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モデル企業

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【企業事例】優れた経営戦略を実践する企業の成功ストーリーを紹介します。
モデル企業 2024.08.01

会社の未来像が「自分事」になる研修プログラム

ハピネット


1年目の「ビジョン浸透プログラム」担当者。プログラムは会社側からの一方的な発信にならないよう「コミュニケーション」を重視したという

 

10年後の目指す姿を言語化した「長期ビジョン」を策定し、社員一人一人が「ビジョンを自分事にする」ため、具体性を高めて浸透を図っているハピネット。自社の未来像を共有し、社員がアクションを起こすための独自の研修プログラムに迫る。

 

やるべきことを社員がイメージしやすい長期ビジョンを策定

 

玩具の卸売りとして創業し、M&A戦略で事業を拡大してきたハピネット。玩具をはじめ、映像・音楽コンテンツ、家庭用ビデオゲーム、カプセルトイなど、展開する各市場でトップシェアを誇る業界大手のエンタテインメント総合商社だ。

 

約四半世紀ぶりに過去最高益を記録した2022年4月、長期ビジョン(10年後の目指す姿)を策定し、自社の未来像と実現プロセスの新たな経営体系を描き出した。

 

「当社の存在意義を示すグループビジョンはすでにありましたが、社員が直近でやるべきことをイメージしやすいように、初めて長期ビジョンを定めました。今後さらに成長するための課題だった『卸からの脱却』『変化に対応する機動力』をキーワードに経営陣がディスカッションし、『世界をワクワク』『“from”ハピネット』という言葉が生まれました。メーカーの商品開発に頼りがちな卸売ビジネスから、10年先には自らサービス・コンテンツを創造・発信するクリエイティブカンパニーとしてエンタテインメント業界を盛り上げていこう、という強いメッセージです」

 

このように振り返るのは、同社の経営本部経営企画部経営企画チームの佐野詩織氏だ。実現プロセスとなる3カ年の中期ビジョン・経営計画では、具体的な事業価値の強化軸を、エンタテインメント事業(創造)とプラットフォーム事業(発信)の「デュアルエンジン」と言語化した。

 

ビジョン策定の背景にはもう1つ、2020年から社内カンパニー制を導入したことがあった。

 

「各カンパニーに権限を委譲し、迅速な事業運営を目指すためでした。ただ、独自性を高めたことにより一体感や求心力は薄れていきそうになっていました。グループビジョンは会議前にそらんじて唱和できるほど社員に浸透していますし、同じように長中期ビジョンも浸透・定着させて、より一体感を高めていく狙いがありました」(佐野氏)

 

ビジョンとは何か、誰がどう言語化するのか――。重要なだけに難しさも伴うが、グループシナジーを発揮して創造的な成長を持続するためには不可欠だった。

 

 

全社員参加の「ビジョン浸透プログラム」

 

ビジョン策定から半年後、2022年秋に始動した研修会が「ビジョン浸透プログラム」だ。紡ぎ出したビジョンが絵に描いた餅で終わらないよう、また、全社の成長力と求心力、社員のエンゲージメントを高めるため、全拠点(東京本社、大阪・名古屋・福岡・札幌)で全37回、約5カ月間かけて実施。事務局は経営企画と人材開発の合同チームで構成した。

 

「社員一人一人がビジョンを自分事として捉えられるよう、策定の経緯や背景を丁寧に説明しながら、同時に社員自身の強みや弱みを自己分析する時間も取ります。個人のやりたいこと、できることと会社の方向性をどう合わせて、何に取り組んでいくかを考えるプログラムとしました」

 

そう語るのは、事務局としてプロジェクトの企画から運営まで携わる経営本部経営企画部経営企画チームの吉野美玲氏だ。全社員907名(2023年当時)を対象に対面で実施し、誰もが自由に発言しやすいように、グループ分けは所属カンパニーや部門、世代をあえてシャッフルし、同じテーブルで互いに「初めまして!」と自己紹介からスタートした。ワールド・カフェを取り入れるなど、横のつながりが生まれコミュニケーションが深まる工夫を凝らしたのである。

 

「頭で理解するだけでなく、浸透しやすいように手も動かしてもらおうと、自社が将来どうなっていくかを模造紙に書き込んでアウトプットするなど、グループワーク中心のプログラム内容を組みました。グループのメンバーがランダムに組まれるようにした理由は、知らない人同士が交流を深めるコミュニケーションを重視するためです。また、『普段関わらない業務を知ることで、より広い視野と自由な発想で何ができるかを考えるように』との狙いもありました」(吉野氏)

 

プロジェクトは、一般社員向け(参加805名)と管理職向け(同102名)の2種類で構成した。一般社員はビジョンを理解し、自分の業務や今後の仕事と結び付ける「自分事化」。一方、課長・部長などの管理職は、ビジョンは理解済みであることを前提に、自分のカンパニー内で推進する「浸透マネジメント」とし、それぞれに異なる取り組むべきことや役割に重きを置いた。

 

一般社員向けプロジェクトでは、自分の強みや特徴、やりたいことや譲れない思いと、ビジョンが示す価値観を掛け合わせて、どんな行動を起こしていけるかを検討。グループディスカッションを繰り返しながら「未来へのアクションプランシート」を作成した。

 

管理職向けプロジェクトでは、掲示や唱和などビジョン浸透マネジメントの他社事例を参考に、ビジョン浸透における現状課題と改善策をグループディスカッションした後、チームごとに発表し合った。

 

事務局は研修後に毎回、理解度アンケートを実施。集計結果は「ビジョンを理解できた」「プログラム全体に満足」という肯定的な回答が8割を占め、想定を上回った。

 

「ハピネットが成長企業であること、クリエイティブ機能を備えたデュアルエンジンの姿へ向かっていること、社会的な知名度や期待が高まっていること。どちらのプロジェクトにも、社員が抱く思いに共通点がありました。また、ビジョンを実現する価値観として初めて策定した『バリュー』の創造性・主体性・組織力という言葉が、『自分の行動に結び付けやすい』と感じる社員が多いことも分かりました。

 

プロジェクトには社長である榎本誠一も参加し、ビジョンに込めた思いを自らの声で届けました。社員が直接、社長の思いを聴く機会があることに、大きな意義があったと思っています」(佐野氏)

 

 


社員同士のコミュニケーションを強化し、事業への理解促進や一体感の醸成を目的として開催された「ハピフェス」における、ビデオゲーム事業のブース(上)。1年目のビジョン浸透プログラムの様子。自由闊達(かったつ)に意見を交換できるよう、異なる部署の社員同士をグループにした(下)