全体の半分を占める女性社員活躍が成長の鍵
「愛は食卓にある。」をコーポレートメッセージに掲げ、「おいしさ」「やさしさ」「ユニークさ」に磨きをかけて世界の食と健康に貢献するグループを目指すキユーピー。社是である「楽業偕悦」は、「高い志を持った仲間とともに困難や苦しみを分かち合いながら、ことを成し遂げ悦びをともにする」という意味が込められており、その考え方を軸に多様な視点やスキル、経験を持つ従業員がそれぞれの強みを伸ばしながら力を発揮し、独自のダイバーシティーを確立している。
同社にとってDE&I(ダイバーシティー・エクイティー&インクルージョン)は「成長戦略の土台」であり、社員それぞれの属性や能力の多様性を生かすことで、グループ全体の成長と、社会に対する価値創出や貢献を目指している。
中でも社員の約半数を占める女性の活用については、1990年ごろに女性の総合職採用制度が始まったのをきっかけに、一般職から総合職への転換制度もスタートするなど、女性が働きやすい環境や制度の整備が進められてきた。
さらに、産前産後休暇および育児休業取得者の増加が顕著となった2013年からは、全社的に仕事と育児の両立を支援するための制度改革を本格化。人事制度や労務制度を整えるだけでなく、経営アドバイザリーボードや社外取締役、監査役に外部の女性有識者を積極的に登用することでトップの意識改革を促し、マネジメントや風土の変革に向けて取り組んできた。
経営層へアプローチする半面、全社的な女性活躍に向けて着手したのがボトムアップの制度改革である。具体的には、工場において産前産後休業と育児休業の取得経験のある社員を中心にプロジェクトを立ち上げ、育児と仕事の両立を可能にする制度の在り方を検討し拡充していった。
さらに、人生における重要なライフイベントが昇格や待遇面でマイナスに働かないよう、管理職や社員向け研修の実施や、育児休業取得前の直近の考課を採用する評価制度の導入など、復帰する上でネックとなる課題を1つずつ解決していったのだ。
その結果、現在では転居を伴わない総合職制度や、配偶者が転勤になった場合に同じ勤務地の事業所などに異動できる配偶者異動制度、コアタイムのないフレックス制度に加えて、マタニティー特別休暇制度やマタニティー勤務時間短縮制度、最長で2歳に達するまで取得可能な育児休業制度、育児中の通勤時間短縮制度(小学4年生7月末まで)など、きめ細かな支援が整備されている。
特筆したいのは、育児休業後を見据えた支援の中には精神面のサポートも含まれていることだ。一般的に、育児休業中は孤独感や復職への不安を抱える社員は少なくないが、キユーピーの場合、育児休業中の社員向けに「働くママとパパの育児支援サイト」を開設しており、定期的に会社の情報を発信。さらに、復職前には上司との面談を実施することで、復職後の働き方やキャリア形成について共有するほか、復職後の活躍への期待感を伝えることで不安を取り除き、前向きな気持ちで仕事に向き合えるよう配慮されている。
このような社員に寄り添った支援の積み重ねによって、毎年多くの女性社員が育児休業を取得。男性社員についても育児休業取得率は高い水準で推移している。加えて、社外からも同社の実績や取り組みは評価されており、厚生労働大臣から「子育てサポート企業」の認定(くるみん認定)をこれまで6回獲得。さらに、2018年5月には、継続的に高い水準で子育てサポートを行っていることが評価され、「プラチナくるみん」に認定されている。
【図表】育児休業を取得した従業員の推移(人)
出所 : キユーピーコーポレートサイトよりタナベコンサルティング戦略総合研究所作成
多様な人材が活躍できる環境づくりに注力
現在、キユーピー(単体)の女性管理職比率は14.5%(2023年度)。キユーピーグループも11.4%まで上がっている。民間信用調査会社の帝国データバンクが実施した『女性登用に対する企業の意識調査(2024年)』によれば、2024年の女性管理職割合(課長職以上)は10.9%という結果であり、平均を上回る水準で女性活用が進んでいることが分かる。
しかし、同社はこの数字に満足しているわけではない。2030年には女性管理職比率を30%まで引き上げることを目標としており、経営層だけでなく現場においても、意欲のある女性が活躍できる環境づくりへの機運は一層高まっている。
その一例が、グループの女性管理職のための勉強会だ。この勉強会はグループの女性管理職自身が事務局を務めており、経営層や外部識者を招いた講義や必要な知識を学ぶ勉強会を定期的に開催している。参加メンバーは学びを通して、管理職としての在りたい姿やそこに至るステップを明確化したり、自分なりのマネジメントの在り方を模索したりしながら行動につなげていく。
また、まだ少数派である女性管理職同士が勉強会の中でディスカッションを重ねるうちに、部署や会社を超えたつながりが生まれていることも大きな成果だ。さらに、2023年にはプレ管理職となる女性社員と先輩である女性管理職との交流がスタート。勉強会へ招待したり、さまざまな交流の機会をつくったりすることで、グループの女性社員と先輩社員の輪が広がりつつある。トップダウンで制度をつくるだけでなく、ボトムアップで女性管理職が育ちやすい環境づくりがなされている点が、キユーピーの特長と言えるだろう。
会社や社員同士の理解や対話を大切にする。これはキユーピーが企業風土づくりにおいて大事にしている視点である。同社が目指すのは、性別や年代、能力、障がいの有無に関係なく、多様な人材が活躍できる組織だ。社員一人一人が持つさまざまな視点や能力、スキルが新たな価値を生み出し、グループ全体の総合力向上させること。その実現に向けて、グループが一体となったDE&I推進を通して、社員それぞれの個性や成長する意欲、能力が最大限発揮できる企業風土の醸成を目指していく。
キユーピー(株)
- 所在地 : 東京都渋谷区渋谷1-4-13
- 設立 : 1919年
- 代表者 : 取締役会長 中島 周、代表取締役社長執行役員 髙宮 満
- 売上高 : 4839億8500万円(連結、2024年11月期)
- 従業員数 : 1万517名(連結、2024年11月現在)