなの思いを詰め込んだので、オフィスの随所に『○○さんが提案したところ』があります」


そう笑顔で語るのは、創業者で代表取締役社長の福元政雄氏だ。「人間性を高め、社員の幸せを追求する」「お客様・地域に感謝され愛される」という“愛幸”の理念を掲げ、「人づくりに人生を賭ける経営者」との評判を得るまでには、苦渋の道のりがあった。福元氏は進学校に通う優等生だったが、家庭の事情で大学進学を断念。高卒で働き始めた企業は2年で倒産し、再就職の面接では数分で履歴書を突き返される挫折を何度も味わった。


「27歳で創業した時は、人づくりの志よりも、『一旗揚げるぞ、もうけるぞ』という思いでした。その2年後のリーマン・ショックで仕事がなくなり、8名いた社員が全員辞めてゼロリセット。倒産は免れましたが、たった独りに戻って絶望しました。数年後、縁あって新たに社員が入社してくれた時に、初めて心から喜びと感謝が湧き、『入社して良かった』と思える会社にしよう、と決めました。


社員に幸せになってほしいという思いが根っこにあって、『ものづくりは人づくり。人づくりは心づくり』だと言い続けています。心を育むことを大切にし、経営のあちこちにその仕組みを散りばめています」(福元氏)


昭和の経営の神様・松下幸之助が遺した「物をつくる前にまず人をつくる」という格言は有名だが、そこに「人づくりは心づくり」という独自の哲学を加えた人材育成が、愛幸の原動力だ。ゼロリセット前は、仕事をさぼるのは「社員が悪い」と決めつけていた福元氏。だが「ほぼ個人事業主の零細企業に優れた人材が集まらないのは当たり前。むしろ自分の器や人間性こそが問題だ」と気付いた。


「来る者拒まずでとにかく採用し続けていた時は、うつ病を抱える人や、入社日に万引きで警察沙汰になる人もいて、まさにカオスでした。それでも、とにかくチャンスを与えたいと思って、できるだけ採用しました。良い人材が集まるようになった今も、その思いは変わりません」(福元氏)


散りばめられた「心づくり」の仕組みは、多岐にわたる。毎朝の全体朝礼では、社員がハッピーシェアや理念について2分間スピーチし、「感謝の時間」は10秒黙想。その後、部門朝礼の最後に「ほめほめリレー」で互いに褒め合い、拍手を受けてから1日の仕事がスタートする。


自動制御装置の設計・製作などを手掛ける

自動制御装置の設計・製作などを手掛ける



感謝とリスペクトで働きがいが生まれる組織へ

「感謝の時間は、私が社員に感謝をなくした時点で会社の成長が止まると考え、みんなも誘って始めました。また、ハッピーシェアとほめほめリレーは、心が前向きになる仕組みです。自己肯定感が低いと悪いところばかり見てしまいますが、良いところや幸せを見つける場を数多くつくり、その習慣を文化として仕組み化することで、日常的に人間性が高まり、活躍できる人材に育ちます。どんなに能力が高くても人間性が低いと、世の中から必要とされません」(福元氏)


成長への投資として、まず社員が幸せになることを最優先する「社員ファースト、社長セカンド」が、経営者としての福元氏の流儀だ。完全フレックスタイムや副業、昼食補助など制度面も充実。賃金も岐阜県の同業他社の平均額を上回る実績で、増額目標を社内に公言し「一緒に実現していこう!」と呼びかける。ストレスチェックも「心の状態を、まず社員本人が知ってほしい」(福元氏)と願い、2028年の義務化に先行して2023年から全社員対象に実施している。


さらに2026年6月、初めて実施したのが「リスペクトトレーニング」。ハラスメントなどNGな言動を教えるレクチャー式の研修ではなく、「リスペクト」のフィルターを通して対話する「思考の筋力」を鍛えることで心理的安全性を高めるトレーニングである。自ら考える力を高め、ポジティブな行動を引き出す狙いで、愛幸の心づくりのステージを一つ上げるアプローチとして福元氏を含め全社員が参加した。


「働きやすい環境が整ったホワイト企業も、権利主張が強くなったり仲間と馴れ合いになったりと、環境に甘えて頭打ちになる組織は少なくありません。互いを尊敬し合いながら、いきいきと健全なコンフリクトの中で切磋琢磨でき、働きがいが生まれる組織を目指す一歩が、リスペクトトレーニングです。


初回は3名ずつのグループワークで、気付きを促す場でした。印象的だったのが、インシビリティー(礼節の欠如)とシビリティー(礼節)の概念。どのような言葉遣いや態度が歓迎されるかを話し合い、共通のシビリティーを形成していく。それが互いへのリスペクトにつながるというものです。同じ言葉や態度であっても、人によって受け止め方が全く違うことを認識し、だからこそ同じベクトルを共有する大切さも再確認しました」(福元氏)


研修終了後の社員アンケート結果は平均4.7点(6点満点)と、福元氏の想定を上回る高評価を得た。「会社がより良い方向に進んでいる気がする」「少なくとも年1回はやってほしい」と前向きなコメントが相次ぎ、今後はどんな頻度や内容で続けていくか検討中だという。



人づくりのための事業戦略

愛幸の人づくりは「幸せに気付く心づくり」と言えるだろう。AS Villageはその舞台となり、部署や社外の垣根を超えたコミュニケーションが活性化している。地元の子どものサッカーチームに無償開放し、ワールドカップのパブリックビューイングを開催するなど、地域貢献活動の場にもなっている。


「単なるフリーアドレスではなくアクティビティ・ベースド・ワーキングの考え方で自由に最適な働き方や環境を選ぶので、『働かされ感がない』と社員は言います。数字にすぐ表れたのが離職率で、10%超から3%に下がりました。日経ニューオフィス賞も、社員のモチベーションや幸せ感、採用増や知名度の向上など、インナーとアウター両面のブランディングにつながっています」(福元氏)


創業時は105日だった年間休日も126日になり、さらに130日に増やす目標を掲げる。「中小企業であることを言い訳にせず、まず先に『与え届ける』ことを心掛けています。最初は思いが届かなくても、池に石を投げたときのように少しずつ波紋が広がっていきます。経営者にできるのは、環境や仕組みを整え、活躍できるきっかけをつくること。社員には『幸せにする、と言ったら私のおごりだし、幸せにしてくれ、と言うのは皆さんの甘えだよ』と伝えています」(福元氏)


経営戦略における人材育成は、「事業成長のための人づくり」という位置に置かれるのが王道だが、福元氏は「人づくりのための事業戦略」だと語る。そのために、電気設計・制御のソフトから工事の一式受注、機械事業のハードへと展開し、自動化トータルソリューションの実現に挑んでいる。


「事業を多角化すると部門長のポジションが増え、リーダーに成長できるチャンスが生まれます。教え導く立場になって初めて、実は自分が教えられていると気付き、成長しますから。また、エンジニアに限定することなく、適材適所の活躍が可能になります。人と事業は経営の両輪ですが、究極的にはやはり、人が育つことが先です」(福元氏)


人づくりに心を砕き、ノウハウなどの「手段(やり方)」だけでなく、互いをリスペクトする姿を本気で目指す「覚悟」を示す福元氏。その推進力を高めるには、コンサルタントなど適切な外部パートナーから多様な情報や知見を得るメリットは大きいと語る。


「創業者は大抵、自分のやりたいようにやろうとします。私もそうでしたが、パートナーの助言で多くの企業を視察し、刺激や学びを持ち帰って取り入れ、自社の良いところにも気付くようになりました」(福元氏)


経営者にも「育つ場」は欠かせない。自らも学び、変わり続ける姿を社員に見せることが、次のリーダーを育てる土壌になる。「トップエンゲージメントが大事です。しっかり伝えて、言行一致を心掛け、努力する姿を見せること」(福元氏)。その姿勢こそが、社員の、そして地域の幸せへとつながっていく。


※ 業務内容や目的に最適な場所・時間・相手を自ら選択して働く、自由で柔軟で生産性重視のワークスタイル


※ 愛幸の取り組みをコンサルタントの視点からまとめた「学びの主体を個人から組織へ」はこちらからお読みいただけます。


愛幸 代表取締役社長 福元 政雄氏

愛幸 代表取締役社長 福元 政雄氏


(株)愛幸

  • 所在地:岐阜県羽島市江吉良町江中7-23
  • 創業:2006年
  • 代表者:代表取締役社長 福元 政雄
  • 売上高:4億7600万円(2025年5月期)
  • 従業員数:40名(2025年5月現在)