8割以上がビジョン構築に課題、全社に浸透している企業は2割未満 長期ビジョン・中期経営計画に関するアンケート調査、2024年度 企業経営に関するアンケート調査
長期ビジョンとは、思い描いた未来(自社の在りたい姿やなりたい姿)を構築・明文化したものである。移り変わる時代とともに中期経営計画や単年の計画は柔軟に変更しなくてはならないが、そのような中で自社の目標や在り方という変わらぬ1本の軸(長期ビジョン)は、組織の道しるべとなる。タナベコンサルティングが行った調査を基に、企業におけるビジョン構築・浸透の実態を解説したい。
2023年9月にタナベコンサルティングが行ったアンケート調査によると、82.7%の企業が長期ビジョン構築の必要性を感じているものの、66.0%もの企業が「構築していない」と回答した。
長期ビジョンを構築している企業を対象に、構築の目的を聞いたところ(複数回答)、およそ9割の企業が「企業の将来における戦略的方向性を定める基盤とするため」と回答した。次いで「社員の一体感・モチベーションを向上させるため」が54.7%、「社員へ企業理念を浸透させるため」が54.1%あり、多くの企業では内部統制や意思統一といった目的のためにビジョンを構築することが分かった。売上規模別にビジョン構築の目的をひも解くと、売上規模が大きくなるほど、先述した3つの項目よりも「長期経営計画と連動するビジョンの構築により、収益・財務構造の変革を促すため」「ステークホルダーからの信頼を得るため」といった回答の比率が高くなる傾向があった。
なお、長期ビジョンを構築している企業では「社内全体に浸透している」と回答した企業が全体の2割未満にとどまった。このうち、「管理職まで浸透している」との回答が最多の29.6%、次いで「役員・経営幹部まで浸透している」との回答が25.2%となっている(【図表1】)。つまり、長期ビジョンを構築している8割以上の企業において、一般職にまで長期ビジョンが浸透しておらず、運用・推進に課題があることが分かった。ボトルネックになっている個所を早急にあぶり出す必要があるだろう。
【図表1】 長期ビジョンの浸透状況
※四捨五入の関係上、合計値は必ずしも100%にならない
出所 : タナベコンサルティング「長期ビジョン・中期経営計画に関するアンケート(2023年10月)」より作成
さらに、タナベコンサルティングの「経営戦略セミナー2024」に参加した経営者、経営幹部を対象に行った「企業経営に関するアンケート」(有効回答数1070件、2023年12月調査)で、ビジョン推進・経営目標達成において自社に必要な(優先すべき)戦略を聞いたところ、「人的資本戦略」が38.1%と圧倒的に高い結果となった。次点は「ビジネスモデル再構築」(25.4%)、僅差で「戦略的組織再編」(25.1%)、「パーパス経営」(25.0%)と続く。人的資本戦略や戦略的組織再編など、「組織能力の強化」が長期的な重要テーマとなっていることが分かる。
一方で、2022年までは高い意識を持たれていた「ESG・SDGs」は、優先順位としては最下位となっており、トレンドの収束が見て取れた。経済環境の変化によって、まずは自社内の見直し・整備を優先していくことが求められている。(【図表2】)
【図表2】 ビジョン推進・経営目標達成において自社に必要な(優先すべき)戦略 (複数回答)
出所 : タナベコンサルティング戦略総合研究所
【図表2】の回答率が20%以上の項目を年商規模別にみると、規模によって大きな差はないものの、300億円以上の企業は「ビジネスモデル再構築」や「デジタル・DX戦略」など、攻めの戦略の必要性を感じており、100億~300億円未満の企業は、「戦略的組織再編」「パーパス経営」と、組織的な強化に意識が向いている。50億~100億円未満の企業は「人的資本戦略」が最も高く、50億円未満の企業は「ブランディング・PR戦略」の比率が他よりも高い結果となった。(【図表3】)
【図表3】 ビジョン推進・経営目標達成において自社に必要な(優先すべき)戦略 (複数回答)
※四捨五入の関係上、合計値は必ずしも100%にならない
出所 : タナベコンサルティング戦略総合研究所
また、業種別にみると、最も「人的資本戦略」の必要性を感じているのは、「2024年問題」に直面している住宅・建設業であり、次点は情報通信業だった。情報通信業は、「ビジネスモデル再構築」「パーパス経営」「ブランディング・PR戦略」についても他業種と比較して最も高かった。「デジタル・DX戦略」、「戦略的組織再編」に関しては製造業が最も高い結果となり、業界によって攻め・守りの戦略ウエートが分かれる形となった。(【図表3】)