秘書・人事・経理などバックオフィス業務を代行サポートするリモートアシスタントサービス「CASTER BIZ」シリーズ
「リモートワークが世の中に強く認知され、当たり前になっていく流れづくりに影響を与え、微力ながら貢献することができたと思っています」
リモートアシスタントサービスの先駆者として、2024年に10周年を迎えた創業からの歩みをそう振り返るのは、キャスターの代表取締役である中川祥太氏だ。秘書・人事・経理などバックオフィス業務を代行サポートするリモートアシスタントサービス「CASTER BIZ」シリーズは、導入企業が累計4800社を超え、売上高も50億円目前へと着実に成長を続けている。
リモートワークで働く人が仕事に見合う価値を認められず、適正な報酬も得られない。そんな働き方の現実を変えるため、中川氏はリモートワークで働く人々を社員として正規雇用するキャスターを起業した。
「当時は、『リモートワーカーをマネジメントできない』というバイアスがかかっていました。『真面目に仕事に向き合っているかどうかは、直接顔を合わせなければ分からない』という信念を持つ方が多く、その結果として、『リモートワーカーは正規雇用できないから業務委託にしよう』『委託なら最低賃金は関係ないよね』と都合良く考える、非常にゆがんだ市場が形成されていました。
当社がビジネスを始めてから、そうした市場は崩壊して適正化が進み、ゆがみにつけ込んだ人材ビジネスの事業者も姿を消しました」(中川氏)
「0から1へ」と挑んだ起業から、社会の公器になるIPOに「約10年かけて、ようやくたどり着いた」(中川氏)が、それはゴールではなくマイルストーンだ。そこからさらに「仕事とはこうあるべき」ととらわれてきた「労働におけるバイアス」を打破する挑戦が続いている。
オンラインのアシスタントサービスを提供する同社の組織体制は、フルリモートワークで働く従業員800名以上で機能している。
「フルリモートワークでバックオフィス人材を直接雇用し、継続的に求人をかけているのは、国内では当社だけでしょう。
育児と介護のダブルケアやパートナーの転勤など、リモートワーク以外では自分のキャリアが続けられない環境下で、自らが望む働き方を実現する選択肢として入社する社員が、多くの比率を占めています」(中川氏)
多い時には月間の応募者が3000名を超え、競争倍率はかなり高い。全国どこにいても働けるため、優れた人材が集まるのはフルリモートワークの強みだ。日常業務や働き方に関する社員の要望は人事部門が丁寧に吸い上げ、副業やベビーシッター制度の導入など的確に対応している。
一般的に、リモートワークはコミュニケーションが薄まることが問題視されがちだが、全社員にSlack(スラック)を導入。業務だけでなく、部活動や事業部間の垣根を越えるコミュニティーづくりにも活用している。
注目したいのは、部活動やコミュニティーは「制度があるからやる」のではなく、社員から自然発生的に生まれていることだ。
「こんな制度をつくろうと私から指示したことは一度もありません。人事部門が働く環境づくりのサポートをよく考えてくれて、フルリモートワークで、しかもフレックスの働き方が実現しています。
リモートワークだからと言って、組織がフィットさせるべき特別な事情は多くない。住宅手当や通勤手当がなく、社員1人当たりにかけるマネジメントのリソースを増やすこと以外は、一般的な企業と組織構造は大差ありません」(中川氏)
人事評価や報酬は、社員の約7割が生産性と連動し、優先順位を設定するタスク管理を採用。明確な数字に基づいてロジカルに決まる。残りの3割は、販売管理担当の社員が対象で、目標を設定し、実績は点数で定量化される。
「目標設定は、全社戦略に対する事業部戦略、さらにその中での部門戦略に基づくため非常にファジーなので、クリアできる目標を立てることがマネジャーの腕の見せどころです。できない目標を立てるマネジャーは優秀ではないし、その部門の社員は苦労することになります」(中川氏)
ミッションやバリューを共有する「パーパス経営」が重視される今、リモートワークで物理的な距離感を余儀なくされる社員に、どんなアプローチをしているのだろうか。
「結論として、何もしていません。なぜかと言えばとてもシンプルな話で、ミッションは会社における行動基準であり、リモートワークで働く人が、適正な報酬水準以上で安定的に働ける環境を増やしていくことだからです。それが『売り上げ増を目指す』ことに変換され、そのために何をするかは、おのずとあらゆる部門に浸透していきます」(中川氏)
【図表】キャスターとは
出所 : キャスター提供資料よりタナベコンサルティング戦略総合研究所作成