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モデル企業
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【企業事例】優れた経営戦略を実践する企業の成功ストーリーを紹介します。
モデル企業 2024.11.01

組織活性部を軸に「働き方開拓」を推進 ナカリ


星氏と組織活性部のメンバーは、各現場の役割を明確化し、目的達成までのストーリーを共有することで製造効率を高め、社員に全社視点を広めていった

 

 

 

遊ぶために、家族のために休もう

組織活性部が解決に向けて取り組んできたもう1つの課題は、「有給休暇の取りづらさ」だ。制度としては用意されていたが、以前の現場には「自己都合で3連休を取るのは御法度」という暗黙のルールがあった。

組織活性部は、中村氏の「組織づくりのために、やれることは全部やろう!」という強い思いを追い風に、途絶えてしまっていた社員旅行の復活を企画。2017年から毎年、会社の全額負担による社員旅行(行き先はグアム・国内を選択可能)が決定した。2023年の創業100周年の節目には、ハワイ旅行も実現している。

こうした中で、「全社員で旅行に参加する」という目的に向かって多能工化への挑戦がスタート。それぞれが自分の担当業務に加えて他の社員の仕事も覚え、互いに代行できる体制を整備していった。

社員旅行をモチベーションにして多能工化を実現したことにより、組織活性部のメンバーが発足当初から目指してきた「社員が喜ぶ、社員が幸せになれる会社を実現していこう」というビジョンは、社内に広く浸透し始めた。このプロジェクトが功を奏し、同社では政府の「働き方改革関連法」の施行に先立ち、余暇や家族のために気軽に有給休暇を使えるようになった。

また、稼働率の向上によって残業時間が減少。製造効率は飛躍的に向上した。現場の社員からは「仲間に甘えさせてもらうこともあるけれど、その分、他のメンバーが休みの時はカバーしたいと自然に思える」「自分のためでなく誰かのためにという気持ちを会社で学ぶことができた。仕事をするなら仲良く楽しくという気持ちは、仕事をする上で大切にしている」という声も上がっている。

「私たちの世代は、『人に頼ってはいけない』『できないと言ってはいけない』『もっと頑張りなさい』という教育を幼い頃から受けてきました。しかし、自分が幸せでなければ、人に思いやりを持つということは非常に難しいと思います。私たちが考える“いい会社”とは、一言で言えば“身内を入れたくなる会社”です。人生の中でも、会社は特に長い時間を過ごす場所。だからこそ、時代に合わせて自分たちが幸せになれる仕組みを整えていこう。それがナカリの『働き方開拓』なのです」(星氏)

 

 


創業100周年の社員旅行は、海外(ハワイ)と国内(京阪神)の2組に分かれ、日程をずらして全社員が参加

 

 

 

仮説を立て、学びと自社の接点を探る

ナカリが本社を構える宮城県加美町の高齢化率は39.3%(宮城県「高齢者人口調査結果(令和6年)」2024年3月31日現在)。同社では、「これからも地域に根差して、顧客から一番に声がかかる『ファーストコールカンパニー』を目指していくには、多様な働き方のモデルケースをつくっていくことが大切」との考えから、シニアの再就職を積極的に受け入れている。中には、70歳で新たに入社し、活躍している社員もいるという。

また、職場の誰かが子育てや介護の都合で帰宅する際には、他の社員がひと声かけて笑顔で送り出すなど、世代を超えて支え合い、安心して働ける職場づくりを進めている。

「ランチタイムには、10歳代から60歳代までの社員が3、4人のグループに分かれて楽しく学び合う『木鶏会もっけいかい』を任意参加で定期的に開催しています。人間学を学ぶ月刊誌『到知』(致知出版社)をテキストに課題記事の感想文を書き、持ち回りで発表するのですが、『美点凝視』と言って良いところを伝え合うことにより、共感的なコミュニケーションが広がっています。互いの価値観や人となり、いま抱えている課題などを理解し合う場にもなっていますね」(星氏)

組織活性部を中心とするナカリの取り組みは、中村氏が外部研修へ次世代リーダーを積極的に送り出し、参加した社員が異業種の人たちと交流する中で得た知見を現場の状況に合わせてアレンジして、丁寧に落とし込んできたものに他ならない。

「セミナーや研修の内容を、そのまま自社に当てはめられることは、まずありません。外部環境や内部環境が変われば課題も変わります。それを見逃さず、解決に向けた仮説を立てた上で、自社との接点を探るために研修に参加する。そのような学びのサイクルを大切にしています」と話す星氏。14年間、組織活性部の活動を続けてきた最大の成果は、今なお一緒に活動してくれる有志が何人もいることだと感謝の思いをかみしめる。

「会社は、社員の幸せのためにある。それが経営者を含めたステークホルダーの幸せにつながる」(ナカリ語録065)という信念の下、同社は互いの喜びや課題を自分事と捉え、新しい働き方を「開拓」し続ける方針だ。

 

 

働く環境の“体温”を上げる方法をビジュアルで表現(左)、100年史(中央)、ナカリ語録「伝えたい100の言葉」(右)

 

 

 

ナカリ (株)

  • 所在地 : 宮城県加美郡加美町羽場字山鳥川原9-28-4
  • 創業 : 1923年
  • 代表者 : 代表取締役社長 中村 信一郎
  • 売上高 : 150億円(グループ計、2024年7月期)
  • 従業員数 : 150名(グループ計、2024年7月現在)