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経営メソッド 2026.08.26

「6次化スタイル」と次世代育成の同時進行で世界を目指す カミチク

鹿児島を本拠に「6次化スタイル」という独自のモデルで日本の農業をリードするカミチクグループ。1次(畜産・飼料製造)×2次(加工製造・卸売)×3次(小売・外食・通販)と循環型の一気通貫体制を構築した上村昌志代表は、次世代経営層の育成と事業承継の課題解決に取り組みながら海外展開へ熱い視線を送る。


カミチクグループでは餌づくりから繁殖(人工授精)、育成・肥育まで一貫体制で手掛けることにより、良質な肉牛を低コストで生産している

カミチクグループでは餌づくりから繁殖(人工授精)、育成・肥育まで一貫体制で手掛けることにより、良質な肉牛を低コストで生産している

 

 

父が夢見た「6次化」を創業から約20年で実現

カミチクグループの始まりは、1985年に上村昌志氏が26歳で創業した牛肉の加工卸売会社「有限会社上畜」(現株式会社カミチク)だ。同氏は畜産業を営んでいた父、藤市とういち氏のもとに3人兄弟の次男として生まれた。

 

藤市氏は畜産業を「人の命の源をつくるすごい仕事」だと自負する一方、自ら「値決め」ができずに儲からない経営環境を憂いていた。畜産業を“儲かる”事業にするため、3兄弟に役割を教えたという。それは、長男の一郎氏が鹿児島で牛を飼い、次男の昌志氏がその牛を加工し、三男の博之氏がその販路となる小売店や外食店を展開するというものだ。

 

父が描いた夢は、やがて1次産業の畜産業を継いだ一郎氏、2次産業の食肉の加工卸売業を興した昌志氏、3次産業の小売・外食産業へ進んだ博之氏によって現実のものとなった。

 

食肉の加工卸売からスタートした昌志氏は、兄弟と共に1次、2次、3次産業へと畜産ビジネスの領域を拡大。安全で栄養価が高い牛の飼料づくりから繁殖、肥育、酪農、食肉の加工、商品開発、小売・外食・通販、輸出に至る畜産の「垂直統合型ブランドモデル」を成功させた。2021年には養豚事業に参入し、豚の6次化スタイルにも取り組んでいる。

 

「生産から販売までカバーできる体制ができました。現在は牛の生産だけでなく、契約農家の協力を得て餌となる飼料を製造しています。それまで耕作放棄地だった土地が、農家にとって安定的な収入源に変わりました。また1992年からオリジナルブランド牛の生産を始め、お客さまのニーズに細かく対応しています。最上級のA5等級の和牛だけでなく、A4等級やA3等級も生産しています。加工・卸売においても一頭売りや半頭売りだけでなく、特定部位の販売も行っています。グループ会社を含めた小売店は21店舗、2006年に参入した外食産業は国内24店舗、海外3店舗まで拡大しました」(昌志氏)

 

カミチクグループは持ち株会社のカミチクファーム(1993年設立)を軸に、祖業にして中核子会社の「株式会社カミチク(以降、カミチク)」(上村昌平社長)など25社で構成され、昌志氏はグループ代表として全体に目を配る。海外展開も活発で、ベトナムには和牛を提供する飲食店を出店。積極的に外国籍人材も採用し、ベトナム人獣医師が活躍中だ。

 

「父が思い描いていた6次化スタイルを現実化しました」と昌志氏は語る一方で、「誰が、(カミチクグループの)どの会社の経営を担うのか」という事業承継が経営テーマになっている。

 

同氏が次世代の経営者について初めて打ち出したのは2022年、64歳の時だった。「一企業だけであれば、創業家で代々引き継ぐことは可能です。しかし、グループ全体(カミチクHDを除く)で24の関連会社に拡大した状況では、オーナー家だけで担うことは困難でした」(昌志氏)

 

6次化スタイルの展開によってグループ規模が拡大した現在、経営を率いる人材が必要だ。創業家だけでは担い切れないグループ企業の経営と、グループ全体の成長戦略の両輪が、カミチクにとっての事業承継の本質だと言える。

 

そして昌志氏は、長男である上村昌平氏をカミチクの代表取締役社長に登用し、グループ企業で積極的な若手役員の育成を進めている。

 

「発展途上の面もあるが、父が思い描いていた事業の6次化は実現した」と話す昌志氏は、思いを伝えることの大切さについても語る。特に心掛けていることは、従業員の話を「徳」をもって聴くことだ。カミチクグループのフィロソフィ(企業理念)を伝えることは組織の持続可能性につながる。昌志氏は最近、農場や工場、店舗の現場を回ると従業員から「カミチクイズム」の言葉が染み出してくることを実感していると話す。腹落ちした言葉は、社員の行動を変容させている。

 

一方、上村家はオーナー家である。後継者である長男の昌平氏に対しては、経営者として厳しい一面が不可欠だと話す。ワーク・ライフ・バランスが定着した現在、権利を主張する閾値いきちは低くなった。しかし、創業家の経営者として覚悟を持ち、従業員の背後にいる家族のことまで考える責任の重さが必要だと昌志氏は語る。


創業者・上村昌志氏の生き方や考え方をまとめた「カミチクグループ フィロソフィ」

創業者・上村昌志氏の生き方や考え方をまとめた「カミチクグループ フィロソフィ」

  

次世代経営層を育てる取り組みと成果

次世代の経営層を育成するため、カミチクグループではさまざまな施策を行っている。2020年ごろから、グループの使命感や企業理念を学ぶ「フィロソフィ研修」を関東や関西、鹿児島で継続するほか、2022年に後継者育成計画(サクセッションプラン)を策定し、翌年からジュニアボード(以降、JB)を導入した。

 

JBは、選抜した若手・中堅社員が6次化の視点でグループ全体を現状認識し、課題を討議して中期経営計画へ落とし込み、改善策や解決案を昌志氏に提言するプロジェクトだ。経営参画意識を醸成し、経営層の人材育成を図る狙いがある。昌志氏は若いメンバーたちに伴走しながらフィードバックを与え、グループの役員が全員参加する経営戦略会議で育成状況も共有し、役員同士で適材適所についてオープンに意見交換している。2025年度からは、後継者の昌平氏とJB修了者との「トップ会」を開催し、カミチクグループの経営課題や若い次世代リーダーの育成に主体的に取り組むことで経営チームとしての意識醸成を図っている。

 

こうした取り組みが実際に次世代の経営人材を育て、グループ内に具体的なシナジーを生み出している。例えば、2026年4月に設立した畜産製品のEC(電子商取引)会社「LRプラスK」の代表取締役会長に昌平氏が就任した。同社は、地方自治体のふるさと納税業務受託やEC事業を手掛ける「LR(エルアール)」(本社・鹿児島県日置市、末永祐馬社長)との合弁会社。昌平氏は、LRプラスKの社長に就いた末永氏が持つ知見を活用し、カミチクの通販事業を効率化させるなど具体的なシナジーが生まれているという。

 

また2026年3月には東京・品川区大井町に「ピチピチミートファーム」をオープン。九州産直市場の「お肉の直売所」と「山本のハンバーグ」が一体化した施設では、38歳の店長が新しい感性で集客を進めている。

 

養豚事業を手掛ける「クオリティファーム」では技術・知識・情熱にあふれる34歳の井上一成氏が2021年に養豚事業の6次化スタイルをスタートさせた。昌志氏は立ち上げ当初から井上氏をM&Aのプロセスや困難な交渉の場へ意図的に関与させ、経営者として育成してきた。現在は5つの農場を買収し、南九州で約1万4000頭を育てる規模に拡大した。

 

「人の成長と会社の成長は比例関係です。人が育てば、その分だけ会社も成長します。事業の本当の成功とは、その事業の成功で50点、後継者にバトンを渡せて100点です」(昌志氏)

 

今後のカミチクグループのビジネスモデルを受け継ぐ人材には、どのような視座、視野、視点が必要なのだろうか。昌志氏は次のように言う。

 

「生産から製造・加工・販売まで一気通貫で行うことができる6次化は、自社の商材をグループ内で売り切る最強のビジネスモデルです。一方、川上から川下の各工程でスペシャリストを育成し、知見の蓄積と深掘りが必要です。その上でスペシャリスト同士の強固な絆をつくることが不可欠。例えば、同じ部位の牛肉でも販売量や価格が上下する季節波動があります。冬に市場で高く売れる商材を、自社の小売店や外食店でどのように販売するのか。逆もまたしかりで、価格が下がる季節でも収益を確保できる販売チャネルはどこなのか。こうしたギャップ商材について最適解を蓄積したスペシャリストの絆によって、グループ横断的に商材、価格、季節、販売チャネルといった要素のベストマッチングが可能となります。お客さまには、鮮度の高い商品を適正価格で提供できます。大手量販店には困難な取り組みも、カミチクグループだからこそ可能なのです」


東京・大井町に開店した「ピチピチミートファーム」。熟練の“切り師”が切りたての肉を提供する

東京・大井町に開店した「ピチピチミートファーム」。熟練の“切り師”が切りたての肉を提供する

  

鹿児島発の「事業の6次化」を世界へ

専門性と総合性に優れた6次化スタイルで「世界のカミチクグループを目指す」と語る昌志氏。カミチクグループのビジネスモデルは日本を飛び越え、グローバルマーケットへと事業領域を広げようとしている。2026年7月現在、インドネシア、ネパール、ミャンマー、ベトナムなど各国から来日した計120名(特定技能84名、技能実習生36名)がカミチクグループで働いている。こうした外国人従業員に対して、同社は日本の文化だけでなく、生産・加工・販売の技術を教えている。目指すは、彼らの母国での6次化スタイルの展開だ。

 

一方、国内に目を転じると、加速する高齢化によって消費者の嗜好しこうの変化が起こっている。健康志向のシニア層は高級食材の代表格である霜降り肉よりも赤身肉にシフトしている。脂質よりもタンパク質が注目されているのがその理由である。こうした国内市場の変化に対する打ち手が必要だ。

 

「カミチクグループの原点に立ち返り、みんなが使命感を持ち同じ方向に向かって進んでいきたい」と語る昌志氏。父が描いていた畜産ビジネスの6次化が現実化した今、次に目指すステージは思いを受け継ぐ若き経営陣による「カミチクイズム」の展開だ。


カミチクグループ 代表 上村 昌志氏

カミチクグループ 代表 上村 昌志氏


「後継者育成を次の経営体制づくりとして構想する」はこちらからお読みいただけます。


 

(株)カミチクホールディングス

  • 所在地:鹿児島県鹿児島市谷山中央1-54-1
  • 設立:1985年 ※現(株)カミチクの設立年
  • 代表者:代表取締役社長 上村 昌志
  • 売上高:621億円(2025年12月期)※グループ全体
    <構成比> 第1次産業:18.9% 第2次産業:50.1% 第3次産業:31.0%
  • 従業員数:1600名(2026年1月現在)※グループ全体