ミッションに基づき事業領域を拡大
名刺管理サービス「Sansan」を主力とし、営業DX、インボイス管理、契約データベースなど、企業の業務効率化に貢献するクラウドサービスを提供するSansan。2024年5月期(連結)の売上高が前年同期比32.8%増の338億7800万円、調整後営業利益は同81.5%増の17億900万円と堅調に成長を続け、国内SaaS企業としてトップクラスの存在である。
「Sansan」は、法人向け名刺管理サービス市場で84%のシェアを誇り、国内シェアナンバーワンを12年連続で獲得※。利用企業数は1万社を突破し、業界・業種を問わず、中小規模から数万人規模の大企業まで、幅広く利用されている。
同社は創業以来、「出会いからイノベーションを生み出す」というミッションを掲げ、企業やビジネスパーソンが抱えるさまざまな課題を解決する革新的なテクノロジーやオペレーションを確立してきた。創業事業である名刺管理サービスにとどまらず、新たなサービス創出による事業領域の拡大、サービスの多角化により、発展を続けている。
同社の歴史は、代表取締役社長/CEO/CPOの寺田親弘氏が、2007年に三三(現Sansan)を設立し、法人向け名刺管理サービス「Sansan」を立ち上げたことに始まる。名刺交換というビジネスパーソンの日常的な行為に着目し、その非効率性を解消すべく、国内でいち早く名刺管理ソフトの提供を開始したのである。
「Sansan」の強みは、名刺や企業情報、営業履歴といった接点情報を社内で一元管理することができる点にある。これにより、社内の誰が顧客とつながりを持っているのかという人脈を可視化し、売り上げ拡大とコスト削減を同時に実現することで収益の最大化を図ることが可能となった。
「Sansan」で得た顧客基盤と技術力を生かし、同社は2012年に個人向けの名刺アプリ「Eight」をリリース。企業と個人の双方からビジネスネットワークの構築・活用を支援する独自のポジションを確立した。
また、2019年5月期までに累計100億円以上の資金調達を実施。SaaS業界では他社に先駆けてテレビCMを中心とした広告宣伝活動でユーザー基盤を拡大した。第1弾として2013年に放映したテレビCMは国内の注目を集め、同社とサービスの認知度向上に大きく貢献した。
同社は2019年6月に東証マザーズ市場に上場。2020年にインボイス管理サービス「Bill One」、2022年に契約データベース「Contract One」の提供を開始し、企業間取引のデジタル化を包括的に支援するマルチプロダクト戦略を推進している。
企業の在り方やビジネスパーソンの働き方が大きく変容したコロナ禍を経て、創業17年目となる2024年5月期以降は新たなフェーズに入った。2024年9月には本社を東京・渋谷サクラステージへ移転。点在していた複数の拠点を集約することで、グループの強みを結集して事業成長を再加速している。「Bill One」は請求書の「受領」「発行」に加え、法人カード「Bill Oneビジネスカード」を軸にした「経費精算」の3本柱で、月次決算を加速させるサービスへと昇華させ、さらなる事業成長を目指している。
同社は、社会課題や外部環境を見据えて重要課題に向き合い、ビジネスモデルに経営資本を投入することで、さまざまなサービスを創出。その成果が経営資本の強化につながり、社会に対する持続的な価値提供を可能にする善循環のビジネスモデルを構築している。
新たなビジネスインフラの創造を目指す
同社の主要サービス「Sansan」「Eight」「Bill One」「Contract One」は、働き方を変えるDXサービスとして、企業や個人のビジネス上の課題を解決し、業務効率化や生産性の向上に寄与する(【図表】)。営業・経理・法務と、それぞれ領域は異なるが、各サービスが関わる業務は、人や企業との出会いやつながりに関連しているという特徴がある。
【図表】Sansanの事業領域
出所 : Sansan「統合報告書2024」よりタナベコンサルティング戦略総合研究所作成
また、「アナログ情報のデジタル化」に着目していることも共通点だ。日本のビジネスシーンや業務フローには、アナログであることに起因する課題が山積しており、デジタル化の遅れがもたらす生産性の低さは社会課題にもなっている。今後も社会全体でのDX進展が予想され、同社のビジネスモデルには高い持続可能性があるといえる。アナログ情報のデジタル化は、テクノロジーだけではなく、人の力を組み合わせた独自の手法によって実現しており、この独自の技術・サービスに対する安全性・信用度は、各サービス共通の重要な事業基盤となっている。
2024年5月期の決算発表時、同社は2025年5月期から2027年5月期にかけての3年間の中期財務方針も公表。事業規模が大きくなり、土台が整ったことから、堅調な売上高成長のみならず、利益成長の加速も目指していくという。具体的には、2027年5月期までの売上高CAGR(年平均成長率)を22〜27%、2027年5月期における調整後営業利益率18~23%を目指す。
同社では、事業ごとに適切な業績評価指標を設定した上で、戦略を実行している。Sansan/Bill One事業では、それぞれの広大な潜在市場規模に鑑みて、売上高の最大化を最重要指標としながら、同時に調整後営業利益の成長スピードの向上に取り組む。Eight事業では、より収益性を重視した事業運営を行い、効率的に売上高を伸ばしながら、着実に調整後営業利益の成長を目指す。
これらの戦略を進めていくために全社で取り組むべき施策として、優秀な人材の採用・育成と多様性の確保を重視。また、セキュリティーリスクへの対応や技術力の強化も積極的に推進している。そのほか、アナログ情報をデジタル化する技術など、培ってきた競争優位性を軸とした新規サービスの創出や、既存事業におけるキャッシュの創出力を背景としたM&Aの積極的な活用によって、今後も革新的な成長の実現に取り組んでいく。
同社の最終的な目標は、自社サービスが広く社会認知され、「ビジネスインフラ」として不可欠な存在になることである。世界を変える新たな価値を生み出すイノベーションを起こし続けてきたSansanの経営戦略は、中堅企業成長のロールモデルとして注目に値するだろう。
※ シード・プランニング「営業支援DXにおける名刺管理サービスの最新動向2025」(2025年1月)
Sansan(株)
- 所在地 : 東京都渋谷区桜丘町1-1 渋谷サクラステージ28F
- 設立 : 2007年
- 代表者 : 代表取締役社長/CEO/CPO 寺田 親弘
- 売上高 : 338億7800万円(連結、2024年5月期)
- 従業員数 : 1899名(連結、2024年5月現在)