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【企業事例】優れた経営戦略を実践する企業の成功ストーリーを紹介します。
モデル企業 2025.04.30

非同族承継に向けた経営者人材育成 エミヤホールディングス


非同族承継に向けた経営者人材育成 エミヤホールディングス

「永続発展の基盤確立と快適な環境づくりの地域No.1パートナー」を目指すエミヤグループの次世代の経営者人材育成に向けた取り組みに迫る。

 

創業100年が目前のスマイルカンパニー

 

タナベコンサルティング・堀部(以降、堀部) エミヤホールディングス(以降、エミヤHD)は傘下に6社の事業会社を持ち、北海道を事業エリアにして電気設備資材の卸売、電気工事、住宅リフォーム事業と介護事業を展開。エミヤグループの売上高は126億円、社員数は181名(いずれも連結、2024年3月期)です。まず、事業の歩みをお聞かせください。

エミヤHD・三神氏(以降、三神) 北海道に移住した祖父の三神まことは、1926年にエミヤ菓子店を創業し、和菓子の製造販売を始めましたが、第二次世界大戦で菓子の材料が供給不安定になったことから1945年に休業。電設資材の卸売へ業態変更し、1947年にエミヤ商会として法人登記しました。創業から99年、電設資材の卸売に参入して79年を数える老舗です。

ちなみに「エミヤ」という社名は「商人は常に微笑をたたえていなくてはならぬ」という創業者の考えを表したもので、漢字を当てるなら「笑み屋」、英語で言うなら「スマイルカンパニー」になります。

私は大学卒業後、松下電工(現パナソニック)勤務を経て1985年にエミヤ商会へ入社、2000年に41歳で3代目の社長に就任。1991年にエミヤ、2020年にはエミヤHDへ社名を変えてホールディンググループ体制へ移行しました。

エミヤグループでは、エミヤHDがグループ経営管理・電設資材卸売・建築設計・住宅改修などを展開。エミヤエレクトロニクス、エミヤソリューション、エミヤエリアパートナーズ、北陽電材、三和商事の5社が電設資材卸売などを展開しており、エミヤライフケアは介護用品の販売・レンタル、介護住宅改修、デイサービスなどの介護事業を展開しています。北陽電材と三和商事はM&Aによってグループに加わりました。

 

ジュニアボードを活用し次世代幹部候補を育成

 

堀部 エミヤグループの戦略について教えてください。

三神 戦略の核となる長期ビジョン「ビジョン2030」では、エミヤグループの永続発展の条件として「企業価値の追求」「経営者の円滑な承継」「株主の円滑な承継」を挙げています。中でも経営者の円滑な承継は、息子のいない私には深刻な課題であり、「社長の候補者は社員。社員が引き継ぐ組織にする」と明文化しました。

また、「会社を分割し顧客密着の組織で企業価値を追求する。同時に経営者の育成を図る」ことと、「資本(株主)と経営の分離を図る。同族株式の整理と、役員持株会・社員持株会の発足」を目的に、ホールディング経営に移行しました。

そして、2030年に目指す最終モデルとして「永続発展の基盤確立と快適な環境づくりの地域No.1パートナー」を掲げています。永続発展を実現するために、持続可能な事業モデル・収益モデル・組織モデルを実現するサステナブル戦略を推進し、2030年には連結売上高200億円、営業利益10億円を目指します。

ビジョンの確実な達成に向け、中期経営計画を策定。2020年から2022年までの「中期経営計画2022」では経営者人材を継続的に育成し、次代の社長を社員から輩出する方針を明確化。さらに、ビジョンと連動した事業承継のタイムスケジュールを示しました。それによると、私は2026年まで社長を務めて後継者を指名し、27年以降は会長になって新社長を指導した後、早ければ2030年に退任する予定になっています(笑)。

堀部 次世代の経営者人材育成に力を注がれる発端になった出来事は何でしょうか。

三神 強烈な危機感を覚えたのは、2012年のこと。当時、役員と部長は60歳、課長の3分の2が55歳を超えており、次世代幹部候補となる若手課長や係長とは年齢が大きく離れていました。当時は中長期ビジョンがなく経営者人材の育成方針が曖昧あいまいでした。さらに、経営幹部は会社経営全体に対する意識が乏しく、会社のことが自分事になっていませんでした。

堀部 経営者人材不足はどの会社も抱えている深刻な課題です。エミヤグループの素晴らしいところは、課題に直面したとき、「仕方がない」と放り出さなかったことです。

三神 幹部と世代格差が広がった次世代幹部候補の育成には専門家の支援が必要と判断し、タナベコンサルティングに相談して「ジュニアボード」の採用を決めました。私と3名の役員がアドバイザーになり、30歳代の課長・係長を中心に15名ほどのメンバーでプロジェクトチームを結成し、手探りながら中期3カ年の経営計画を完成させました。

「こんな会社にしたい」「こんな問題がある」といったメンバーの思いが込もったプランだったので、粗さは残ったものの、私や役員のアドバイスがしっかりと反映されており、取締役会に受理されて実施することになりました。

中計完成後、メンバー全員を課長に据え、経営計画のブラッシュアップをメンバーで実施。さらに、第2次の中期3カ年経営計画も同じメンバーで策定しました。

 

ジュニアボードを通して、管理職と非管理職の中間にいる社員にマネジメントのノウハウと経営意識を持ってもらうことができ、次世代経営チームづくりは大きく前進したのです。

堀部 ジュニアボードは6、7年に及ぶ長期の取り組みになりましたが、メンバーの成長は実感されましたか。

三神 部署を横断してメンバーを選抜したので、自分の専門領域を理解してもらうために積極的なコミュニケーションを図っていました。そのような経験が、会社全体を俯瞰ふかんする経営的な視座と思考力を身に付けることにつながったと思います。

社員同士の「共育」の場、エミヤアカデミー

 

堀部 エミヤグループのホールディングス化に伴って事業会社が設立されました。それを率いる社長の育成に対する取り組みをお聞かせください。

三神 ホールディングス化によってエミヤエレクトロニクス、エミヤソリューション、エミヤエリアパートナーズ、エミヤライフケアという事業会社が誕生しました。これらのトップはジュニアボードのメンバーの中から選抜した精鋭で、4名とも就任時は45〜49歳くらいの若手社長です。

新社長の育成方針は「手を放して目を離さない」。エミヤのグループ会議体系を確立してエミヤHDの取締役会の直下に、各事業会社の社長と執行役員や部長クラスを集めた「グループ責任者会議」を設置。月2回会議を行い、業績予測をはじめ社内規定や課長以上の人事などを徹底的に討論することで、実務を通した社長の成長を促しています。

 

また、私が従来持っていた権限を事業会社の社長へ移譲し、責任を持たせるための職務権限規定などもグループ責任者会議で策定しました。

堀部 「生きた課題を学ぶ場」を提供されています。次に人事制度に対する取り組みの実例を教えてください。

三神 職能資格制度を基にした人事制度を構築しています。求める「人財」像を定義した「職能資格」、役割・職務と成果・生産性とのギャップを明確にして共有する「目標面接」、上司や社員同士が連携して取り組む「能力開発」、そして「人事考課・賃金処遇」が全て連動する仕組みです。

能力開発には10段階の資格等級を設定し、等級ごとに習得すべき職能と受講すべき研修を掲げています。例えば、主任より上の等級には「部下・後輩を育てる」という職能を入れるなど、等級別に評価基準を整備することで実務を通して継続的な育成を図っています。

堀部 能力開発に関する新しい取り組みを紹介してください。

三神 当社は充実した階層別研修を持っていると自負していますが、職種別研修は実施しておらず、それが長年の課題でした。先輩の持つ豊富で高度な業務のノウハウを継続的に伝承できたら、生産性は間違いなく向上します。しかし、先輩から後輩への一方通行の指導ではなく、社員同士が教え合い、学び合い、高め合う「共育」の場をつくりたかったのです。

そんな思いをタナベコンサルティングに伝えたところ、社員同士が教え合って業務ノウハウを高める企業内大学を提案され、設立に着手しました。係長クラスを中心としたプロジェクトチームで準備を進め、2024年5月に企業内大学「エミヤアカデミー」を開校。講師も社員が担当しています。

現在は、営業職を中心にした数コマのカリキュラムを提供しながら新しいカリキュラムを次々に開講させている段階です。今後は受講対象者や支援メニューを増やし、人事トータルシステムと連動させながらアカデミー活動を続けていきます。業績や生産性の向上はもちろん、生きがいや働きがいにもつながる仕組みにしたいと思っています。

ビジョン2030の達成を目指して

 

堀部 最後に今後の展望をお聞かせください。

三神 長期ビジョン「ビジョン2030」をぜひ達成したいですね。DX戦略はピッチを上げて推進しなければなりませんし、M&Aも少々方向転換する必要があります。また、エミヤHDは事業会社の成長を促進するサポート機能の充実に取り組まなければなりません。人材育成に関しては、エミヤアカデミーのカリキュラムを充実させて持続的な発展を図ります。また担当部署として2025年4月に「人財課」を設立し、人事関係の業務を強力かつ広範囲に推進します。

エミヤHDの社長交代に関しては、ビジョン2030の経過を踏まえて熟考していきます。エミヤHD役員と事業会社社長の育成に関しては、不況脱出やM&A、新規事業開発、不動産の活用・事業化などを経験して自信を付けてもらいたいですね。また、2028年からはビジョン2030に代わる長期ビジョンの策定にも力を注いでほしいと思います。

さらに「次の次」の幹部育成に関しては、戦略策定ジュニアボードなどを活用して課長・係長クラスの育成に取り組みます。

堀部 ビジョン2030を達成するための取り組みの中に、次世代経営者人材育成の推進策を盛り込み、実践されるのですね。素晴らしい取り組みだと思います。

 

エミヤホールディングス 代表取締役社長 三神 司(みかみ つかさ)氏
エミヤホールディングス 代表取締役社長 三神 司(みかみ つかさ)氏
1959年北海道札幌市生まれ。1982年東海大学工学部航空宇宙学科卒業後、同年松下電工(現パナソニック)入社。1985年エミヤ商会入社。2000年エミヤホールディングス代表取締役社長(3代目)。北海道電気資材卸業協同組合理事長、全日本電設資材卸業協同組合連合会常任理事を歴任。

 

(株)エミヤホールディングス

  • 所在地 : 北海道札幌市白石区流通センター7-8-1
  • 創業 : 1926年
  • 代表者 : 代表取締役社長 三神 司
  • 売上高 : 126億円(連結、2024年3月期)
  • 従業員数 : 181名(連結、2024年3月時点)

 

PROFILE
著者画像
堀部 諒太
RYOTA HORIBE
タナベコンサルティング
HR&人材育成 ゼネラルパートナー
人材業界で営業・マネジメントに従事後、当社に入社。建設・製造業界を中心に、グループ経営システム構築、人事制度構築、社内大学づくりなどのコンサルティングを幅広く展開。クライアントと一体となった顧客密着でのコンサルティング展開でクライアント企業の人材を成長させている成果に対し、高い評価と信頼を得ている。