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モデル企業
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【企業事例】優れた経営戦略を実践する企業の成功ストーリーを紹介します。
モデル企業 2025.03.03

男女問わず社会貢献の志を果たせる職場に 住友商事パワー&モビリティ

自動車・鉄道・電力など国内外の重要な社会インフラを幅広いソリューションで支えている機電の総合商社、住友商事パワー&モビリティ。自動車関連商品の輸出入から社会インフラなどの国家プロジェクトまでグローバルに手掛ける同社は、長年かけて専門性を高め、社会に貢献したいと考える社員が、性別にかかわらず実力を発揮できるよう人事体制の整備を強化している。

 


同社の社会インフラプロジェクト本部では、住友商事グループで古くから手掛けてきた鉄道車両輸出プロジェクトに加え、1980年代からフィリピンやインドネシア、台湾、タイ、ベトナムなどのアジア諸国および米国に向けた鉄道システム輸出プロジェクトに注力。交通インフラの発展に貢献している

 

 

総合職への男女共同参画は30年越しの課題

住友商事パワー&モビリティは、1969年に創業した機電分野に特化した総合商社であり、住友商事の100%子会社である。自動車関連部品の輸出入や、電力・社会インフラなどのプロジェクト開発および履行を数多く手掛け、世界130カ国に展開してきた。

創業50周年の節目を迎えた2019年には、旧社名(住商機電貿易)から現在の社名に変更。「POWER TO THE FRONTIER 世界の端まで届けたい、私達のパワーを。」というコーポレートスローガンを掲げて、「モビリティ」「エネルギー」「インフラ」の3領域を軸に事業を展開している。

同社にとって「女性活躍」は、安易に用いることのできる言葉ではない。特に、欧米・アジアのみならず中近東・アフリカも含めて海外への出張・駐在を求められる管理職や総合職は、長きにわたり男性が中心となって役割を果たしてきた。

こと日本社会においては、家事・育児・介護などを女性が一身に担うケースが圧倒的に多く、「家庭」と「職場」の空間的な隔たりが、管理職・総合職への女性の参画を阻んできたのである。

しかし、同社において管理職・総合職の女性比率だけを切り取って「これまでは女性が『活躍』できていなかった」と振り返るのは性急だろう。活躍とは、表舞台での活躍だけを意味する言葉ではない。同社では、高い語学力や法制度・財務・会計などの専門知識を要する貿易実務を一般職(スタッフ職)が担っており、従来はその9割以上を女性が占めていた。

「当社は性別や職掌にかかわらず、全ての社員が働きやすさと働きがいを感じられることを重視してきました。それは今後も変わりません」と、人事部長の平賀雄幸氏は語る。

同社では、1991年に内規に基づく初の職掌転換があったものの、制度としては2002年に職掌転換制度が設けられ、一般職から総合職への職掌転換が可能となった。

「初の職掌転換となった1991年以降、25名の女性が一般職から総合職への転換を希望し、その後、管理職になった女性社員も数多く存在します。中には、執行役員に就任した女性社員もいます。

ただ、家庭の事情で出張できないことや、海外出張地の宗教が理由でやむなく女性の出張を見送ることもあり、最終的には現場の管理職に負担がかかってしまうことも少なくありませんでした」(平賀氏)

しかし、社会全体としては、職場におけるジェンダーギャップの解消を求める潮流が2000年代に入ってさらに強まった。2002年には厚生労働省の「男女間の賃金格差に関する問題研究会」が「コース別雇用管理制度(総合職に男性のみ、一般職に女性のみを採用する制度など)が男女間賃金格差を生み出している面があるため、雇用管理を点検すべき」と報告。一般職から総合職へのコース転換制度を創設する動きは、大企業を中心に全国へと広がっていった。

同社も2002年に女性総合職の経験者採用を開始し、2016年には女性総合職の新卒採用をスタート。それと並行して、産前産後休暇や産後パパ休暇、育児・介護のための短時間勤務、スーパーフレックスタイム、テレワークなど、個人の状況に応じて柔軟に働くことができる制度を段階的に拡充していった。

その結果、2015年10月に厚生労働大臣から「くるみん」認定を、2023年7月には「プラチナくるみん」認定を受けている。

 

理想は自律的にキャリアを描ける職場

住友商事パワー&モビリティの人事部によると、女性活躍の取り組みは、指標の数値目標ありきではなく、あくまでも現場社員の「働きやすさ」と「働きがい」の実感を重視しているという。

「マネジメントのハードルは、どんどん上がっていると感じています。人材の流動性はこれからもっと高まるでしょうが、当社が大切にしている高い専門性は、腰を据えて知識や経験を蓄えなければ磨きにくい。

だからこそ、社員一人一人の知識や経験を、自分らしく伸ばしていける職場環境づくりが目下の課題です」(平賀氏)

今後の人事政策で最も重要なキーワードは「キャリア自律」であると、平賀氏は続ける。

「当社への入社を希望する人の多くは、性別にかかわらず『社会に広く貢献したい』という強い思いを持っています。

その一方で、2022年に行った女性活躍に関する社内アンケート調査の結果では、『管理職になることには魅力を感じない』『ワーク・ライフ・バランスが大切なので、周りの管理職や総合職のような働き方はできない』といった声も少なからず寄せられました」(平賀氏)

そこで同社は、全社員が毎年1回、自分のキャリアを棚卸しする「キャリア・アセスメント制度」を2022年に導入。これまで培ってきた知識や経験を今後どのように生かしていきたいか、会社へ自己申告できるようにした。

また、管理職を「高度な専門性を磨くスペシャリスト」と、「チームを管理するゼネラルマネージャー」の2つに分けて同等の待遇とし、各自が適性や希望に合わせてキャリアを描けるようにもした。

加えて、女性活躍の基礎となる知識を管理職に学んでもらう研修を実施し、部下に対して適切なフォローができる職場環境づくりを推進。そのほか、活躍している女性社員にインタビューを行い、その内容を社内イントラネットに掲載してロールモデルを共有したり、女性活躍に関する座談会を開催して成功事例や課題感を発信したりすることにより、社員の意識向上を促進している。

こうした一連の取り組みにより、同社の女性管理職・総合職の割合は、2023年の19.7%から、2024年現在で全体の27.9%へ大幅に向上(【図表】)。また、平均勤続年数は、男性社員15年に対して女性社員14年と、ほぼ同等になった。

さらに、2024年には入社4年目の女性社員がトレーニーとして海外駐在をしているという。

 

【図表】管理職・総合職の男女比


出所 : 住友商事パワー&モビリティのホームページよりタナベコンサルティング戦略総合研究所作成


 

 

女性特有の悩みを相談しやすい環境づくりへ

同社は住友商事グループの一員として、持続可能な未来を築くために「DE&I」つまりダイバーシティー(Diversity)、エクイティー(Equity)、インクルージョン(Inclusion)を重視し、中でも「女性の活躍推進」をDE&Iの重要項目として位置付けている。その上で今最も注力しているのが「心理的安全性の担保」である。

2023年には、タナベコンサルティンググループのSurpassが実施する「幹部・管理職向けリーダーズトレーニング研修」を導入。平賀氏を含む50名の管理職がオンラインで2日間・計4時間の講義を受けた。

1日目は、ダイバーシティーの基礎である女性活躍の現状と推進のメリットや、生物学的な男女のホルモンに違いに関する基礎知識を学習。2日目は、女性活躍を目的としたリーダーシップの発揮の仕方やアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)について、ディスカッションを通じて学びを深めた。

「女性は、産前産後に限らず、日常的に健康課題を抱えながら働いていることを再認識しました。これまでは漠然としか理解できていませんでしたが、生物学的な知見から学べる大変貴重な機会でした。

ただ、一歩間違えるとハラスメントにつながってしまうデリケートな側面もありますので、具体的にどのように声をかけたりサポートしたりすれば良いのか、難しさも感じます。今後は、女性特有の悩みについて安心して相談できる環境づくりに取り組んでいかなければなりません」(平賀氏)

2025年4月には、女性社員を対象に、キャリア支援や意識改革を目的としたメンター制度を整備する。現在、経験豊富な5名の女性社員がメンターとして社員に寄り添う専門的なトレーニングを受けている段階だ。

「時間はかかると思いますが、3年、5年と継続的に取り組む中で、例えば女性が全世界どこにでも出張や駐在に行くことが『普通』と感じられる世界になっていくでしょう。将来的には『女性活躍』という言葉がなくなる会社をつくっていかなければなりません」(平賀氏)

同社は近年、住友商事と連携して、ディーゼルバスを電気(EV)バスに改造する「レトロフィットEVバス」の国内展開を本格化させるなど、日本国内の事業拡大にも力を入れている。多種多様な視点が生かされることで、社会課題を解決する新たなソリューションが生み出されるかもしれない。

 


住友商事パワー&モビリティ 人事部長 平賀 雄幸氏

 

 

 

住友商事パワー&モビリティ(株)

  • 所在地 : 東京都千代田区一ツ橋1-2-2 住友商事竹橋ビル6F
  • 創業 : 1969年
  • 代表者 : 代表取締役 社長執行役員 成清 正浩
  • 売上高 : 303億円(2024年3月期)
  • 従業員数 : 294名(2024年3月現在)