仕組みで育てる経営人財。“次の経営者”が、100ビジョンを動かす 三春情報センター
不動産を主軸に事業を広げるミックグループ(三春情報センター)。
同社が2030年に掲げる「100ビジョン」の鍵を握るのは、未来を構想し、事業と組織を動かす“経営人財”だ。
代表取締役の春木磨碑露氏は、カリスマに頼らない「仕組みとしての経営」を進めている。
「お客様それぞれの夢や願いなど“コト”を叶えるコトづくり企業」として、暮らしを営む場所である住まいのコトから、暮らしを彩るさまざまなコトまで顧客のための事業を展開
神奈川県No.1宣言を実現する「100ビジョン」
三春情報センターは、1977年の創業以来、横浜市を起点に地域密着で事業を展開してきた。不動産を中核に、リフォーム、保育園、温泉旅館、デイサービス、レストラン、宿泊・旅行、くらしサポート、企業向けサービス、海外事業へと領域を広げ、いまや「住まい」だけでなく「暮らし」に関わる生活総合産業へと進化している。こうした歩みにより、2025年には売上高110億円超、グループ全体で600名超の従業員を抱える企業へと成長した。
同社は自らを「お客様それぞれの夢や願いなど“コト”を叶えるコトづくり企業」と位置付け、「世界一のコトづくり企業」を掲げる。その成長戦略の中心にあるのが、2030年に向けた「100ビジョン」だ。売上高250億円・粗利益100億円、神奈川県内100拠点超を目指すとともに、100店舗・100人の経営者づくりを柱に据えている。
その背景について、代表取締役の春木磨碑露氏はこう語る。
「2012年に父からバトンを受け継いで社長に就任しました。その際、先代のようなカリスマ性で経営する手法から、組織力で経営していく方針に転換し、1年かけて事業発展計画書を作成しました。
その中で掲げたのが、2030年までに100店舗、100人の経営者を育てるという目標でした。1人の経営者が100歩進むより、100人の経営者が1歩ずつ進む方が、成長スピードは速くなると考えたのです」
同社の特徴は、単に拠点を増やすのではなく、不動産の周辺にある顧客接点を広げてきた点にある。住まいだけでなく、結婚、旅行、暮らしのコスト、日常サービスまで視野を広げ、「人生のターニングポイントの手前で接点をつくる」という発想で事業を構想してきた。
実際、顧客の約4割は既存顧客からの紹介またはリピーターだという。こうした信頼関係を横浜市から神奈川県全域へ広げていく構想こそが、「神奈川県No.1宣言」であり、「100ビジョン」の核心でもある。
経営人財に求められる3つの力
100人の経営人財を育てるには、まず人財像を明確にする必要がある。春木氏が挙げるのは、①理念と一体であること、②自ら問題を解決すること、③人を育て組織力を高めること、の3つだ。
第一は、理念を理解するだけでなく体現すること。同社は「お客様善し、地域(社会)善し、自分・家族善し、会社善し」の「四方善し」を重視し、理念の実践が社員自身の幸せや自己実現につながると考えている。春木氏が「社員と社員の家族を幸せにすること」を自身のテーマに掲げるのもそのためだ。第二は、問題解決力である。同社は不動産業界では珍しい固定給制を採用し、個人競争ではなくチームで価値を出す文化を築いてきた。
「当社は固定給なので、売上高を上げることよりも、お客さまの信頼を得ることに重きを置いています。そのためには、新人でも成果を出せる仕組みが必要です。そこで重視しているのがチームワークです。マネジャー、保険担当、リフォーム担当など、1人のお客さまに複数の専門家が対応します。だからこそ、リーダーには、誰の力を借りてどう解決するかを判断する力が求められます」
春木氏は、不動産営業の立ち位置を「お客さまの正面ではなく、横に座れ」と表現する。営業担当は売る人ではなく、顧客の味方として隣に立ち、専門家とつなぎながら課題を解決する。その仕組みが信頼関係を生み、離職率の低さにもつながっている。
第三は、人を育てる力である。同社では“人財カルテ”や“営業マンカルテ”のような仕組みを活用しながら、部下の将来像や課題を把握し、成長を支援するマネジメントを求めている。つまり同社が育てたいのは、数字を追う責任者ではなく、理念を理解し、問題を解決し、人を育てられる人財なのである。
三春情報センター 代表取締役 春木 磨碑露氏
ネクストブレインズが担う次世代経営チームづくり
その実践の場となっているのが、「ネクストブレインズ」だ。タナベコンサルティングのジュニアボードの考え方も取り入れながら、次世代の経営者候補を育てるトップ直轄の取り組みである。
「15名前後の次世代社員を私が選び、新規事業の企画立案から構築、展開、運用までを任せています。中核の不動産事業につながる新規事業を考えてもらい、2025年も2つの新事業を立ち上げました。資金繰りや人財確保まで経験してもらうことで、経営者レベルの仕事を学んでもらっています」(春木氏)
この取り組みは、2030年の成長目標をより速く実現するため、具体的なストーリーやロードマップを描く必要があるという課題意識から始まった。議論はやがて2050年ビジョンへと広がり、その未来を実現する新規事業創出へと発展。社内選抜メンバーとタナベコンサルティングの提案を組み合わせる形で具体化していった。
メンバーは複数チームに分かれ、アイデアを検討し社長へプレゼンテーションを行った。春木氏も「想定以上の内容だった」と評価しており、その成果は第2期へつながっている。活動は1年スパンで進み、月1回の社長面談に加え、週次でも進捗確認を行う。構想だけで終わらせず、実行までやり切る点に特徴がある。
ネクストブレインズには、次世代育成だけでなく、将来の事業承継を見据えた意図もある。メンバーはグループマネジャーなどのキーパーソンが中心だが、若手や新人も含まれている。
その背景には、春木氏自身が35歳で父から社長を引き継いだ経験がある。将来的には子息への承継も視野に入れており、その時に必要なのは後継者1人ではなく、その周囲を支える同世代の参謀たちだという。
「私も父から引き継いだ時、古参の役員にはグループ会社を任せ、本社経営は若い我々でかじ取りできる環境を用意してもらいました。そのおかげで、組織経営へのシフトがスムーズにできました」(春木氏)
事業承継を単なるトップ交代ではなく、「次の経営チーム」を育てることと一体で捉える。この視点も同社の特徴である。
学び続けるトップが、組織の学習文化をつくる。
100ビジョンの先にある、100年企業への人づくり
同社にはネクストブレインズ以外にも、24の組織横断型委員会がある。全社員が本業以外の活動を通じて新しい視点や気付きを得る機会を持ち、店頭づくりやブランディングなどを部署横断で考えている。こうした活動は、会社全体を俯瞰し、役職や部署を越えて協業しながら課題を解決する訓練にもなっている。
春木氏が重視するのは、「人財を育てる」のではなく、「人財が育つ環境」を整えることだ。
「人財育成の最大のポイントは、人財を育てるのではなく、人財が育つ環境をつくること。それが経営者のやるべき仕事です」
この考え方はM&Aにも貫かれている。同社は成長スピードを上げるためにM&Aも積極的に活用するが、その前提にあるのは、事業承継に困る企業の社員を受け入れ、理念とビジョンで束ねていく姿勢だ。M&A後は翌日から理念共有を始め、何度も足を運んで語り続けることで、異なる企業文化を持つ人財もグループの一員へと育てていく。
三春情報センターの経営人財育成を語る上で、春木氏自身の学び続ける姿勢も欠かせない。春木氏は社長就任以来、タナベコンサルティングの「社長教室」に継続して参加している。
社長教室を「新しい知識を取りに行く場」ではなく、「自分の進化度を確認する場」と捉えている点が印象的だ。内容の軸が大きく変わらなくても、その時々の経営環境や自社の状況によって刺さる論点は変わる。だからこそ、自社経営にどう生かすかという視点で参加し続けているのだという。学びを一過性の知識で終わらせず、経営の打ち手に落とし込もうとする姿勢がうかがえる。
また、経営戦略セミナーには社長だけでなく、役員やグループ会社の役員、次世代メンバーも参加している。同じ市場環境や経営課題を共有し、経営層と次世代が同じ言葉で未来を語れる状態をつくること。それもまた、同社の人財育成の土台となっている。
三春情報センターの100ビジョンは、拠点数や売り上げを追うだけの成長計画ではない。不動産を起点に暮らし全体へ価値を広げる事業戦略と、その実行を担う経営人財の育成を同時に進める構想である。
カリスマに依存するのではなく、理念と仕組みで人を育てる。全社員に未来を考えさせ、委員会で横のつながりを育み、ネクストブレインズで経営視点と事業構想力を鍛え、M&A先にまで同じ哲学を通していく。そこにあるのは、「1人の経営者が100歩進むより、100人の経営者が1歩ずつ進む方が速い」という発想だ。
100年先も選ばれる会社をつくるために必要なのは、事業の数以上に、次の意思決定を担う人の数である。三春情報センターの挑戦は、中堅企業における経営人財育成の先進事例の一つといえるだろう。
2013年、約100ページの事業発展計画書を策定。2030年像を「100ビジョン」として社員に共有し、理念から営業方針、行動指針まで言語化し実行に落とし込んだ
※「三春情報センターに学ぶ、経営人材育成の要諦と提言」はこちらからお読みいただけます。
(株)三春情報センター
- 所在地:神奈川県横浜市港南区日野8-8-11ミハルアート
- 創業:1977年
- 代表者:代表取締役 春木 磨碑露
- 売上高:124億円(連結、2026年3月期)
- 従業員数:627名(連結、2026年7月現在)