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モデル企業
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【企業事例】優れた経営戦略を実践する企業の成功ストーリーを紹介します。
モデル企業 2025.04.30

若い力が発揮されるための仕組みづくり 大石膏盛堂


医薬品メーカーの大石膏盛堂は、2019年に売上高100億円を突破し、2024年には112億7000万円を達成するなど順調に成長している。経営視点で全社最適を考える若手社員が増えた階層別教育やジュニアボードに迫る。

 

貼り薬でナンバーワンのOEMメーカー

タナベコンサルティング・古田(以降、古田) まずは大石膏盛堂の事業概要について教えていただけますか。

大石膏盛堂・伊藤氏(以降、伊藤) 当社の創業は1907年。2025年で118周年を迎えます。現在は貼り薬を中心とした医薬品や化粧品などの製造・販売を手掛けており、2025年6月には介護事業もスタートします。佐賀県には本社・製剤開発センター・工場を、大阪と東京には営業拠点を構えています。また、長野県には東日本の物流倉庫を持っています。

販売は全国の製薬会社およびドラッグストアにお任せし、当社は製造に専念しています。海外に向けては伊藤忠ケミカルフロンティアなどと提携し、米国・欧州で当社製品を展開。各エリアで特許を取得しています。また、国内では市販薬のOEM生産も請け負っています。

前期(2024年8月期)の売上高は112億7000万円。今期の目標は、前倒しで達成できる見込みです。

古田 ありがとうございます。次に、伊藤社長のプロフィールを紹介いただけますか。

伊藤 私は福岡県出身で、現在52歳です。薬剤師として約4年間、ドラッグストアに勤務し、調剤とドラッグの店舗で業務経験を積んだ後、1999年に大石膏盛堂へ入社。以来、26年間にわたって、製造、生産管理、購買、営業、品質管理の各部署で業務改善に取り組んできました。

高品質な製品を安定供給できる仕組みづくりやコストダウンを通じて業績を向上させ、米国のFDA(食品医薬品局)からの製造承認取得(2018年)にも貢献。2021年9月より代表取締役を務めています。

人材育成の第一歩はパーパスの浸透

古田 2024年には新たなパーパスを策定されました。

伊藤 はい。その最大の目的は「インナーブランディング」にあります。

当社には、入社数年後の社員がエルダーとして新入社員に伴走し、不安の解消や職場への定着を図る制度があるのですが、新入社員とエルダーがやり取りする中で「大石膏盛堂の知名度をもっと上げたい」という声が挙がっていました。しかし、当社はOEM生産を得意とする「裏方的な存在」で、社名を前面に押し出すことは難しい。そこで、九州の企業として影響力を高め、世界に羽ばたいていこうという思いを込めて、「九州からActive Lifeのために、ちょっとイイものを世界へ」というパーパスを掲げたのです。

古田 企業理念とも深く響き合うパーパスです。

伊藤 はい。「信頼できる医薬品を通じて、健康づくりに貢献することによって社会的価値を創り続ける」という企業理念の一節を踏まえて、生き生きとした生活をサポートしたいという思いを「Active Life」という言葉で表現しました。「ちょっとイイもの」というフレーズは、時代に即した付加価値を生み続けてきた当社の歴史を表しています。パーパスを明確に打ち出したことにより、海外売上比率は15%まで向上しています。

古田 パーパス浸透のために工夫されていることはありますか。

伊藤 2024年、工場内の見学通路をリニューアルし、壁面に当社の創業から100年の歩み、製品の変遷、海外での広がりなどについてまとめたパネル展示を設置しました。

このパネルは経営企画部と管理部門にいる20~30歳代の若手女性社員が中心となって作り込んでくれました。自社の歴史を楽しみながら調べていくうちに、彼女たちのエンゲージメントも高まったと聞きます。自分で取り組んだことは、自信を持って外にも伝えられます。これが成長のポイントになっているようです。このようにして社員を巻き込むと、非常に良い成果につながるのだと実感しました。

現在、このパネル展示を通して社員の皆さまにも会社の思いを伝えているところです。2025年8月までに全社員の7割にパネル展示を見てもらい、9月からの新しい期を迎えたいと思っています。

古田 ここからは、国内トップのOEMメーカーに成長されている大石膏盛堂の「経営者人材の育成」に焦点を絞って、話を伺いたいと思います。早速ですが、これまでの主な取り組みを教えていただけますか。

伊藤 当社では、内外の研修をバランスよく活用しながら人材教育に取り組んでいます。

外部研修としては、タナベコンサルティングとともに取り組んでいる「ジュニアボード」が5期目に入りました。それに加えて「チームリーダースクール」「幹部候補生スクール」「戦略リーダースクール」などの各種セミナーを社員が受講しています。

内部研修としては、入社2〜5年目の社員を対象に「エルダー教育」を実施しています。当初は入社6年目以上の中堅社員をエルダーとして位置付けていたのですが、新入社員とのギャップが大きかったため、現在はより近い立場の社員にメンタル面も含めたサポートをお願いしています。また、マネジャークラスの管理職と中堅社員が一緒に活動する「チャレンジアップ」という業務改善を月2回開講しています。

古田 研修のみならず、「スタンダードブック」の作成や「経営を考える会」の開催など、多様な取り組みも重ねてこられました。

伊藤 スタンダードブックとは会社の考え方や仕組みを紹介する冊子で、何かあったらすぐ見てもらえるよう全社員に配布しています。なお、今期からは、毎年、最新の内容に更新する予定です。「経営を考える会」は、執行役員以上を対象に月2回開催。毎月のモチベーション調査で社員が記入したコメントへの対応策を考えてもらい、PDCAを回しています。

全員が経営に関わる企業風土を

古田 最近、人事制度を更新されたそうですね。

伊藤 はい。マネジャー、エキスパート、アソシエイトエキスパート、スタッフの4階層からなるジョブ型制度に刷新し、階層内の昇格は本人のみに伝える方式に変更しました。エキスパートは、専門性の高い業務に集中できるよう新たにつくった役職で、マネジメント業務を最小限に抑えています。

古田 経営者が独りで会社の課題を抱え込まず、思いや考えを全社に共有していくには、全社員が経営に関わる風土づくりが大切です。大石膏盛堂では、ジュニアボードを「研修」ではなく「制度」と位置付け、社員を経営に巻き込みながら経営者人材を育てているところが素晴らしいと思います。将来の経営を担う社員にはどのようなことを求めていますか。

伊藤 まずは会社の数字をしっかりと理解し、その上で「全社最適」の視点を持つことが重要だと思います。また、経営幹部に対しては「共感と受容のある組織づくり」を期待しています。管理職がコミュニケーション力を高めて横断的に連携し、部署を超えて組織全体のことを考えられるようになると、非常に良い経営が実現できるのではないでしょうか。

ジュニアボードを継続するうちに「自分たちがどうにかしていかなければならない」という意識が芽生えてきているようです。この後、6期目、7期目と続ける中で、まいた種がどのように花開いていくかワクワクしているところです。

古田 「知・先・行」で会社全体を俯瞰ふかんすることにより、やらされ感や不満が解消され、現状を客観的に認識できるようになります。これは、エンゲージメントにも大きく影響するのではないでしょうか。

伊藤 そうですね。若手社員にもPL(損益計算書)、BS(貸借対照表)、CF(キャッシュフロー計算書)などの数字を共有したことで、当社の経営の強さをあらためて実感してくれているように思います。

古田 経営者人材に求められる要素としては、投資判断力も重要ですね。

伊藤 おっしゃる通りです。当社では役員会の前に経営戦略会議を行い、新規事業や投資案件について検討しています。投資判断力は一朝一夕にして養われるようなものではないため、どのように教育していくべきかは悩みどころですが、判断を下す場面に何らかの形で関わる中で磨かれていくこともあるのではないかと思っています。実際、経営層の間では「限界利益を上げるためにはどうすれば良いか」という視点が定着しつつあります。

古田 経営者人材育成の施策として、ジュニアホードは社内の活性化にどのくらい寄与していますか。

伊藤 活性化には確かにつながっていると思います。その半面、会社の思いをしっかりと理解してもらうという点においては、正直なところ、まだ難しさを感じています。どんなに仕事ができて知識が豊富でも、理念が浸透できていなければ不満が募ってしまいます。また、もっと活躍したいという気持ちに会社として応えていく環境づくりも必要です。今後、社員の皆さまと語り合う機会をさらに増やしていきたいと思っています。

古田 最後に、あらためて経営者人材育成にかける思いをお聞かせください。

伊藤 役員にすることだけが経営者育成とは限りません。経営視点を持つ社員を社内に1人でも増やしていくこと。それが最も重要です。何かやりたいことがあれば、部署内でじっくりと検討した後、企画書を戦略会議に提案し、ぜひ実現してほしいと伝えています。今は、少しずつ変革の動きが出始めている段階で、今後の動向が楽しみです。

大石膏盛堂 代表取締役社長 伊藤 健一(いとう けんいち)氏

1995年サンキュードラッグに新卒入社し、調剤やドラッグストア販売業務に従事。1999年に大石膏盛堂に入社後、製造、生産管理、購買、営業、品質管理など各部署で業務改善、業績向上に取り組み、品質と安定供給の仕組みづくりとコストダウンに貢献してきた。また米国FDAの監査では工場全般の説明を行い、承認取得に貢献している。

(株)大石膏盛堂

  • 所在地 : 佐賀県鳥栖市本町1-933
  • 創業 : 1907年
  • 代表者 : 代表取締役社長 伊藤 健一
  • 売上高 : 112億7000万円(2024年8月期)
  • 従業員数 : 305名(2024年1月現在)

 

PROFILE
著者画像
古田 勝久
KATHUHISA FURUTA
タナベコンサルティング
エグゼクティブパートナー

自動車部品メーカー、食品メーカーの人事部門にて採用・人材育成・人事労務業務を経て、当社へ入社。現場で培ったノウハウを基に、戦略的な人事・組織の実現に向けて経営的視点からアプローチし、上場企業・中堅企業の成長を数多く支援している。