その他 2024.11.01

建設業の働き方をDXで多様に 西松建設


2024年に創業150周年を迎える西松建設
出所 : 西松建設ホームページ

現場・ワークスタイル・ビジネスを変革するさまざまなDXプロジェクトを立ち上げ、持続可能な社会づくりを推進する西松建設。デジタル技術を駆使して建設業特有の課題を乗り超え、働き方の多様性を高める挑戦を続けている。

 

まずは夢物語を描くことから

2024年に創業150周年を迎える西松建設は、ダム・トンネル・道路・物流倉庫・オフィスビルなど、日本社会を支える重要なインフラ整備を数多く手掛けている。2023年に長期ビジョンを「西松-Vision 2030」に刷新。土木事業・建築事業に加え、活力あふれる生活空間をスピーディーに創出するアセットバリューアッド事業や、産官学民連携による環境にやさしいサステナブルなまちづくりを進める地域環境ソリューション事業にも注力し、「社会基盤整備」から「社会機能の再構築」へと価値共創活動の領域を拡大している。

その長期ビジョンをデジタルの観点で支えるのが、「西松DXビジョン」である。次の150年も社会に貢献し続けるには、「きつい」「危険」「汚い」「長時間労働」といった建設業の課題を克服し、「働いてみたい」「ずっと働き続けたい」と思える魅力的な職場環境に変えなければならない。

そうした強い問題意識のもと、同社は2022年7月に経済産業省が定めるDX認定事業者の認定を取得。全社一丸となってDX戦略に基づく「働き方改革」に乗り出した。ビジョン策定に当たったDX戦略室DX企画部長の増田友徳氏は次のように語る。

「今ある業務を減らす・止めるという後ろ向きの発想ではなく、『将来こういう働き方ができたら、もっとワクワクするよね!』というゴールからのバックキャスティングで議論しました。まずは夢物語でも構わないから、モチベーションが上がるような建設業の未来像を描きたいと思ったのです」

データ収集、活用による業務DX

1枚のイラスト(27ページ)で表現された西松DXビジョンには、現場・ワークスタイル・ビジネスを象徴する3本の木が、業務データ・ナレッジデータ・技術データを“栄養素”として成長する未来像が描かれている。スマート現場の設計・計画DXの取り組みとして、コンピューターに設計のイメージや要件を入力することで自動的に複数のデザイン案を生成する「ジェネレーティブデザイン」や、トンネル工事の遠隔化・自動化など施工DXの取り組みが挙げられる。これは、現場のあらゆる情報をIoTセンサーなどで収集し、デジタル空間にリアルに近い現場を再現する技術で、現場の施工管理を行うというものである。

ワークスタイルのDXについて、増田氏は次のように話す。

「これまでの建設業は、一品受注生産・現地屋外生産・労働集約型生産で、効率を上げるのは至難の業でした。その事業特性に引きずられて、外部からの影響を受けずに価値観がガラパゴス化していると感じています。実業務においても、会議が多い、手続き・捺印・資料作成などの業務が多い、業務進捗しんちょくが属人的で分からないといったワークスタイルやマネジメントの課題や、業務プロセスが標準化されていない、判断が属人的、個人の知識や経験が継承されていないといった課題が見過ごされてきてしまったのです。当社では、これらをDXで解決しようと試みています」

最大のポイントは、勘と経験による企画から脱却し、「データ活用によるDX」へシフトすることだ。

同社ではまず、「データドリブンにプラン・プロセスをマネジメントし、事業運営の効率化・高度化に繋げていく」という業務DX方針を決定。エクセルで属人的に行われていた計画立案・予実管理をBIとCPM(企業業績管理)が一体化したツールに集約し、過去のデータに基づいて適切なプランに加筆修正される仕組みの構築を進めている。

また、営業・設計・計画・積算・業績管理・技術開発・アフターサービスなど一連の業務プロセス情報をクラウドベースのSFA(営業支援)・CRM(顧客関係管理)ツールを拡大活用して一元管理し、意思決定者やプロセスの実行者が必要十分なデータをリアルタイムに確認できる環境の整備も進めている。

ほかにも、文書生成AIを導入し、積極的に活用している。現在社内に展開しているのは、クラウドストレージサービスに格納している社内文書を、オープンAIが開発した人工知能チャットボット(自動会話プログラム)「ChatGPT」で検索するシステムだ。「〇〇に関する社内規定を教えて」という質問を入力すると、適切な文書を抽出、要約して教えてくれる。

また、同じ文書生成AIを活用した技術提案書作成支援ツールも、実用化に向けて検証中だ。施工に関する課題や要望を入力すると、社内の技術データを検索し、課題解決につながる提案をしてくれるという。最終的には人間が修正するものの、短時間で膨大なナレッジを検索でき、新しい視点でのより良い提案や作成時間の削減が期待されている。

※ ビジネスインテリジェンスの略称。データ収集、分析による経営の意思決定をサポートするツール

長期ビジョン「西松-Vision 2030」の実現をデジタルの観点から貢献する「西松DXビジョン」を策定。「私達は、デジタルで空間をイノベーションします」という方針のもとDXを推進している
出所 : 西松建設ホームページ