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自ら声を上げ、課題解決に向けて動く自律型組織へ。
ジュニアボードやグローバル人材認定プログラムを通じて、パーパスを軸に「経営=自分事」の風土を育もうと挑戦を続ける大石膏盛堂の人材育成哲学とは。


現場から生まれる気づきと改善が大石膏盛堂のものづくりを支えている

現場から生まれる気づきと改善が大石膏盛堂のものづくりを支えている



人材育成は朝礼の改革から

「貼り薬」の専門メーカーとして、テープ剤やパップ剤といった経皮吸収型貼付剤の研究開発・製造販売を手掛ける大石膏盛堂。1907年の創業以来、高度な製剤技術を培い、品質に対する揺るぎない信頼を築いてきた。以来、医療用から市販薬まで幅広く製品群を取りそろえ、今や本社を構える佐賀県鳥栖市から世界各地へ、高品質な貼り薬を届けるグローバル企業として、さらなる飛躍の時を迎えている。


その土台を確固たるものにしようと、伊藤健一社長が約15年前から注力してきたのは「パーパスの浸透」だ。同社は当時、医療用商品の開発や新商品の上市に向けて、複数の大手製薬会社と大型プロジェクトを本格的に進めていく重要な時期を迎えていた。また、事業規模の拡大に合わせて取引先による工場監査の機会が増え、医薬品の製造管理および品質管理の基準(GMP)を厳格化する必要が生じていたことから、経営陣の間では「今こそ社員一人一人が襟を正して意識を高めていかなければ」という危機感が高まっていた。


「それ以前は企業理念を唱和する習慣がなく、ほとんど飾ってあるだけの状態でした。朝8時に始業しても、どこかダラダラとしていて、なかなか機械が稼働しないこともありましたね。そこで、まずは朝礼の場を活用して創業者の思いをしっかりと理解し、家庭と仕事のオンオフを切り替えようと、企業理念を唱和するところから始めました」(伊藤氏)


大石膏盛堂は何にこだわっていく会社なのか。伊藤氏は、「社外の目」に広くさらされるようになったことで、それを根本から問い直していかなければと腹を決めたという。



中間層育成と対話の活性化を通じて
社員の自分事化を促し組織風土の改革を進める

同社が推進する人材育成の核心は「自分事化」だ。伊藤氏によると、当初は社内の風通しが悪く、会社が目指している方向性が社員に伝わっておらず、どこか他人事のような空気感があった。部門間の対話の機会が少なく、現場と経営の距離も感じられ、また、マネジャークラスがさまざまな意見や提案を止めてしまっているという指摘もあったという。


その雰囲気を一新しようと、伊藤氏はまず、情報の透明性を高めて、経営層の考えを全社員に伝える仕組みを整えたいと考え、eラーニングを活用した教育に着手。基礎的な内容で10分から15分程度のコンテンツを制作した。


「鍵を握っているのはマネジャークラス、つまり『中間層』です。上から下、下から上へ情報を伝達するだけではなく、下からアイデアを吸い上げて上に伝える、あるいは上の考え方を下にも共有すれば、社内のコミュニケーションが活発になり、風通しが良くなっていくと考えています。まだまだ属人化しているところがありますので、今最も育成に力を入れている最中です」(伊藤氏)


しかし、社内のコミュニケーション不足は一朝一夕には解消されず、朝礼改革からの十数年間は試行錯誤が続いた。


転機となったのは、2022年にパーパスを策定したことだ。「九州からActive Lifeのために、ちょっとイイものを世界へ。」経営戦略のメンバーを中心に、練り上げたパーパスを全社へ浸透させるための模索が始まった。方針発表会の開催を皮切りに、第4工場に新設した見学者通路に自社の歴史やパーパスの成り立ちを詳しく知ることができる展示パネルを設置。全社員を対象に工場見学ツアーを行うなどインナーブランディングの仕組みを構築した。



ジュニアボード継続がパーパス浸透に奏功

特筆すべきは、2020年から実施しているジュニアボードがシナジーを生み出し、パーパスの浸透が加速度的に深まっていることである。


「ジュニアボードは6期目を迎えました。ジュニアボードを導入したきっかけは、タナベコンサルティングが支援する他社のジュニアボード研修の一部で講師を務めたことでした。受講生の皆さんがとても生き生きと議論されていて、これは素晴らしい仕組みだと確信したのです。会社の経営について深く理解している人材が増えれば増えるほど、社員間のベクトルが合致するようになり、やがて大きな力になるのだと」(伊藤氏)


同社は、ジュニアボードを一過性の施策で終わらせることなく、人材育成の仕組みとして継続。導入から6年が経過した今、対象者は当初よりもずっと若い世代となり、組織の中でも「当たり前」になってきたという。


「前半の半年間は徹底的に自社の現状認識と環境分析に取り組んでもらいます。何をするにしても『現状認識』が出発点となるからです。後半は、参加者の階層に合わせてテーマを設定し、課題解決に取り組んでもらいます。管理職であれば中期経営計画の策定、若手であれば縦横のコミュニケーション創出など、それぞれが今いる場所で実現できる課題をテーマとして与えるよう工夫しています」(伊藤氏)


実際、若手メンバーから提案された「AIを活用した議事録の作成」は、大幅な負担軽減となり、他部署にもさまざまなアプリ活用の動きが広がっていった。声を上げれば、良いものであれば採用される。そのような認識を全社員に持ってもらうことが目下の課題だ。伊藤氏いわく、「経営=自分事」という意識の高まりとともに、提案の質も上がっているという。


「社員からは今でもさまざまな意見や要望が寄せられます。少なからず『意見を伝えられる状態』をつくることができているので、以前よりも課題解決のためにコミュニケーションを取る場面が増えてきた実感があります。毎月実施しているモチベーション調査も、『トップマネジメントカンファレンス※』で知った、サイバーエージェントの事例を参考に自由記述欄を設けたことで、より自由な意見が飛び交うようになりました。部門間連携など、私と同じ目線で組織を見る人が増えてきています」(伊藤氏)


四半期ごとに発行している社内報では、社員からの提案を採用して改善した事例を見開き2ページを使って紹介し、フィードバックを徹底している。


「社員から会社に対する感謝の気持ちが寄せられることも増えてきました。以前は、社長である私からマネジャーに対して意見を伝えることの方が多かった。社員に求めている割に、私自身が傾聴できていなかったのです。ですから、まずは私が傾聴に徹して、社員の皆さんが意見を出しやすい仕組みをつくることが大切だと考えました。なんでもかんでも要求を受け入れるということではなく、『やらないことリスト』も作成して『できること』を一つずつ洗い出しています。今後は、ジュニアボードで経営リテラシーを身につけたメンバーが所属部署のけん引役となり、自分にできることから実行するような動きが次々と出てくることを願っています。社内に新天地を求めて『別の部署で活躍したい』という声も、ちらほら出ていますが、まずは足元を掘ることから始めてほしいと伝えています」(伊藤氏)


※ ゲスト講演や参加者同士のネットワーキングを通じ、経営のヒントや人脈を形成できるタナベコンサルティングのセミナー


大石膏盛堂 代表取締役社長 伊藤 健一氏。パーパス「九州からActive Lifeのために、ちょっとイイものを世界へ。」は企業理念を基に社内プロジェクトで策定された

大石膏盛堂 代表取締役社長 伊藤 健一氏。
パーパス「九州からActive Lifeのために、ちょっとイイものを世界へ。」は企業理念を基に社内プロジェクトで策定された



変化と成長を楽しめる組織に

2026年度からは新たに「グローバル人材認定プログラム」も導入した。グローバル化が進み、海外比率が高まる中、単なる海外赴任のための準備ではなく、世界に通用する判断力やリーダーシップを身につけることが目的だという。また、これを機に毎年恒例だったスローガンの策定を中止。形だけのスローガンよりも、各部門長がパーパスを軸に自部門の在るべき姿を主体的に考え、実行することを求めるようにした。「変化がないところには成長もないですから」。単に目標を積み上げるだけでなく、中長期的なビジョンから逆算して「今、何をすべきか」を議論する仕組みが重要だと伊藤氏は考えている。


ポストコロナにシフトした2023年以降、100億円超の売り上げを維持している大石膏盛堂。次なるステップアップに向けて課題と考えているのは、OEMに依存しない創造的な製品開発だ。そのためにも、多様な人材が主体的に活躍できる仕組みづくりにフォーカスし、採用時に2種類の適性診断を実施。適材適所への人材配置を試みている。


「製造業はルーチンワークが多いため、合うか合わないかの見極めは非常に重要です。入社してからどのように成長していけるのか、どのような機会があるのかをしっかり伝えていく必要があると思っています。もちろん、ルーチンワークにも日々の変化が必ずあります。それを敏感にキャッチしてもらいながら、一人一人が自分の成長を楽しめるような仕組みをつくっていきたいです」(伊藤氏)


自らが率先して学び、自己変革に挑戦し続ける伊藤氏が目指しているのは、昨日よりも今日、今日よりも明日と、全社員がワクワクしながら働ける組織の姿だ。



ジュニアボードで育てる「経営を自分事にする人材」はこちらからお読みいただけます。


(株)大石膏盛堂

  • 所在地:佐賀県鳥栖市本町1-933
  • 創業:1907年
  • 代表者:代表取締役社長 伊藤 健一
  • 売上高:122億円(2025年8月期)
  • 従業員数:335名(2026年7月現在)