その他 2025.05.30

中堅・中小企業は「新商品・新事業開発」を重視 「2025年度 企業経営に関するアンケート」リポート

タナベコンサルティングは、経営者・経営幹部および全国の企業経営者、役員、経営幹部、経営企画部責任者・担当者などを対象に実施したアンケート調査の回答を基に、2025年3月、「2025年度 企業経営に関するアンケート」リポートをまとめた。本稿では調査結果の一部を抜粋して紹介する。

2024年度・2025年度の業績見通しについて、大企業においては、増収増益の割合が41.9%から52.4%に増加し、顕著な成長が期待されている。中堅企業も増収増益の割合が増え、減収減益の割合が減る傾向が見られる。中小企業でも同様に、増収増益の割合が2024年度の36.0%から2025年度には41.4%に増加し、減収減益の割合は17.1%から5.6%に大幅に減少している。

世界経済はインフレが落ち着き、低速ながらも安定した成長が見込まれる一方、日本経済は賃上げやインバウンドの増加が内需を下支えし、実質成長率が回復する見通しだ。特に大企業は、グローバルな経済環境の変化に迅速に対応できるため、成長の恩恵を受けやすいと考えられる。

一方で、2025年度の「不明」の割合が全ての企業規模で増加しており、依然として不確実性が残ることが示唆される。特に、米国の政治情勢や中国経済の動向が不透明で、企業はリスク管理を強化し、柔軟な経営戦略を構築すべきだ。

2025年度以降の中長期的な戦略において、企業規模別に重点テーマを分析すると、「収益改善」が全ての企業規模で最も多く、大企業で58.1%、中堅企業で54.9%、中小企業で55.9%と共通の課題であることが分かった。企業の成長や持続可能性を確保するために、企業規模にかかわらず収益構造の見直しや効率化を進める必要性が高まっていることを示している。(【図表】)

【図表】企業規模別の中長期的な戦略における重点テーマ

出所 : タナベコンサルティング戦略総合研究所作成
一方で、「新商品・新事業開発」は中堅企業と中小企業で40%以上の割合を示しているが、大企業では35.5%とやや低い結果だった。企業規模が大きくなるほど、既存事業の強化や事業ポートフォリオの最適化にシフトする傾向を示唆している。また「グローバル戦略策定」は差が顕著で、大企業が他を大きく上回っている。

さらに、「後継経営体制構築」や「コーポレートガバナンス・コード対応」では、大企業と中堅企業が中小企業を上回る結果となった。特に「コーポレートガバナンス・コード対応」は大企業が21.8%と突出しており、持続的成長と中長期的な企業価値の向上を実現するための自律的な取り組みを重視していることが分かる。

企業規模ごとに直面する課題や成長戦略に違いが見られるものの、収益改善や新規事業開発は全ての企業に共通する課題である。その中でも、大企業はグローバル展開や持続的成長、中長期的な企業価値の向上を意識していることが見て取れる。

長期ビジョン・中期経営計画の推進における重要テーマを企業規模別に分析すると、中小企業では「ビジョンの全社浸透」(42.5%)が最も高く、次いで「ビジョン・計画の実現性の検証」(37.3%)が続く。中堅企業では「ビジョンの全社浸透」(58.5%)が突出しており、大企業でも同様の傾向が見られる(49.2%)。これらの結果から、企業規模にかかわらず、ビジョンの全社的な浸透が重要視されていることが分かる。

特に「ビジョンの全社浸透」において、中堅企業が大企業よりも高い割合を示していることは興味深い。これは、中堅企業が成長過程においてビジョンの共有を強化し、組織全体の一体感を高める必要性を強く感じていることを示唆している。

また、「推進リーダー・メンバーの明確化」は中小企業(28.5%)と中堅企業(29.1%)で高く、大企業(18.5%)は低い。これは、規模の小さい企業ほど組織内の役割分担を明確にする必要性が高いことを示している。大企業では、既に役割が明確化されているか、または柔軟な組織体制を持っている可能性がある。

これらの傾向から、企業規模によって異なる課題が浮き彫りになっている。中堅企業は、ビジョンの全社浸透を重視する一方で、成長に伴う組織の複雑化に対応するための体制整備が課題となる可能性がある。また、大企業はリソースの最適化に注力し、中小企業は組織内の役割の明確化を重視する必要がある。

こうした調査結果を踏まえた上で、次の5つの戦略を提言したい。

❶ ビジョンの全社浸透で成長を実現する
企業規模を問わず、企業ビジョンの浸透は重要な課題である。特に、ビジョンの共有強化による組織の一体感の醸成を急務としている企業は、明確なビジョンを策定し、全社員への浸透を図るための戦略的なコミュニケーションを強化する必要がある。

❷ 人的資本の強化で組織の競争力を高める
人的資本の質的向上と量的確保は、企業の競争力の源泉である。限られた経営資源を最大限に活用するためには、組織の最適化が不可欠だ。企業は、体系的な人材育成プログラムを充実させ、社員の継続的なスキルアップを図りたい。

❸ 収益構造の見直しで利益率向上を目指す
収益改善は、企業規模を問わず、最重要な経営課題として認識されている。特に、抜本的なコスト構造の見直しと業務効率化の推進が喫緊の課題であり、短期的な収益性の向上が企業の持続的成長の鍵となる。

❹ 新規事業開発で未来の成長を切り開く
新規事業開発においては、新たな市場機会の探索が重要な課題である。企業は、既存事業の競争力を強化しつつ、将来の収益基盤となる新規事業の確立が求められる。効果的な市場調査と顧客インサイトの分析に基づき、革新的な商品・サービスの開発を戦略的に推進する必要があり、オープンイノベーションの活用や異業種を含む外部パートナーとの積極的な協業を通じて、新たなビジネスモデルの創出を図ることが重要だ。

❺DXで競争優位性を確保する
デジタル技術の戦略的活用は、業務効率化と競争優位性の確保において不可欠な要素だ。特に、データドリブン経営の基盤構築が、現代の企業経営における重要課題として位置付けられている。高度なデータ分析・活用体制を確立し、数値という根拠に基づく意思決定を支援する分析基盤の整備を推進することで、経営判断の精度向上と意思決定プロセスを迅速化させたい。

※1 従業員規模が2001人以上の企業を「大企業」、100人超~2000人以下の企業を「中堅企業」、100人以下の企業を「中小企業」として分類
※2 各図表の構成比(%)は小数点以下第2位を四捨五入しているため、合計しても100%にならない場合がある

【調査概要】

  • 調査名称:2025年度 企業経営に関するアンケート
  • 調査主体:株式会社タナベコンサルティング
  • 調査手法:インターネットによる回答
  • 調査目的:「企業経営」の実態を把握し、今後の企業の成長発展に向けた取り組みを提言するため
  • 調査エリア:全国
  • 有効回答数:2021件