女性の管理職比率は40%、取締役は45.5%に
「世界で勝てる日本発のグローバルビューティーカンパニー」を目指す資生堂が、2030年ビジョン「PERSONAL BEAUTY WELLNESS COMPANY」でDE&I(ダイバーシティー・エクイティー&インクルージョン)を経営戦略の柱に位置付ける理由は、極めてシンプルだ。
性別や年齢、国籍を問わず、社員一人一人の異なる価値観を尊重し合い共感しながら、多様な知の融合によりシナジーを発揮し、イノベーションを創出。多様な人材が活躍できる企業として、社員の自己実現と企業成長を実現し続ける企業風土を醸成するためである。戦略アクションとしては「ジェンダー平等」「美の力によるエンパワーメント」の2つを定めている。
中でも、グループ全社員の80%超を占める女性社員の活躍を積極的に推進し、女性管理職比率は約100カ国・地域に広がるグローバルグループで58.8%、国内グループで40.0%(2024年1月1日現在)と、日本政府が達成を目指す30%を上回っている。また、取締役会の女性比率は、2024年4月現在で45.5%であり、2030年までに国内全階層の男女比率を、ジェンダーギャップ解消の象徴として50:50にすることを目指している。
女性活躍で日本社会をリードする同社には、1980年代からいち早く多様な働き方の環境を整備。1990年代には「育児・介護休業法」の施行に先駆け、育児のための休業制度や短時間勤務制度など、女性のライフイベントを支援する新制度を導入する。
2017年には、管理職としてキャリアアップを目指す女性リーダーの育成塾「NEXT LEADERSHIP SESSION for WOMEN」を開始し、同年に国内女性管理職比率30%を達成。2021 年にもコアタイムのないフレックスタイム制度に改定し、オフィス&リモートワークを柔軟に組み合わせてシナジーを最大化する「資生堂ハイブリッドワークスタイル」が導入された。
女性活躍推進の成果は、価値を創造する「人」を最も重要な資本と考える「PEOPLE FIRST」で、手厚い投資を続けることから生まれている。
DE&Iによる女性活躍の方向性を明確に示す人材戦略では、CPO(チーフ・ピープル・オフィサー)を配置し、社員一人一人が持続可能なエンゲージメントを築き、一流の品質をアウトプットし続ける「Beauty Innovation Atelier」の職場環境・文化の創造を目指す。適所適材のジョブ型人事制度などを導入し、多様な社員がその能力を発揮し主体的にキャリアを構築する「女性活躍の3ステップ」を可視化している。(【図表】)
【図表】女性活躍の3ステップ
出所 : 資生堂のホームページを基にタナベコンサルティング戦略総合研究所作成
2017年の開講から7年間で延べ266名が参加したNEXT LEADERSHIP SESSION for WOMENは、管理職・部門長・幹部候補の3コースに対象を拡大。女性社員がマネジメントスキルを学び、自分らしいリーダーシップを発見し、より大きな影響力を発揮する自信と覚悟を持つプログラムで、研修後に88%以上が昇格意欲を持ち、114名が昇格を果たした。
2020年には、女性役員と女性社員が直接対話しリーダー像を描くメンタリングプログラム「Speak Jam」を始動。セールス・生産・R&Dなど多様な部門から、4年間に延べ165名の女性社員が参加した。ラグジュアリー化粧品のグローバルブランド「クレ・ド・ポー ボーテ」でも、2019年から女性のエンパワーメント支援教育を独自に実施している。
女性のライフイベントを支援する諸制度も充実し、進化を遂げている。子育て支援では、企業が主体的に社会と連携し、子育て環境を改善することを目指して、2017年に100%子会社のKODOMOLOGYを設立し、保育事業に進出。事業所内保育所「カンガルーム」を開設し、育児のため短時間勤務の美容職社員の代替要員制度「カンガルースタッフ制」も導入した。国内グループの育児休業からの復職率は92.3%(2023年)と高水準を維持している。
2023年には、乳幼児から小学生までを対象とした子育て支援サービス「KANGAROOM+」(カンガルームプラス)を開始。生後3カ月未満の子どもを持つ社員を対象に、保育士が自宅を訪問する家事や育児の「産後サポートサービス」を、自社と提携企業の社員に提供している。
東京大学と共同研究「資生堂DE&Iラボ」を開設
資生堂は女性活躍推進のリーディングカンパニーとして、広く日本企業・社会にも変革を起こす多様な活動を展開している。
DE&Iの実現による多様な人材の活躍が、企業価値・業績の向上につながることを東京大学と共同研究・検証する「資生堂DE&Iラボ」を開設。持てる力を発揮するエンパワーメントや異なる価値観がイノベーションを生むプロセスなど、ラボで得た知見を社内外に情報発信している。
また、多様性社会の実現に向け、同社の元代表取締役会長である魚谷雅彦氏は経団連のダイバーシティー推進委員長を務め、日本企業の女性役員比率向上を目指す「30% Club Japan※」会長としてTOPIX 100企業など34社で構成する「TOPIX社長会」を運営。参加企業の女性役員比率は、2023年末現在、国内上場企業の平均の2倍近い23%まで上昇し、女性は不向きとされた工場長などの職務登用や意思決定への参画が進んでいる。女性活躍の体現者である社内女性リーダーも、国際機関や企業、地方自治体と連携する講演活動や自社メディアで、自らの実体験を社外に発信する。
社内推進にとどまらない社会への発信は、女性の経済的自立と、意思決定機関への参画が当たり前になる公正な機会づくりや、一人一人が自分らしく生きられる社会の実現に貢献。また、投資家の期待に応える方向性(戦略)や実績(現在地)で、自社の未来像を示すブランディングにもつながっている。国内全階層の女性比率50%の目標も「グローバルカンパニーとしての水準」として、投資家から高評価を得ている。
※ 30% Club Japan イギリス発祥で意思決定機関における健全なジェンダーバランスを目指すグローバル組織。日本では2030年をめどにTOPIX100企業で女性役員比率30%達成を目標に発足
(株)資生堂
- 所在地 : 東京都中央区銀座7-5-5
- 設立 : 1927年
- 代表者 : 代表執行役 社長CEO 藤原 憲太郎
- 売上高 : 9370億円(連結、2023年12月期)
- 従業員数 : 3万540名(連結、2023年12月末現在)