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モデル企業
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【企業事例】優れた経営戦略を実践する企業の成功ストーリーを紹介します。
モデル企業 2025.04.30

「想い」と「戦略」が、収益と未来をつくる力を育む 琉球光和


1963年の創業以来、「沖縄の医療環境を世界一にする」というビジョンのもと、全社員が一丸となって挑戦を続けるユニークな採用活動から始まる経営者人材の育成とは。

 

経営理念と人材採用・育成は切り離せない

タナベコンサルティング・比嘉(以降、比嘉) 琉球光和は、医療従事者や患者に最先端・高品質な医療機器・医療消耗品を提供する専門商社です。

琉球光和・秦氏(以降、秦) 当社は1963年、父が医療機器の卸売業として創業しました。2002年に私が社長になって経営理念であるMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を全社で策定し、医療と健康に携わる企業として3つの「支える事業軸」を確立してきました。

Mission(ミッション)
医療を⽀え、健康を⽀える
Vision(ビジョン)
沖縄の医療環境を世界⼀にする
Value(バリュー)
医療⼈が、安⼼して医療に専念できる環境を永続的に提供する

「医療人を支える」「医療施設を支える」「患者・社会を支える」という3層構造の事業展開を通じて、沖縄県内の2000を超える医療・介護施設をトータルサポートしています。

1層目は「医療人を支える」です。医療人が元気に活躍できるように、医療技術・医業経営に関するセミナーを開催し、知識向上や資格取得をサポートしています。また、医業経営に携わる医療人の将来設計である開業・相続・承継を支援しています。県内医療情報の月刊紙も発行しています。

2層目の「医療施設を支える」は、ハード面では、最先端の医療機器の導入やメンテナンス、ソフト面では、経営コンサルティングや院内医療材料の物流サービスで医療施設運営を多面的に支援しています。

3層目の「患者・社会を支える」は、介護用品のレンタル・販売や装具販売、住宅改修、調剤薬局の運営など、患者さまの医療必要度に応じたサービスを提供しています。

比嘉 社長就任時に40名だった社員は200名に増えました。「自社の社員が健康であることが大事」という考えのもと、厚生労働大臣「えるぼし」(認定段階2)企業、経済産業省主催の「健康経営優良法人」に認定されています。また、人材育成にも力を注ぎ、沖縄県主催の社員の人材育成に取り組む企業を支援し、雇用環境の向上を目指す「沖縄県人材育成企業」にも認証されています。

秦 経営理念と採用や人材育成は切り離せないものだと思っています。社長になった時、全国規模の商社が沖縄に進出した影響で、利益率は下がり、キャッシュフローも厳しい状況でしたが、危機感だけでなく希望もありました。明るくて勤勉、チームワークがとても良い社員がそろい、医療に対する使命感も高く、顧客との信頼関係を築いていました。

また、沖縄の医療は観光業に負けないポテンシャルがあり、世界一を狙えるポジションにいます。まず、「沖縄の医療環境を世界一にする」という“想い”を経営理念に定め、次に役割分担として、各部門が何にどう貢献し収益を上げるのか、日々の行動を変えるために部門ごとの経営理念もみんなで議論して定めました。

さらに、想いを達成する道筋となるのが、事業戦略の構築です。例えば、手術中に医療機器が壊れたら病院へ駆け付けて修理するスキル集団だった技術部門は、「医療を止めない、止めさせない」をミッションに、「日本一止まらない医療を目指す」をビジョンに定めました。結果として、患者さんを待たせて売り上げを生む修理対応から、事前の測定や消耗品交換で患者さんを待たせず、手術を止めない定期保守へと戦略をシフトしました。

比嘉 想いは方向性や夢、戦略は収益を上げる事業モデル。その2つを合わせて経営理念なのですね。

秦 勤務医を辞めて開業する医師の人生を支えるために、開業前の将来設計や開業後の経営相談、医療情報の提供、家族経営が多い中小病院の次世代教育を担う医療家系サポートコンサルティングなど、新規事業も始動しました。

「医療人が安心して医療に専念できる環境と、医療を安定させる未来を一緒につくりましょう」。そう病院に提案して想いを共有しない限り、自社には収益も未来もない。そのことを物語るのが経営理念だと社員が腹落ちすることで、人も事業も育つようになりました。

全員参加の採用活動で経営者感覚を醸成

比嘉 琉球光和は、沖縄県内の就職人気企業ランキングで毎年トップテン入りしています。採用活動に積極的で、選考がユニークなのも特長です。

秦 2011年から、就活中の学生を対象にチーム戦の体験型謎解きゲームの採用イベントを実施しています。チームによる協力や新しいことにチャレンジする姿勢を通して、「一緒に働きたい人を見つける」ために社員が独自に考案しました。

一般的な人材採用・育成は、最初に認知度を拡大し、途中から選考して最後に教育する流れですが、当社は採用選考から入社後まで、全てのシーンで「Who am I ?(琉球光和はどのような会社か?)」という考え方や、子どもが楽しく遊ぶ仲間を誘う時のような「この指、止まれ」のイメージを大切にしています。採用イベントにおいても、ゲーム終了後には、社員が「Who am I?」への答えを併せ持つ経営理念を、アイデンティティーとして語ってもらっています。

比嘉 風通しの良さや社会貢献度を伝えることが重要とされる採用アプローチにおいて、あえて直球勝負で経営理念をぶつけるわけですね。

秦 採用活動は、最大で最長の経営活動だと思っています。新入社員を1人雇うには生涯賃金で数億円が必要ですし、しかも毎年続く最大の投資案件、最長のリピート案件です。人事部門だけでなく、全社員が参加すべき重要な経営活動なのです。

想いと収益を得る戦略を一致させるのは、実はとても難しいことです。語れば語るほど理想と現実のギャップに悩みますが、そのモヤモヤ感がビジネスを見つめ直し、新たな挑戦を生み出す原動力になります。

比嘉 全員参加の採用活動を通して、社員一人一人の感覚が経営者に近付くわけですね。

秦 「経営者の悩みは経営者にしか分からない」と言われますが、疑似的であっても社員が経営者になり、理想と現実のギャップを共有してくれることはとても重要です。ギャップがあって、「まだまだだね」というのが当たり前で、だからこそ「これから何とかしていこう」とポジティブに挑戦すれば良いわけです。経営はその繰り返しですし、当社は採用活動を通し全社横断的に「Who am I?」を探求する企業文化が根付いています。特に、新入社員には新人卒業式を開催し、1年間の仕事を通して分かった「Who am I?」の答えや自分の使命を発表する「語りの場」を設けています。

比嘉 企業の想い・戦略と、社員の生き方・楽しさとの間にギャップが生まれる時、どのようにそれらをつなげていますか。

秦 つなげるという概念がありません。パフォーマンスの高い人ではなく、当社の経営理念と合致する人を見極めて採用していますから。医療の専門性など入社後に教育できることは、採用時にはゼロでも構わないですし、広く受け入れています。

自然とつながるような採用活動が重要で、それは経験者採用でも同じです。教育プログラムも、新卒・経験者を問わず一体的な運用の社内大学へと刷新を進めています。

「Who am I?」と「この指、止まれ」が絶対条件

比嘉 採用活動時から経営者人材への道が始まるわけですが、経営者人材に求める条件は何でしょうか。

秦 営業成績が優秀、財務知識が豊富、さまざまな評価軸などあると思いますが、やはり当社は想いと戦略で「Who am I?」をしっかり語り、「この指、止まれ」と人を引き寄せられることが経営者人材の絶対条件です。「人を集めてきてくれたら、仕事はうまくまとめます」という姿勢では、未来につながる経営は難しいでしょう。

比嘉 経営者人材の育成は、一般職から主任、係長を経て課長クラスになるステージから、戦略やマネジメント、PL(損益計算書)・BS(貸借対照表)、経営分析などの管理者養成研修を始めるというスタンスの企業が一般的です。

秦 業績優秀者や有望な若手社員から選考する育成ステップが多いでしょう。でも当社は、最初に採用活動があります。絞り込むことも重要ですが、できることならまず、「絞る前に増やす」。つまり、共感が先にあり、その人が次の「この指、止まれ」となる。その指を増やすことを重視しています。

先輩社員の語りに憧れて入社する人はいずれ、語る側になります。当社の新入社員は、入社直後から「採用活動に関わりたい」と言ってくれています。想いと戦略を誰かに語ることは、「こういうことをやってみよう!」と覚醒するきっかけにもなるのです。

当社は、「人口の減少で働く人が減り続ける時代に、医療を必要とする人が増える」というギャップの解消を、戦略策定の最重要項目に位置付けています。近年は、1つの病院で最適化は難しいことも、複数の病院と共働での最適化を図ろうと、当社がアウトソースとして受託する新サービスの立ち上げに力を入れています。

3つの事業軸を3層の枠組みで捉え、土台となる1層目に「医療人を支える」を位置付けることで、おのずと2層目の「医療施設」、3層目の「患者・社会」を支える新サービスが、これからも次々と生まれ育っていきます。

比嘉 想いや戦略を教育して、入社時から経営者人材に育てていくのが琉球光和の強みです。経営会議にも若手社員が参加し、数字やPLを把握しているなど、経営の仕組みをよく分かっていて驚きました。合同企業説明会でも、新入社員が経営理念を語り伝える姿は、他社にはない光景でした。学生にとっても、自分の成長イメージが大きく変わってきますし、夢を持って入社することで、着実に経営者人材へと育っていくと思います。



琉球光和 代表取締役社長 秦 一(はた はじめ)氏
1968年沖縄県⽣まれ。1993年ソニー⼊社。世界初のデジタルビデオカメラを開発し、同社初の家電インターネット事業の立ち上げに携わる。2002年に創業者の父から経営のバトンを受け継ぎ、合資会社琉球光和から株式会社琉球光和に社名を変更するとともに、代表取締役社長に就任。

(株)琉球光和

  • 所在地 : 沖縄県那覇市西1-2-16 琉球光和ビル
  • 設立 : 1963年
  • 代表者 : 代表取締役社長 秦 一
  • 売上高 : 100億円(2024年6月期)
  • 従業員数:234名(2024年7月現在)

 

 

PROFILE
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⽐嘉 純弥
MASAMI HIGA
タナベコンサルティング
エグゼクティブパートナー
ホテル業界、医療(総合病院)業界で総務・⼈事担当を経てタナベコンサルティング⼊社。クライアントのベストパートナーとして、中堅・中⼩企業の戦略策定から営業マネジメント、業績先⾏管理、⼈事制度、教育体系づくりまで、幅広い分野で多くの実績を残している。特に、企業規模に合わせた事業戦略・経営マネジメントシステム・ヒューマンリソースマネジメントを融合させたコンサルティング展開を得意とし、クライアントから⾼い評価を得ている。