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タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティング メソッド 2026.08.27

学びの主体を個人から組織へ 浜西 健太

「教育」から「学習」へ 組織が学び続ける経営

経営や人事の現場における「教育」と「学習」は、似ているようで意味合いが異なる。「教育」はどこまでいっても受動的な側面を持ち、会社が機会を与えるだけの一方通行な営みに陥りやすい。これに対して「学習」は能動的であり、たとえ会社が用意した研修機会であっても、それを自らどう生かし、どう自身の成長につなげていくかが問われる。


重要なのは、この“学ぶ主体”としての視点を、個人だけでなく組織全体にも広げて捉えることである。経営は生き物であり、部分の寄せ集めではなく全体そのものである。だからこそ、集合体である経営(組織)がいかにして「学習」を重ねていけるかが、これからの企業経営における本質的なテーマとなる。


筆者はこの在り方を「学習する経営」と呼んでいる。すなわち、一個人の集合体である組織そのものが、自ら学び、変化し、進化し続ける経営である。その全体像を整理したものが、【図表】である。


【図表】「学習する経営」を構成する3要素


【図表】「学習する経営」を構成する3要素

出所 : タナベコンサルティング戦略総合研究所作成



仕組み・文化・動機付け 3要素の連動が成長の鍵

学習する経営を構成するのは、①学習システム(学習の仕組み)、②学習カルチャー、③学習モチベーション(継続的な動機付け)の3つである。


学習システムとは、学習機会をどのように設計するかを指し、①OJT・OFF-JT・自己学習のバランス、②ウェブ・リアル・アーカイブといった学習手法の組み合わせ、③階層別・テーマ別などの研修設計、④選抜型・手上げ式などの対象者の選定方法などから成る。


ここで重要なのは、社員が「与えられて学ぶ」状態から、「自ら選び、学ぶ」状態へと移行できるよう、自律的に選択できる機会の割合を段階的に高めていくことである。加えて、学習機会を単発で終わらせず、実務との接続や振り返りの場まで含めて設計することで、学びは知識を得るだけにとどまらず、行動変容や成果創出へとつながっていく。


学習カルチャーとは、組織における学びに対する価値観や空気感を指す。学習を特別なものではなく、日常の中に自然に存在するものとして根付かせるには、学びを称賛し、挑戦を認め合い、社員同士が相互に高め合える関係性を意識的・継続的に育んでいく必要がある。失敗を許容し、問いを歓迎し、教え合いが生まれる組織風土があってこそ、学習は個人的な取り組みを超えて、組織の力へと転化される。


また、学習モチベーションとは学習に向かう継続的な意欲であり、組織・チーム・個人それぞれが、それをどう維持・向上させるかが問われる。学びが評価や成長実感、役割拡大と結び付くことで、モチベーションは一過性ではなく持続的なものへと変わる。さらに、上司の関わり方や周囲からの承認、自身のキャリア展望との接続も、学び続ける力を左右する重要な要素である。


学習する経営とは、制度を整えるだけでも、精神論を唱えるだけでも成り立たない。仕組み、文化、動機付けの3つを連動させながら、個人の学びを組織の進化へとつなげていく経営活動そのものなのだ。企業が変化の激しい時代を生き抜くためには、優れた人材を一時的に集めること以上に、組織そのものが学び続ける存在になることが不可欠である。



愛幸に学ぶ自律自走「学習する経営」の真髄

この「学習する経営」の3要素を、自社の風土に根差した形で連動させているのが愛幸である。同社の実践からは、「学習する経営」を支え、有効に機能させているポイントが3つ見いだせる。


❶ 先義後利の人材投資

まず利益を追うのではなく、社員の幸せや働きがい、相互のリスペクトを起点に、学び合える風土や成長機会を整えている点に特徴がある。感謝や称賛を日常に組み込み、働きやすい環境や対話の場に先んじて投資することで、社員の主体性とエンゲージメントを高めている。


その積み重ねが、離職率の低下、生産性向上、採用力や企業価値の向上といった“利”として返ってきている。人を大切にすることが、結果として事業成長につながる好例といえる。


❷ 経営者としての在り方

人材育成の巧拙以前に、経営者自身の在り方こそが組織を決めるという点である。社員を管理対象として捉えるのではなく、まず自らが学び、変わり、感謝とリスペクトを率先して体現する。


その上で、社員が成長しやすい環境や機会を整え、あとは一人一人の主体性を信じて任せる。人を動かすのではなく、人が育つ土壌をつくること。それが、これからの経営者や人事責任者に求められる本質的な役割である。


❸ ホワイトのその先へ

「ホワイト企業」であることがゴールではない。休日や制度、働きやすい環境を整えるだけでは、真の働きがいは生まれない。その先に必要なのは、感謝やリスペクトを土台に、社員同士が認め合い、時に健全にぶつかり合いながら成長できる関係性を築くことである。


働きやすさを超え、働くことに意味と誇りを感じられる組織をどうつくるか。そこに、これからの人材育成、ひいては経営の本質がある。


愛幸の事例から見えてくるのは、企業が担うべき役割と、個人が主体的に向き合うべき課題との境界が明確であるという点である。会社は学習機会(=成長環境)を整えることはできても、学ぶかどうか、その機会をどう受け止め、どう自らの成長につなげるかは社員次第である。働きやすい制度や前向きで互いを尊重し合う文化を整えたとしても、その中で幸せを実感し、自ら働きがいへと昇華できるかどうかは、最終的には一人一人の主体性に委ねられる。


だからこそ重要なのは、会社が一方的に「育てる」「幸せにする」と考えるのではなく、社員が自ら学び、自ら気付き、より良い働き方や生き方を自ら選び取れる状態をどうつくるかである。愛幸の実践には、学習機会は提供するものの、その先は自分次第であるという自律自走の思想と、幸せをカタチにするのもまた自分自身であるという境界線が明確であり、まさに「学習する経営」の真髄が詰まっている。


※「ホワイト企業の、その先へ 「リスペクト」が生む働きがいのある組織:愛幸」はこちらからお読みいただけます。


PROFILE
著者画像
浜西 健太
Kenta Hamanishi

タナベコンサルティング
HR エグゼクティブパートナー

「誰もが幸せに働ける会社を生涯かけて追求する」をポリシーに、組織・人事に関するプロフェッショナルとして多くのコンサルティングを展開。特に、経営者へのコーチングが高い評価を得ている。クライアントのステージに合わせた人事制度設計および組織開発を通して、エンゲージメント向上と売り上げ倍増へと導いた経験を多く持つ。